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第二章

8.正直者

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 い、今……なんで体が動かなかったんだろう。
 ディディが助けてくれなかったら、僕はどうなってた? キス……されてたよね。


 ディディに隠された事で安心したが、それと同時に何かよく分からないものへの恐怖が襲ってきて、僕は闇の中で獣化してしまった。


「キュウゥ……ディディ、ディディ、怖い。抱きしめて、僕のこと抱きしめて」


 僕は必死でディディの服に潜ろうとするが、どちらか一人の服にしか潜れない事が、不安と恐怖を増幅させた。


「大丈夫だよ。ユユ、落ち着いて。俺達の服で包んであげるから……ディア、ユユが暴れてる。かわいそうだけど押さえつけて」


「ユユ、安心しな。大丈夫。大丈夫。ほら、俺達の服とぬいぐるみ」


 ディディの服に包んでもらい、ぬいぐるみの上に乗せてもらった僕は、漸く安心する事ができたが、なぜかディディが喜んでいるような気がして不思議に思う。


「ユユ様は獣化してしまったのかい? あぁ、私のツガイ───」


「黙って。それは許せないよ、ノエル。ユユを魅了しようとしたくせに」


「ノエル、ユユはお前のツガイじゃねーって言ったよな?」


 魅了……そっか。
 僕が動けなかったのは、そういう事だったんだ。


「ツガイ……ディオとディアが羨ましいな。ユユ様を攫っていれば、私が今頃ユユ様のツガイだった」


 ッ……これってもしかして闇化? なんで風ノ国で闇化が───


「だから考えた。ユユ様に会う為にはどうしたらいいのかと。精霊、キメラ、これらはユユ様のお気に入り。そうでしょう? ユユ様」


 ヒッ……何も見えないけど、なんか怖いよ! この人、普通じゃない! なんで自分から、そんな事言っちゃってるの。


「……ノエル、嘘を吐くのが苦手なのは知ってるけど、そこまで言っちゃうのはどうかと思うよ」


「俺もそう思う。やってる事もぶっ飛んでっけど、それを言うのもありえねー。もっと上手くやれねーの? キメラはダンジョンの研究で、精霊は精霊の森が移動した影響だって言えばいいのにさ」


 さすがのディディも呆れた様子で、アドバイスまでしてしまっている。


「いや、私の目的はあくまでユユ様と会う事のみ。ダンジョンの研究により、キメラができてしまった事や、精霊達が弱っている事などは、偶然にすぎない。むしろ、ユユ様と会えるのであれば、素晴らしい成果だと思うが?」


「いやいやいや、ナキア王が疲れきってんじゃん。どうせ、ノエルがやった事じゃねーのに、キメラや精霊の弱体化をノエルに全部押し付けた奴がいるんだろ。例えば第二、第三王子」


「ノエルはノエルで、ユユに会う為に弟達の悪巧みをそのままにし、自分が罪を負って二十ノ塔にでも行こうとしてる……って、ところかな。ナキア王も苦労してるね」


 ディディはもしかして、風ノ国に来る前にほとんど知ってたのかな。
 空島の神殿には、神官の出入りもあったし、ディディも話したりしてたから、風ノ国について話してた? 僕がシアくんとショウくんと遊んでる時に、いつも話してるから、話の内容までは聞けないんだよね。


「ユユ、ナキア王を癒してもらえるかな? 闇化じゃなくても、ユユの癒しには疲労回復もあるからね。なにより、ナキア王に恩を売っておいて損はない」


「精霊と交渉してくれてたのも、ナキア王だしな。まあ、今となっては精霊の森はこっちにあるわけだからな……俺は弱みを握っておいて、風ノ国には闇ノ国っていうより、俺達の協力国になってほしいわけ。闇ノ国には火ノ国があるしな」


 そういう事なら癒したい! 癒してもいいんだよね?


 闇の霧がなくなった気配がし、服の中から恐る恐る顔を出すと、ノエルの顔が間近にあり、思わず隠れてしまった。


「はぁ……可愛い。ユユ様、なんて愛らしい姿で───」


「ノエル、確かにユユは可愛いし、可愛いユユを見る為に、俺達もある程度は許してるけど、近すぎるんだよ。もう少し離れて」


「新しいユユを見れんのは、こっちとしても嬉しい。むしろ俺はもっと自慢してーし。けど、ほんとにちけーんだよ」


 ディディ、やっぱり喜んでたんだ。
 僕の気のせいじゃなかった。


「ディディ、意地悪!」


「うっ……ごめんね、ユユ。でも可愛い」


「ごめん、ユユ。けど、ユユも尻尾揺れてんじゃん」


 あうぅ~……だって、ディディが嬉しそうだと、僕も嬉しくなるんだもん。
 尻尾が揺れちゃうのは仕方ないじゃん。


 それから僕は鼻だけを出し、ノエルが近くにいない事を確認してから顔を出して、ナキア様を癒力で包んで癒してあげた。
 その間、ノエルは色気のある表情で僕を見つめてくるが、僕の自慢のツガイには負けるな、と思いながら僕はディディに擦り寄った。


 ふふん、ディディが一番かっこよくて、一番綺麗で、一番色気があるの! それに見てよ、この立派な───


「ユユ、ちょっと待とうか。発情しそうになるから」


「ユユも抱かれてーなら、ここで抱いてやろうか?」


 え? なんでそんな事に……あ、ディディの立派なモノに頬擦りしちゃってた。


「ぜひ見たい───」


「やめなさい、ノエル! フェンリア……いや、ディオ様、ディア様と呼ぶべきか。私は元々、癒し子様を通じて、風ノ国を精霊王様の庇護下に置いてもらおうとした。だが、ディオ様とディア様、それから癒し子様の下につく方が良さそうだと判断した」


 どうやら、ノエルの正直さはナキア様に似たようだ。
 僕の癒しで回復したナキア様の決断は早く、ディディもそれを分かっていたかのように、ニヤリと笑ってギンとアスルとスイを、ナキア様の元へ向かわせた。
 そして、興奮ぎみのノエルの方はというと、ただの変態だと思って見ないようにした僕には、彼の様子は分からない。



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