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第二章
10.本当の理由
しおりを挟むノエルは、ディディの性格を把握したうえで、簡易的な内容にしたらしく、どんな風にも捉えられる言い回しは、お互いを強く縛りつけないようにしたらしい。
要は、いつでも契約違反を起こせるというわけだが、その契約違反も説明によっては契約違反にはならないような状態という事だ。
「うん、いいね。曖昧な契約は嫌いじゃないよ。庇護下といっても、どこまでが俺達の庇護であるかも分からないし、ナキア王もその点ははっきりと口にしてはいない。処分についても、俺達の好きにしていいのなら、多少暴れてみてもいいわけだ」
「ノエルを神官と同じにって事についても、ノエルは自由にこっちに帰れる権利がある。まあ、ユユがこっちにいるなら無理だろうけど。精霊を自由にってのも、風ノ国に行くよう精霊に頼む必要はねーって事だ」
うーん? なんか……ディディは暴れたいのかな? ナキア様の顔色が悪いけど大丈夫?
「ディディ、僕がナキア様を癒したのに、ナキア様の顔色が悪い。意地悪したら駄目だよ」
「まあ、仕方ないよね。だって、ナキア王が一番焦ってるんだから。俺達を使って国を壊してでも、今の状況をどうにかしたいんだよ」
「ノエルだけでも、安全な場所にやりてーんだろうけど、俺達の庇護下に置いてもらえんなら、好きに壊していいっ事なんじゃね? どうせ、陛下から俺達が厄災になることは聞いてんだろうしさ。ユユ、ナキア王はエルフだから、今よりも先の未来を見てんだよ」
そうして漸く話してくれたのは、暴走した魔物の群れが、風ノ国に毎晩のように襲ってくる、というものだった。
その原因がキメラにあり、キメラは魔物の子供を組み合わせたりしていたようで、キメラの苦痛な鳴き声が魔物を呼び寄せているようだ。
それをギンは知っていたため、珍しく怒っているのだと、ディアは教えてくれた。
それと、ディアが冒険者ギルドで調べていたのは、魔物の襲撃状況についてだったようで、僕に何も教えなかったのは、僕が悲しむだろうと思ったようだ。
襲撃により狩られてしまった魔物のなかには、僕と仲良くしてくれていた魔物もいたのだと、ギンが教えてくれた事から、その魔物の亡骸を僕には見せたくなかったらしい。
「冒険者ギルドの匂いがキツかったのも、ギンやアスルやスイがユユを引き留めようとしたのも、ユユに見せたくなかったからなんだよ。でも、俺達は魔物の亡骸がどうなるか知ってるから、ユユをギルドの中に連れて行ったんだよ」
「ギルドに運ばれるのは、あの出入り口じゃねーし、外にいた方が亡骸に出会う可能性はあった。それをギン達は知らねーから、当然ユユを引き留めようとする。ユユに話さなかったのは、ギンが話すなって言ったから。俺達は言ってもいいと思ってたんだけどな。ユユはもう、そんなに弱くねーし、いつか知るなら早めに知っておいた方がいいじゃん?」
ギン……そっか、僕の知ってる子達が……みんないつかは死ぬ。
分かってるよ。
悲しいのは当たり前だし、守れなかった事も、何もしてあげられなかった事も悔しいけど、自分達も狩られる側になる事は予想してたと思うの。
現実を受け入れられない、弱い僕はもういない……はずだから、自信はないけどちゃんと受け入れられるよ。
「ギン、ありがとう。ディディもありがとう。勿論、アスルとスイも。でも、僕は大丈夫だよ。悲しいけど、本当に大丈夫なんだ」
「ユユを悲しませた元凶は俺達が壊してあげるよ。安心して。これは誰にも止めさせない」
「理不尽な厄災として……俺達の庇護下になったんなら、壊すものは俺達が選んでいいってわけだしな」
ここで僕がディディを止めてもいいが、僕は大丈夫であっても、怒ってないわけではないため、止めるつもりはない。
それに、僕の癒しを必要としているキメラや精霊達を、僕は優先する必要があるため、ディディにはディディのやるべき事、僕には僕のやるべき事、といったように役割を分ける必要があるのだ。
「癒し子様は、私が思っていた印象とはだいぶ違うのだな。てっきり、ディオ様とディア様を止めるのだと思ったが……」
「ユユはそんなに甘くないよ。逃げたい時は逃げるし、怒ってる時はちゃんと怒る。ユユは自由なんだよね。俺達が閉じ込めても、突然遊びに行っちゃうくらいには」
「ナキア王が、ユユをどう思ってたのか知らねーけど、俺達をツガイに選んでる時点で分かんねー? 過去の傷を克服したユユが、たぶん元々のユユの性格」
うっ……なんか、ちょっとだけ怒られてる気がする。
遊びに行くのは……だって、一日一回は走り回りたいし、ディディが寝ちゃってると暇なんだもん。
「ディディが寝ないで遊んでくれたらいいのに」
「ユユを抱くのは、癒されすぎて眠くなるんだよ。気持ちいいしね」
「ユユだって、気持ち良くなって俺達より先に寝てんじゃん」
違う違う! 僕のあれは、いつの間にか気を失ってるんだよ。
嬉しいけど、気持ちいいけど、でも……激しすぎるし抜けないし……でも好きなの。
思い出すだけで尻尾が揺れてしまい、ディディの服とぬいぐるみを抱きしめた僕は、再び獣化して服の中に隠れた。
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