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第一章
45.神話の一部
しおりを挟む僕が首を傾げると、ディオもディアも首を傾げていた。
三人で同じ方向に首を傾げていた事が、ロウにとっては面白かったようで、屋敷中にロウの笑い声が響き渡る。
「三人とも、我からしてみれば可愛い子どもだな。何が分からなかったんだ?」
「「「ツキガミ」」」
僕達の声が揃うと、またしてもロウは笑いだし、池の外に顎を乗せて表情を緩ませる。
「そうか、月神が分からなかったか。月神は、かつて星々とともに夜を照らした月というものの名からとった神だ」
夜を照らす月……闇を照らしてたの? それって凄い!
「ロウ! 月って太陽みたいだったの? 夜も明るかった?」
知らない話にワクワクして尻尾を振っていると、ロウは残念そうに首を横に振った。
「我も見た事はない。ただ、月があった時代は、夜は夜でも今のような闇夜ではなかったらしい。特に、我らのような獣は、夜でも昼間のように行動できる者もいたようだ。人間ですら、明かりがなくとも出歩けていたと聞いた事がある」
凄い! そんな時があったんだ。
夜は暗くて当然だと思ってたけど、明かりがなくても行動できるなんて、全然想像つかない。
「なら、その月神が闇を撒き散らして消えたって事でいいわけ? それとも、闇の精霊になって変わった?」
「俺達のどこが、その月神に似てるのかも気になるね」
月神という存在は、今の話では闇を照らす光のように思えるが、ロウは闇の霧を撒き散らしたと言っていて、更には闇の精霊だとも言っていたのだ。
ディオとディアもその部分が引っかかるのだろう。
「月神は闇を抑える存在であり、三人いたのだと語られている。一人は太陽を隠す者。一人は世界を闇にする者。そしてもう一人は、闇を照らす優しい光を持つ者。光を持つ者が月そのものであったが、三人のうち一人でも欠ければ月は存在を否定される。そのため、神話時代は三人纏めて月神と呼んでいたようだ」
三人で月神……でも、ディオとディアは二人だね。
どこが似てるんだろう。
やっぱり性格とか?
「月神は他の神々からも愛されていたが、ある日突然、光を持つ者が消えてしまった。消えた原因は神々の中にあり、何者かが光を持つ者を愛しすぎてしまった。その何者かが……太陽神」
僕達は、静かに物語を聞いていた。
聞かなければならない物語は、僕にとって必要な神様の情報であり、今の時代では誰も知る事のない物語であるため、神話を楽しむというよりは、必要な情報を記憶する事に集中する。
「太陽は月を愛していた。月の優しい光に惹かれ、愛しすぎてしまい、闇を呼ぶ二人から月を奪ってしまった。その後の月がどこへ消えてしまったのかは、神話では語られていないが、闇を呼ぶ二人は闇の精霊となって、世界中に闇の霧を撒き散らして消え、その闇を浄化する為の癒し子が産まれるようになった」
なんとなく分かってはいたけど、この言い方からすると、ロウは原初の銀狼であって、癒し子はロウが最初ではないんだね。
「最後に語られたもの……これが最も重要だ。闇の精霊となった月神の二人は、消える直前に信頼できる神……我の主に言った───闇を照らす月よ、自分達はいつまでも待ち続ける。闇を祓うのではなく、優しい光で闇を照らし、受け入れてほしい。いつまでも、君の光が帰ってくるのを待っている───我の主は、月神を相当可愛がっていたらしい」
ロウの話は神話と言えば面白いが、どこか悲しく思えてしまい、胸が締めつけられる。そして、ディオとディアを見てみれば、ディオは涙をためて溢れないように上を向き、ディアは悲しい声で遠吠えをする。
「……やはり似ているな。これは、ディオとディアだけでなく、ユユにも言える事だ。あくまで遠い昔の話であり、月神に似ているというだけで本人達ではない……と思っている。それでも、今のその気持ちが、神話となんらかの関係があるのは間違いないだろう」
次はディオも獣化すると、二人揃って遠吠えをし、僕を呼ぶように何度も天に向かって遠吠えをする。
すると、二人につられるように国中から遠吠えが聞こえ始め、パパさんとママさんも獣化した状態で庭にやって来た。
「「精霊王、お初にお目にかかります」」
「よい、堅苦しいのは無しだ。それよりも、ディオとディアをユユから離すな。奪うな。奪われるような事は、あってはならない。ディオとディア、それからユユには、この世界を正してもらいたい」
……ん? そんな話、僕達は聞いてないけど。
だが、パパさんとママさんは頷いて、すぐにどこかへ行ってしまい、ディオとディアは元の姿に戻って僕を抱きしめてきた。
「精霊王が俺達の味方だって事は分かったよ。だから、俺達も何か協力できるものがあるなら協力するし、なんなら精霊を目指したっていい。ただ、ユユから離れるつもりも、ユユを奪われるつもりもないからね」
「代わりに、神からの祝福が欲しい。ユユは神々から嫌われてねーって証拠が欲しい」
ッ……ど、どうしよう。
これで僕が神様に嫌われてたら……そしたら、ディオとディアが精霊と対立する事になったり───
「我が主の神殿で誓えば良い。それで十分だ。主は我にもあまり干渉してこないが、主の気持ちは伝わってくる。我が、お前達に望んだのもは、主がそれを望んでいると思ったからだ」
その時だった。
突然、ディオとディアは僕を抱えて走り出し、そのまま池に飛び込んだのだ。
そうして僕達は、濡れる事もなく不思議な森に来て、ロウの足元に着地した。
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