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第一章

34.初めての体験

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 う、うぅ……怖い。
 この扉の中は怖い。
 肌が痛いよ。
 みんなは痛くないの? こんなにピリピリしてるのに。


 僕はディオにしがみつき、尻尾を足の間に隠して、扉の向こうが怖い事を必死で伝えると、ディオは僕の周りに結界を張ってくれた。


「怖かったね。ユユは敏感だから……痛かった?」


「うん。肌が痛くて……みんなも雰囲気が少し違う」


「あぁ、俺達は闇化に引っ張られないようにしないといけないから、それも不安だった? ごめんね。先に言っておけば良かった。特級の闇化が進む時は、人数が多ければ多いほど、闇化に引っ張られるんだよ」


 闇化って引っ張られるの?  じゃあ、特級は集めない方が……いや、それは駄目なのかも。
 他にも影響が出ちゃうなら、特級を増やさない方がいいもんね。
 特級は危ないし、生徒は先生の目の届く範囲に隔離するのは仕方ないんだ。


「ユユ、落ち着いたら中に入るよ。俺の後ろに隠れてていいからね。ギン、ユユを囲ってあげて」


「ワフッ」


 ギンは当たり前だと言うように、僕に寄り添ってくれた。
 僕自身、普通に行きたい気持ちもあったが、それでも僕の本能が恐怖に勝てず、申し訳なく思いながらも、ディオの後ろに隠れながら、ピリつく教室へと入った。


「───なので、そのあたりは守るように……あぁ、ちょうど来ましたね。ディオ様、あとはよろしくお願いします。癒し子様については伝えましたので」


 そう言って、ファジャが教室から出て行き、僕は震える足でディオについて行く。
 恐怖で足元しか見れない僕に、アスルとスイは擦り寄ってくるが、結界があっても視線からは逃れる事ができない現実に、意識が遠くなってくる。


「……チッ」


 え? ディオが舌打ち? イライラしてる。
 なんか……あ、これはまずい気が───


 そう思った瞬間、ディオはディアのように歪んだ笑みを浮かべ、牙が見えると同時にゾッとするような雰囲気を纏う。
 僕への視線は、ディオのおかげで消えたが、なぜかギンも僕に結界を張ると、ディオの目の前に立ちはだかり、遠吠えをして毛を逆立たせた。


「……ギン、邪魔だよ」


「グルルルル」


「なんでそいつらを庇うかな。発情した目をユユに向けてたんだよ。殺されても文句は言えないと思うけど?」


 発情……あの視線は発情だったの? 確かに怖かった。噛み殺されるような……でも、ディオとディアの時は怖いだけなのに、今のは他の恐怖も混ざってたよ。


「───アスルまで俺を止めるの? なんで?」


 アスルもディオを止めてる? 僕に擦り寄ってきてるけど、本当に止めてるの?


「ユユがいてもいいでしょ。ユユも俺が力を振るうところを見たいって言ってくれたし」


 まさか、僕に見せるか見せないかで揉めてるの? もしかして、ディオは本気で殺そうと……それは駄目だ!


「ディオ! 僕はもう大丈夫。だから───」


「駄目。ユユに発情してるなんて許せるわけないでしょ」


 ディオは、生徒が僕に発情してた事が許せないんだ。
 僕が怖がってても、それは怒りの対象じゃなくて、僕に向ける感情が嫌だったんだ。
 じゃあ、なんて声をかけたらいい? 僕の怯えが原因じゃないなら、どうしたら───


「ディオ様、癒し子様が困ってます。こんなにディオ様の為に頭を悩ませて、どうしたらいいかと……可愛い」


「可愛いね~、ユユ。ディオ様に落ち着いてほしいなら、可愛くお願いしてみたらいいんじゃない?」


 可愛くお願い? どうやったら可愛くなれるんだろう。


 僕は首を傾げ、再びディオを見上げると、教室に入って初めてディオと目が合い、ディオの雰囲気がいっきに柔らかくなる。


「本当だ、可愛い! ユユ、気づいてる? 獣化しそうになってるよ」


「え? 獣化しそうって……なにこれ」


 僕はディオの視線の先を辿り、しがみついていた自分の手を見てみた。
 すると、手だけが獣化しており、その手を動かしてみると、プニプニの肉球が邪魔で、ディオの服を上手く掴めていなかったのだ。


「ひぇ……僕、おかしくなっちゃった。ディオ、これなに? どうなってるの?」


「落ち着いて。可愛いだけだから大丈夫だよ。子どもの頃にはよくある事なんだけど、二足歩行の獣化って感じかな? 今のユユは顔も獣化してるよ。パートナーに何かあった時とかに、不安が強くなりすぎると、こうして幼児化する事があるんだよ。ユユ、小さくなってるの分かる?」


 小さく? そういえば、いつもよりディオが遠いような……気がする? いや、いつもこんな感じだった?


「分からないでしょ。ごめんね、不安にさせて。幼児化すると、自分の感覚がよく分からなくなるらしいんだよね。小さくなるのは小型の獣人だけで、半獣化の影響らしいけど……まさか、こんなに可愛いとは思わなかった」


 僕は、ご機嫌になったディオに抱き上げられると、自然と尻尾を振ってしまい、ディオの首に抱きついて頬擦りをする。
 安心よりも、自分を見てくれた事に嬉しくなり、いつのまにか生徒の目も気にならなくなっていた。


 それからは、ディオもギンも落ち着いてくれ、僕は教室の後ろの方で、シアくんとショウくんに見守られながら、ギンの背を借りて眠りについた。



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