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第二章
31.謎の生命体
しおりを挟むディディは、毛が逆立っている僕の尻尾や耳を撫でてくれ、僕を落ち着かせようとしてくれる。
そして、僕の逆立った毛が落ち着くと、ディディはダンジョンの中へ入り、いくつもの視線を感じながらも奥へ奥へと進んでいく。
奥へ行けば行くほど僕の癒力が溢れ、淡く光を放ってしまう僕は、歩きながらでは上手く抑えられないため、獣化してディオに抱えてもらい、ディアの服で包んでもらった。
「別に、ユユが大丈夫なら抑えなくてもいいのに。この浮島はユユの自由にしていいんだよ。勿論、ダンジョンも含めてね。それにユユが光ってると、足元も見えやすい」
「小型の月でも出してみたらいいんじゃね? ここでユユの癒しを嫌がる奴はいねーし、程よく明るくて俺達も助かるし」
ッ! ディディが助かる……それなら、抑えられない分を月にしてみようかな。
これはディディの為だもん。
ディディと一緒に悪役みたいになりたかったけど、ここでは僕は自由で、それがディディの為にもなるんだ!
僕は抑えきれない分の癒力を使い、小さな月をいくつも作り出していく。
街灯のように、ディディの歩みに合わせて作り出していけば、ダンジョンの魔物達が顔を出し、日光浴でもするように寛ぎ始めたのだ。
「ディディ、みんな日光浴? してるみたい」
「日光浴?……確かに、この浮島の魔物は夜に月明かりを求めて日光浴でもするように……なるほど。これは神話時代なら普通のことで、生き物によっては生命維持に不可欠だったのかもね」
「確かにな。それなら、月に癒しの力があっても不思議じゃねーし……太陽が日光浴なら、月は月光浴か? 俺達も月光浴は好きだし、ユユの癒しは絶対に必要だ」
月光浴! すごくいい響きだよ! 僕も、ディディの闇の中でする月光浴は好き!
「ディディ、好き」
「ん? どうしたの、急に。俺も愛してるよ」
「俺も愛してる。可愛い可愛い、俺達のツガイ」
ふへへ、幸せ。
これじゃあ、癒力を抑えられない。
でも、大好きな人が僕の全部を好きでいてくれることが嬉しいの。
僕が作ったものも、僕が関わることも、好きだって言ってもらえることが幸せ。
「ディディが旦那様で幸せ」
「「ッ……それはずるい」」
元に戻ってほしいと言われて元の姿に戻れば、僕はディディに強く強く抱きしめられ、ブワリと癒力が溢れ出てしまい、ダンジョン内が一気に明るくなった。
そこで魔物達が僕達の周りに集まってくるなか、ダンジョンの奥から謎の生命体がやって来たのだ。
「……来たね。ユユの癒力をここまで解放しないと出てこないなんて、お前は警戒心が強すぎるね」
「けど、こうして出て来たってことは、やっぱユユを求めてるって事だな。さて……お前はナニモノだ?」
ギンやアスルのように炎を纏う者や、スイのように水を纏う者、そして木や土や鉱石に覆われている者など、小さな謎生命体が多くいるにも関わらず、ディディは"お前"と言った。
そして、それに反応するように謎生命体は、徐々に集まってひとつとなり、真っ黒な山羊の姿となった。
だが、変化はそこで終わる事なく、ズズズッと不気味な音を立てて更に形を変え、黒山羊の顔に燕尾服を着た、ディディよりも背の高い人の形となったのだ。
「私はこのダンジョンのマスターであり、魔界からの干渉媒体である上級悪魔、サタナキア・バフォメットといいます。聖獣様の誕生、そしてもう一度この癒しの月を目にする事ができ───」
「サタナキア、お前の話はいちいちなげェんだよ! それに、俺の名を使うなって何度言えば分かンだ!」
自己紹介をしたかと思えば、突然様子が変わり、声も喋り方も別人になったところで、黒山羊の顔は骨になってしまったのだ。
「精獣様、俺がバフォメットだぜ。さっきまで喋ってたのがサタナキアだ」
「訂正の必要がありますか? 結局、この姿がサタナキア・バフォメットという悪魔なのですから、間違いではないはずですよ」
「テメェが先に出やがったから、こんな事になってンだろうが!」
「それは仕方ありません。私が先に挨拶をしたかったのですから。それに、あなたでは第一印象が悪すぎます。私は聖獣様に嫌われたくはありません」
「俺だって嫌われたくねェよ!」
結局、サタナキア・バフォメットという悪魔は、半分ずつ身体を共有するように骨と肉に分かれて、なんとも言えない姿となるが、すぐにサタナキアの方が黒い面布で大きな顔を覆った。
「お見苦しいものをお見せして、申し訳ございません。聖獣様」
「ッ……すまねェ。これは見せるべきじゃなかった」
ん? どうして謝るんだろう。
確かに、なんとも言えない姿ではあったけど、別に僕は気にしてないし、ディディも気にしないと思うよ。
「ユユが怖がってないから、別に問題はないよ。それにしても愉快な身体だね」
「とりあえず、サタナキア・バフォメットは一人って考えていいわけ? それとも別の方がいいのか」
「サタナキア・バフォメットは一人であり、悪魔のなかでは双黒と呼ばれております。この額の五芒星に込められた五つの属性、木、火、土、金、水の相克を表した印と、人格が二人いるように思えることから、双黒と呼ばれるようになりました」
「俺達は一人だが、実際には名前も性格も別だ。だからこその双黒ってわけだが……聖獣様や月神様と同じようなもンだと思ってくれていいぜ」
なるほど、二人でひとつってことでいいのかな? でも、双黒の場合は少し違うよね。
確かに、一人なのはそうなんだけど……二重人格? みたいな感じ。
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