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第一章

67.もう大丈夫

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「子どものように思っていた魔族が……しっかり会話になっている」


 黙って聞いていたゼゼ様は、驚いた様子で目を丸くし、少しだけ感動しているように思える。


「獣人で言うところの、幼児化と同じようなものなので、ある意味当たっていますよ。私達のあの状態は、争いに巻き込まれない為の外側であり、会話も聞こえる内容とは全く違う内容を話しています。そのため会話が噛み合わない。ですが、闇化とユユ様については別です。ディア様とディオ様についても、ユユ様に選ばれた存在だという事は知っていたので、ある程度会話はしていました」


 すると、ダリは僕に向かって頭を下げ、僕の手を握って膝をついた。


「ユユ様、本当に申し訳ございません。名を呼ばれていない私達では、どうする事もできませんでした。ずっと悲しくて、辛くて、苦しくて……ユユ様の様子が私に流れ込んでくるたびに、魔物をユユ様の元へ向かわせる事しかできなかった」


「魔物……もしかして、ハクとアスル?」


「いいえ、ハクはただのお馬鹿です。魔物や動物から血を貰えば良かったものの……飛ぶ練習までして」


 やっぱり、飛ぶ練習はしてたんだね。
 ハク、お馬鹿って言われちゃってるよ。
 なんでそんなに嬉しそうなの。


 ハクは嬉しそうに僕に擦り寄ってきて、尻尾を揺らして喜び、ディディにも甘えた声で擦り寄っている。
 ずっとママ、パパ、と呼んでいるため、ここで会えた事が相当嬉しいのだろう。
 そしてディディも慣れたのか、少しだけ血を与えた後は、ハクがくっついてきても自由にさせている。


「アスルとギンも、我々の命令を聞くような魔物ではありません。彼らは精霊に近い存在ですから……私達が向かわせた魔物は、そこまで強い者達ではなかったので、狩られてしまいました。あまりにも強い魔物を向かわせれば、神々に気づかれてしまいますし、ユユ様が逃げる為の、時間稼ぎに向かわせただけだったので」


 もしかして、僕が逃げなかったから、魔物達が殺されてた? だとしたら、知らなかったとは言え……僕は酷い事を……


「……ごめんなさい」


「ユユ、謝る必要はないよ。魔物達だって、ユユの謝罪は望んでないと思う」


「そうそう。それに、魔物だってユユを助けてたくて自分から行っただけだろうし。そうだよな?」


 ダリは頷くと、僕の手の甲に額をつけてから立ち上がり、優しく頭を撫でてくれる。


「ユユ様、もしも知りたい事があれば、教えられる範囲で答えます。その時は、ここに来て私の名を呼んでください。しかし、ユユ様には過去を知るよりも未来に生きてほしい。過去は過去です。ユユ様、ディオ様とディア様とともに楽しく生きてみてはどうですか? 大丈夫です。私達は今度こそユユ様を支え、ユユ様の未来を守りますので、もう過去には縛られないでください」


 ダリは、僕の気持ちを全て理解しているように語りかけてきた後、手が離れるとダリ個人ではなく、魔族という存在に変わり、僕の頬をつたう涙を指で拭ってから、ダリは魔族達の方へ戻って行った。


「クルルルル」


「ごめ……ハク、僕は大丈夫だよ」


 本当に大丈夫なんだよ。
 なんか、僕自身ですら知らない過去を知ってて、気持ちも全部理解してくれてる人が身近にいた事が……こんなに気持ちを楽にしてくれると思わなかった。
 不思議だけど、ダリは僕の気持ちを、そのまま体験してるみたいに思える。
 ディディとは違う安心感……親? 兄弟? がいたら、こんな感じの安心感があるのかな。


 ハクは僕を心配してくるが、ディディがハクを陛下の元へ行かせ、僕はディディに抱き寄せられた。


「ユユ、本当にもう大丈夫そうだね。悔しいけど、俺達がユユの過去について何か言っても、ユユは余計に気にするよね」


「俺も……もう、自分ができなかった事で、後悔したって仕方ないな。ユユの過去に俺達はいねーけど、これから先はそばにいるから……もう、泣き止んで。泣くなら巣の中で泣きなよ」


 ディアはニヤリと笑うと、ディオも牙を見せるように笑い、二人で僕にスリスリしてくる。
 そこで、ゼゼ様が五大臣様を呼んで、魔族の地から出ようとしたため、僕も帰りはディアに抱えられて魔族の地を離れた。
 魔族の地と外との境は、帰りもいまいち分からなかったが、ハクがついて来てしまった事で、僕とディディは地下通路は通らずに、ディディの霧によって隠されたハクの背に乗って屋敷に帰ってきた。
 

「ワンワンッ」


「ピチチチチィ!」


 ん? ギンとアスルは、ハクが僕とディディの子だと思ってるの? 他も魔物達も?


 ハクが庭に降りると、魔物達が集まってきて、ハクの匂いを嗅いでいる。
 動物達はハクによじ登ろうとし、スイは僕の元へ来ると僕の脳内にボソッと呟く。


『ユユが……ママ』


 うぅ~……信じられないのは分かるよ。
 僕も血を与えただけで、親になるなんて思わなかったもん。
 でも、仕方ないじゃん。
 ハクがそうやって呼ぶし、ディディもちょっと嬉しそうなんだもん。


「ハクにはここは狭いね。吸血ドラゴンはドラゴンの中でも小柄だけど、それでも庭にドラゴンはさすがに……というか、うちの庭は凄いね」


「これは……本格的に空島に引っ越さねーと。ハクが破壊しそう」


 ハクはギンやアスルなど、他の魔物や動物達と会えた事が嬉しいのか、尻尾を少し揺らしているが、それが徐々に激しくなってきているため、そのうち本当に庭を破壊しそうな勢いだ。
 そんなハクをギンとアスルに頼んだディディは、僕の手を引いて急いで部屋へ行き、ディディは疲れた様子ですぐに眠りについてしまった。




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