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第二章
15.鏡のゲート
しおりを挟むなんで目を逸らすの? 僕、どこか変だった?
「ディディ?」
僕は二人の顔を自分に向けるが、ディディは片手で目を覆い、指の隙間からチラリと熱を含んだ目を覗かせる。
「ユユが可愛すぎる。美人になったし、色気も凄いし、雰囲気が今まで以上に凄い」
「大人になったっつーか……いや、今までも大人だったんだけど。魅力増し増しで眩しい。それに、気づいてねーと思うけど、目の色が……俺達の色になってる」
え? 目の色って……青と赤になったって事?
ディアが鏡を出してきたため、僕は自分の顔を恐る恐る見てみると、左が青に右が赤のオッドアイになっていた。
しかし、それ以外はあまり変わった様子はなく、首を傾げてディディの方に鏡を向けてみるが、ディディも自分達は変わっていないと思っているようだ。
「ん? なんか……俺の髪、伸びてる気がする」
「言われてみれば、俺の髪型も変わってね? 前髪分けてなかったんだけど」
ディオはひとつに纏めていた髪が編まれており、見た感じの長さは変わっていないが、編まれた髪が変わっていないという事は、少しだけ伸びているのだろう。
そしてディアもふわふわな前髪が分かれており、大人な色気が出ているが、その髪は元に戻そうとしても戻らないようだ。
僕が変わったのは目だけ? 髪も伸びてないし、顔も変わってないもんね。
「ユユは獣化した方が変わってるよ。鏡持っててあげるから見てごらん」
僕はディオに言われた通り、獣化して鏡を覗いてみた。
だが、前までの獣化した僕をほとんど見てこなかった僕には、何が変わったのか分からず首を傾げる。
僕が首を傾げれば、当然鏡の中の僕も首を傾げるため、もう一度反対側に首を傾げれば、鏡の中の僕も同じ行動をし、なぜか楽しくなってしまった僕は、鏡の中の自分に向かって尻尾を振って走り回った。
「ふんふんふん!」
「うわ、可愛い。そういや、ユユって獣化した自分は見た事なくね?」
「確かに……水鏡ならあるけど、俺達もわざわざ獣化したユユに鏡を見せたりはしなかったしね。それに、ユユは自分には興味がないから……はぁ、俺のツガイが可愛い」
鏡って、よく見ると面白い!
これって本当に僕なのかな? 実は向こう側で、僕の真似してるんじゃないの? 確かめられるかな?
僕は助走をとって鏡を見つめると、鏡が少しだけボヤけてきたため、向こう側を確かめるように鏡に突っ込んでみた。
するとやはり、鏡には向こう側が存在したが、その場所はなぜか屋敷にある僕の部屋で、安心する匂いが広がっていた。
「ふんふん、やっぱり僕の部屋だ。もしかして、鏡がゲートになっちゃった?」
僕は恐る恐る鏡の中に前足を突っ込んでみると、思いっきり引っ張り出され、ディディによって戻されてしまった。
「ユユ……なんで俺達の前からいなくなったの? 離れたら駄目だって言ったよね?」
「屋敷の匂い……屋敷に行きてーなら、俺達が連れて行ってあげんのに、なんで黙って行くかな」
ディディの闇化は、匂いの他にも目視できるようなったようで、闇の霧が僕とディディを包んでいく。
しかし、僕はディディから離れるつもりはなかったため、すぐに元の姿に戻って癒しながらディディを抱きしめ、鏡について説明した。
「ディディ! 凄いんだよ! 鏡がゲートになった! 僕の部屋の鏡に繋がってて、鏡の向こう側には僕がいなかった!」
「……可愛いけど、離れたら駄目だよ。それと、俺達には理解できないんだけど、なんで鏡に突っ込んで行ったの?」
「さすがに鏡に突っ込むとは思わねーじゃん。子どもでもなければ、何も知らない獣じゃねーんだから」
うっ、それは……ごめんなさい。
でも、鏡なんて僕は使わないし、よく見てみると面白かったんだもん。
「鏡の僕は本当に僕なのか気になったの。ここに映ってる僕が歪んで見えてたら? 本当の姿なんて、僕からは分からないし、人から見たら違うかもしれないでしょ? 僕の真似をしてるだけで、本当は僕じゃないかもしれないから、確かめたくなった。ごめんなさい……ゲートを開いたつもりはなかったの」
「まあ……気持ちは分からなくもないけど、そんな疑問は子ども頃に終わってるからね。まさか、ユユが今更そんな事を考えるとは思わなかったよ」
「俺も昔は殴って確かめた事はあるな。結局鏡は割れるわ、血だらけになるわで、使用人が怯えてたのは覚えてる」
それは怯えると思うよ。
だって殴ったんでしょ? 鏡を殴るなんて、正気とは思えないもん。
「ユユ、なんか失礼な事考えてね? 言っとくけど、ユユの方がありえねー行動してたから」
「ユユは大人だしね。ほんと、ユユが鏡の中に吸い込まれて、手だけチョコンと出てきた時は、可愛かったけど焦ったよ」
ディディは落ち着いたようで、闇の霧はなくなり匂いも元に戻ると、僕の耳を撫でて頬にキスをしてくる。
それからは、他にも変わったところがないか確認の為に触れ合い、そのまま交わって夜を迎えると、僕達を呼ぶギンの鳴き声とともに、低い声が頭に響いた。
「ワン、ワン、ワン」
『ユユ、ディア、ディオ』
ん? この声……まさかギンの声?
「ピチチ!」
『ユユ!』
これは……アスル? なんで僕にも聞こえるの?
僕がディディを見ると、ディディも僕と同じく、どちらの声も聞こえているようで、耳をピクピクと動かし、ディディはお互い、ギンとアスルの声かと確認する。
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