癒し系男子はヤンデレを癒しながら甘えたい

翠雲花

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第一章

35.問題児クラス

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~sideディオ~


 幼児化は、精神が幼くなるわけではなく、半獣化というものが精神を不安定な状態にさせ、思考を鈍らせる事から、幼児化と呼ばれているだけだ。
 しかしなぜか、ユユは実際に幼児化しているように思え、スイが幻影を使ってユユを強制的に眠らせた。


「はぁ~……まさか、全員にマズルガードが必要になるとは思わなかったよ」


 ユユが眠った事を確認してから、学園に置いてあるマズルガードを、生徒全員に配った。
 ユユが怖がっていたという事は、命の危険を感じたのだろう。
 それも、かなりの感情を一斉にぶつけられていたため、ユユには可哀想な事をしてしまったと思っているが、それと同時に嬉しくもあった。


 ユユへの想いは、俺やディアの方が圧倒的に危険なはずだが、ユユがあそこまで震える事はなかった。
 むしろ、俺達の前ではすぐに獣化して、降参状態になるため、震えるほど恐怖に抗おうとする事もない。


「先生、癒し子様は先生のツガイではないんですよね?」


「フェンリア先生を敵にまわしたくはありませんが……俺達も───」


 生徒達がユユを狙うような発言をしたその時、ちょうど良くディアが堂々と教室へ入ってきた。
 その瞬間、生徒達は顔を真っ青にし、ディアから目を逸らす。


「ギンに呼ばれて来てみたけどさ……まさか、二日連続で来る事になるとは思わなかったわ」


「俺だって呼びたくなかったよ。でも、こうでもしないと、俺とディアがユユに本気だって事が伝わらないみたいだからね」


 チラリと生徒達を見てみれば、全員が特級とは思えないほど怯えた様子で頭を下げ、そこから動かなくなる。


「そのユユはどこに……うわ、可愛い! 幼児化してんじゃん。ディオ、お前なにした?」


「生徒全員が、発情した目でユユを見てたから、力を振るういい機会だなって思ったんだよね。でも、ユユが幼児化しちゃったから、可愛くて可愛くて。もうそれどころじゃない」


 本当に可愛かった。
 甘えてくるし、俺しか見えてないし。


「そりゃ可愛いでしょ。そんで? 俺は婚約者として呼ばれたって事でいいわけ?」


 ディアは、ユユの腰についているマズルガードをつけると、気持ち良さそうに眠るユユを抱えて、不適な笑みを浮かべる。


「そういう事。特級相手には俺みたいな、力でねじ伏せる奴よりも、精神攻撃をしてくるディアの方がいいんだよ」


「精神攻撃って失礼じゃね? 別に攻撃してるわけじゃねーし、ただ追い込むだけじゃん。俺はディオみたいに手は出してねーから」


 手は出してなくても、魔法は使ってるでしょ。
 というか、攻撃はしてると思うよ。
 傷つけてるわけだし、ディアがやる事は拷問に近いから怖いんだと思うけど。
 俺から見ても、ディアは異常だと思うしね。


「ディオ、ユユ起こしてもいい?」


「駄目。ユユの幼児化は本当に幼くなってるから、起こすなら職員室に行ってから起こして。というか、ディアがいるなら職員室に行ってもいいよ。今日は授業じゃないし」


 ユユを職員室に残すのは、俺が不安だったから連れてきただけだしね。


「じゃあ、ユユは連れて行くわ。ディオ、暴れんならほどほどにしなよ。どうせ訓練場に行くんだろうし」


 分かってるよ。
 暴れはしないけど、訓練場には連れて行って、地獄のメニューでも組み込もうかな。
 ついでに鍛えつつ───


「ん? ギンも行きてーの? ディオ、ギンも連れて行ってやって。なんか怒ってるし」


 そうして、ギンだけがその場に残り、ディアはユユに頬擦りしながら教室を出て行った。
 その後、訓練場に着いてすぐ、俺は生徒達を鍛えつつも、怒りをぶつけるように威圧し続け、ギンはストレス発散に生徒の相手をしていた。
 瀕死になっても、あっという間に治し、もう一度瀕死にさせるという拷問に近いやり方は、闇化を一度落ち着かせるには一番効率がいい。 
 しかし、それはディアのやり方に似ていて、そこで漸くギンがディアを選んだ理由がなんとなく理解できた。
 結果、俺のクラスの生徒だけが、初日からボロボロになり、幼児化から戻ったユユに会わせれば、発情する事もなく、現在は職員室でユユに癒されている。


「ユユくんに発情は……僕のクラス、大丈夫ですかね。人間が多いので、マズルガードは必要ないと思いますが、どうなるかは分かりません」


「私のクラスは、エルフが多いから発情は大丈夫そうかな」


「俺のクラスも竜人が多い分、発情は問題ないだろうが……ストーキングする可能性はあるな」


 種族によって特徴があるため、クラスごとに反応はバラバラだが、俺のクラスのように獣人ばかりでなければ、発情する可能性は低いだろうと思っている。
 俺のクラスは婚約者もいない獣人で、特級の中でも問題を起こす者が多い。
 そんな問題児達が、ユユに触れたり会話をする順番を、今はおとなしく待っているのだから、ユユの癒しは本当に凄い。


「ディオ、これで三週目なんだけど。そろそろいいんじゃね? ギンとアスルが離そうとしても、だんだん離れねー奴が出てきてる」


「離れない奴は、闇化がギリギリだった奴らだね。おとなしくしてるし、ユユに迷惑もかけてないからそのままでいいよ。ユユも本に夢中だしね」


 最初のうちは会話をしていたユユだが、今はファジャ学長から受け取った本を真剣に読んでいる。
 そんなユユの周りは、いつもの魔物や動物達のように、勝手に癒されに来る者で溢れているが、特に何をするわけでもなく、ひたすらユユを見つめているため、俺はユユをディアに任せて、書類仕事の方を始めた。


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