34 / 109
第一章
34.初めての体験
しおりを挟むう、うぅ……怖い。
この扉の中は怖い。
肌が痛いよ。
みんなは痛くないの? こんなにピリピリしてるのに。
僕はディオにしがみつき、尻尾を足の間に隠して、扉の向こうが怖い事を必死で伝えると、ディオは僕の周りに結界を張ってくれた。
「怖かったね。ユユは敏感だから……痛かった?」
「うん。肌が痛くて……みんなも雰囲気が少し違う」
「あぁ、俺達は闇化に引っ張られないようにしないといけないから、それも不安だった? ごめんね。先に言っておけば良かった。特級の闇化が進む時は、人数が多ければ多いほど、闇化に引っ張られるんだよ」
闇化って引っ張られるの? じゃあ、特級は集めない方が……いや、それは駄目なのかも。
他にも影響が出ちゃうなら、特級を増やさない方がいいもんね。
特級は危ないし、生徒は先生の目の届く範囲に隔離するのは仕方ないんだ。
「ユユ、落ち着いたら中に入るよ。俺の後ろに隠れてていいからね。ギン、ユユを囲ってあげて」
「ワフッ」
ギンは当たり前だと言うように、僕に寄り添ってくれた。
僕自身、普通に行きたい気持ちもあったが、それでも僕の本能が恐怖に勝てず、申し訳なく思いながらも、ディオの後ろに隠れながら、ピリつく教室へと入った。
「───なので、そのあたりは守るように……あぁ、ちょうど来ましたね。ディオ様、あとはよろしくお願いします。癒し子様については伝えましたので」
そう言って、ファジャが教室から出て行き、僕は震える足でディオについて行く。
恐怖で足元しか見れない僕に、アスルとスイは擦り寄ってくるが、結界があっても視線からは逃れる事ができない現実に、意識が遠くなってくる。
「……チッ」
え? ディオが舌打ち? イライラしてる。
なんか……あ、これはまずい気が───
そう思った瞬間、ディオはディアのように歪んだ笑みを浮かべ、牙が見えると同時にゾッとするような雰囲気を纏う。
僕への視線は、ディオのおかげで消えたが、なぜかギンも僕に結界を張ると、ディオの目の前に立ちはだかり、遠吠えをして毛を逆立たせた。
「……ギン、邪魔だよ」
「グルルルル」
「なんでそいつらを庇うかな。発情した目をユユに向けてたんだよ。殺されても文句は言えないと思うけど?」
発情……あの視線は発情だったの? 確かに怖かった。噛み殺されるような……でも、ディオとディアの時は怖いだけなのに、今のは他の恐怖も混ざってたよ。
「───アスルまで俺を止めるの? なんで?」
アスルもディオを止めてる? 僕に擦り寄ってきてるけど、本当に止めてるの?
「ユユがいてもいいでしょ。ユユも俺が力を振るうところを見たいって言ってくれたし」
まさか、僕に見せるか見せないかで揉めてるの? もしかして、ディオは本気で殺そうと……それは駄目だ!
「ディオ! 僕はもう大丈夫。だから───」
「駄目。ユユに発情してるなんて許せるわけないでしょ」
ディオは、生徒が僕に発情してた事が許せないんだ。
僕が怖がってても、それは怒りの対象じゃなくて、僕に向ける感情が嫌だったんだ。
じゃあ、なんて声をかけたらいい? 僕の怯えが原因じゃないなら、どうしたら───
「ディオ様、癒し子様が困ってます。こんなにディオ様の為に頭を悩ませて、どうしたらいいかと……可愛い」
「可愛いね~、ユユ。ディオ様に落ち着いてほしいなら、可愛くお願いしてみたらいいんじゃない?」
可愛くお願い? どうやったら可愛くなれるんだろう。
僕は首を傾げ、再びディオを見上げると、教室に入って初めてディオと目が合い、ディオの雰囲気がいっきに柔らかくなる。
「本当だ、可愛い! ユユ、気づいてる? 獣化しそうになってるよ」
「え? 獣化しそうって……なにこれ」
僕はディオの視線の先を辿り、しがみついていた自分の手を見てみた。
すると、手だけが獣化しており、その手を動かしてみると、プニプニの肉球が邪魔で、ディオの服を上手く掴めていなかったのだ。
「ひぇ……僕、おかしくなっちゃった。ディオ、これなに? どうなってるの?」
「落ち着いて。可愛いだけだから大丈夫だよ。子どもの頃にはよくある事なんだけど、二足歩行の獣化って感じかな? 今のユユは顔も獣化してるよ。パートナーに何かあった時とかに、不安が強くなりすぎると、こうして幼児化する事があるんだよ。ユユ、小さくなってるの分かる?」
小さく? そういえば、いつもよりディオが遠いような……気がする? いや、いつもこんな感じだった?
「分からないでしょ。ごめんね、不安にさせて。幼児化すると、自分の感覚がよく分からなくなるらしいんだよね。小さくなるのは小型の獣人だけで、半獣化の影響らしいけど……まさか、こんなに可愛いとは思わなかった」
僕は、ご機嫌になったディオに抱き上げられると、自然と尻尾を振ってしまい、ディオの首に抱きついて頬擦りをする。
安心よりも、自分を見てくれた事に嬉しくなり、いつのまにか生徒の目も気にならなくなっていた。
それからは、ディオもギンも落ち着いてくれ、僕は教室の後ろの方で、シアくんとショウくんに見守られながら、ギンの背を借りて眠りについた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,007
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる