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第一章

27.興味のある話

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 みんな、寝ちゃった? このポケットって、これも幻影なのかな?


「うわ……どーすんのコレ。学園の精霊が、ユユの服に無理やり部屋作ってんじゃん」


「部屋と言うより、寝床だね。ほら、ユユのそばで眠ると癒されるから……ファジャ学長、どうする? このままだと、学園の精霊がいなくなるけど」


 学園の精霊がいなくなる!? それは大変だよ。
 どうしよう。
 僕が癒さないように意識したら───


「癒し子様、どうかそのまま癒し続けてください。精霊達は、癒し子様が望むのでしたら、この学園を守り続けてくれるそうです。それどころか、癒し子様がいるならば、この国に仲間を呼ぶとまで……この件は殿下と、そちらの方面に詳しい神官にお任せしましょう」


 ファジャが国の問題になる事を伝えると、ディアは歪んだ笑みで、「陛下に丸投げしよう」と言った。


「ディア……将来の国王がなに言ってんの」


「ディオだって知ってんじゃん。俺はさ、ほんとに国王には向いてねーんだよ。国外でも俺は嫌われてるしさ」


「まあ、ディアが王になるなんて、想像できないけどね」


 ごめんなさい、ディア。
 僕もディアが王様になるのは、想像できない。


「それに、俺は特級になっちゃったわけだし、ユユがいても、いつどうなるか分かんねーじゃん。だから、全部丸投げ。俺は俺で、国を支えるからいいんだよ」


「なら、やっぱりゼスだね。ゼスは上級だけど中級に近いし、学園の成績もいいみたいだからね。来年は、こっちに通うんでしょ?」


「うん。大学園に通った方が、ゼスの為にもなるからね。婚約者候補も、シュシュさんのおかげで何人か見つかったし、陛下もあの実験以来、闇化が進んでねーから、特に急ぐ必要はない」


 ゼゼ様、落ち着いてるんだ。
 良かった。


「殿下が関わらないとなりますと、不安があります。どうか癒し子様を利用するような事は───」


「んな事するわけねーじゃん。俺だってそのへんは考えてるし、ユユに何かあったら、まず最初にディオが暴れる。そんで俺も、うるせー奴らは黙らせる」


「俺達の婚約者であるユユを利用するなんて、馬鹿なことはしないでしょ。あー、でも……馬鹿な事をするから、馬鹿なのか。逆に俺達が、馬鹿どもを利用してもいいよ。スパイを受け入れてる奴が、貴族のなかにも複数いるのは分かってるからね」


 ん? スパイを受け入れてるって……国を裏切ってるってこと? それも複数ってことは、何かメリットがあるからしてるんだよね? 国を裏切るメリットってなんだろう。


 先生達が必死で耳を塞ぎ、関わりたくないと言いたげな空気のなか、僕は好奇心から尻尾を揺らしてしまい、新しい情報を記憶する事に集中した。


「そうだ、これで俺が力を振るう理由ができるね。ユユ、見たいって言ってたもんね」


「じゃあ、俺も見せようか? 俺はディオと違って、理由がなくても問題ねーし。なんなら、今から狩りにでも───」


「殿下も特級となった今、危険対象です。ただでさえ、上級のうちから問題があったのですから……しかし、癒し子様の願いとなると」


 あれ? これってちょっとまずい?


 僕は先生達の方を見ると、先生達は必死で首を横に振っていたため、僕の方から話題を変える事にした。


「理由ができた時で大丈夫。今は、国を裏切るメリットが知りたい。国を裏切ったら、何かいい事があるの?」


「ユユは光ノ国にいた時、裏切りたいって思わなかったの? だいたいは、この状況から抜け出したいとか、もっと良い地位や金が欲しいとか、更に言えば欲しいものが珍しい物だったりもするね」


「そんで、その欲を満たす条件を出されれば、馬鹿な奴は裏切りを選ぶ。バレねーとでも思ってんじゃねーかな。ユユは、光ノ国から逃げたいって思わなかったの?」


 逃げたかった。
 何回も逃げたいって思ったよ。
 でも……


「僕は僕の役目があったから、怖くても逃げなかった。僕は癒さないといけないの。神様が決めた僕の生きる価値は、それだけなんだって教えてもらった。それに、今は癒し続けて許されたい」


 幼い頃から、そう信じて生きてきたため、悪い事を言ったつもりはなく、当然の価値なのだろうと思った。
 しかし、その場にいる全員を不快にさせてしまったのか、僕への視線と、重くなった空気に耐えられず、僕は獣化してしまい、隠れるように棚と棚の隙間に入り込んだ。


「「ユユ!」」


 「ッキャン!……ご、ごめんなさい。ごめんなさい。怒らないで」


 ディオとディアに大声で呼ばれ、必死で謝っていると、僕のお尻にどちらかの手が触れたため、僕は更に奥へと進み、幻影で見えなかった壁にぶつかった。


「ユユ、ごめんね。ユユには怒ってないよ。大丈夫」


「ごめん、ユユ。怒ったつもりはないんだ。だから、できればユユの方から出てきてほしい」


 二人は、棚をずらそうと思えば、すぐにでもずらせるのだろう。
 それでも、僕を待っていてくれ、アスルとギンも謝るように鳴く。


『ユユ、ごめんね。さっきの怒りのほとんどはボクらのせい』


 頭の中に精霊の声が響くと、精霊の光が僕を包み、悲しそう点滅する。
 頭の中に響く声は一人だけだが、他の精霊も同じ事を思っているようで、淡い光を放っていた。




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