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第一章
61.隠された真実
しおりを挟む~sideディア~
ユユがぬいぐるみを噛むのは、ツガイになってから始まった事で、寂しかったり、不安だったり、怒っていたり、拗ねていたりといった、自分の感情が制御できなくなった時にする。
ユユ自身は、考え事をしながら噛んでいるようで、周りの声は聞こえていないのが悲しくもあるが、今は都合がいい。
それにしても、この時のユユは本当に可愛い。
こんな赤ちゃんみたいなユユが、交わる時は色気たっぷりなんだよな。
あー……思い出したら発情しそうになるわ。
「母上、今ならユユには聞こえてないから、あいつの事教えてくれる?」
正直、光ノ国の王子が何を考えてんのか分かんねーんだよな。
異世界人とは別行動みてーだし、ユユに癒されてた奴らだけが行方不明になってんのとか、聞きてー事は多いし。
「私の殺気がもれた。それくらいの、胸糞悪い話だよ。お願いだから、暴走するのだけはやめて」
ユユが癒し続けてくれるため、俺達は大丈夫だろうと思い頷いた。
それからシュシュさんが教えてくれたのは、俺達が知りたいものではなく、ユユの明かされていない部分の過去。
アスルも知らない過去であり、ユユが当たり前だと思って受け入れていたものだった。
王子は、ユユを奴隷のように扱っていたらしく、自分のストレス発散のようにユユを痛めつけ、傷つけるだけでなく、実は何度も瀕死に追い込んでいたらしい。
その他にも王子の許可もあり、ユユが治せなくて死亡した者達の家族によって、どうせ死なないのなら同じ痛みを味わえ、という理由で瀕死に追い込まれていた。
光ノ国でのユユは、自分の傷を治せるのにそれを他者に使わず、かすり傷しか治さない癒し子とされており、苦痛を与えて調教していたようだ。
かすり傷しか治せなくしたのは、光ノ国の者達だが、それを彼らは治せないのではなく、治さないのだと思い込み、十分な食事も与えなかったのだと言う。
その結果、ユユは自分の瀕死の傷を完全には治せず、こちらに来てすぐに神殿で治癒する事になった。
その他にも、調教やご褒美といった胸糞悪い言葉は続き、しまいには獣に知恵を与えて、正しく導く自分達は感謝されるべきであり、拾ってやった恩を仇で返されたと、本気で思っているようだ。
「ん? 待って、ユユは拾われたの? どこで? 母親は?」
「つーか、その話だと王子以外にも捕まえてんの? まさか、父親とか言わないよね?」
「まず、捕まえたのは王子の他にもいるよ。こんな事、ユユくんの前では言えないでしょ。それに、ユユくんには元々親なんていなかった。母親だと知らされていたのは母親ではないし、ユユくんは愛人を生かす為に奪われたんだよ。闇ノ国からね……」
は?……じゃあなに、ユユはちゃんと俺達のところに来るつもりで闇ノ国で産まれたのに、それを誘拐されたって事じゃん。
つーか、なんで誘拐されてんの? 本当に誘拐か?
警備は───あ? まさか、そん時から貴族連中が、何かやらかしてたんじゃね?
「愛人の方は隠されながらも、ちゃんと愛されてたらしいよ。死因は栄養失調なんかじゃなく、実の子どもが亡くなった事で、ショックが大きくて亡くなった。ユユくんは、その代わりだったけど、間に合わなかったみたいだね」
「奪われたっていうのは?」
ディオも俺と同じく、そこが引っかかったらしく、シュシュさんに鋭い視線を向ける。
「裏切りの貴族のうち、孤児を受け入れてた善良な貴族がいたでしょ。そいつは、善良なふりをして光ノ国に孤児を売ってたんだよ。ユユくんもその中にいて、ユユくんを金で拾ってやった……なんて思ってるんだろう。裏切り者の方は、孤児を売る事で闇化の数値を下げていたようだよ」
そこで、どうしようもないほどの怒りが込み上げてきたが、先にディオが結界の魔力を乱すと、ユユがすぐに反応し、ディオの足に顎を乗せた。
「ディオ、どうしたの? 怒ってる?」
「ッ……ごめんね。ユユが可愛すぎて結界が乱れた」
「……ディディの闇化が進んでる。ディアも同じ?」
「そっ、ユユがあまりにも可愛いからさ。マズルガードしねーと」
俺達は嘘を吐く。
ユユに知らせるのは今ではない。
今は、これ以上ユユに負担をかけるべきではない。
そう思いながらユユを撫でれば、ユユは心地良さそうに目を瞑り、俺達を癒そうとしているのが分かった。
「僕はもう大丈夫だから、ディディにマズルガードつけてあげる」
そう言って、ユユが元の姿に戻ると、俺達にマズルガードをつけてくれ、いつもの元気なユユに戻った。
それにしても……闇ノ国が大きい国だとは言え、この貴族に関しては王族の責任でもある。
闇ノ国は弱肉強食だからこそ、孤児という弱者を売った……けど、子どもなんて弱くて当たり前じゃん。
守られて当然の存在を売るのは間違ってんだろ。
「ディア?……大丈夫?」
ユユは、俺の苛立ちに気づいたのか、俺の頭を撫でてきて、そのまま抱き寄せられた。
「はぁ~……ディアは意外と責任感強いからね。意外と」
意外で悪かったな。
そんな、二回も言わなくて良くね?
「ディアはユユを守りたいんだって。俺も守りたいよ。だから、ユユ……俺達を信じて。もう……奪われたりしないから」
「ん? うん、信じるよ。あとね、僕も強くなる。ディディがいてくれるなら……つ、強くなれると思うの。もっと癒せるようにする。どこでも浄化できるようにする。問題を抱えてるなら、お手伝いもしたい。ディディが守ってくれて、隠してくれるなら、安心できるから……うぅ~、ディディに依存してるみたいで、ごめんなさい」
ユユは尻尾を揺らしながら、赤く染まった顔を手で覆う。
そんな可愛らしいユユを見てしまえば、ユユは知らなくていい事だなんて、言えるはずもない。
しかし、俺が口を開きかけた時に、ディオが俺を止めてくれ、今は駄目だと目で訴えてきた。
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