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第一章
19.実験の結果……
しおりを挟む~sideディオ~
ユユが獣化したところで、後ろで号泣しているショウを無視し、ディアはユユを陛下の腹の上におろした。
「うっ……可愛い。ユユ、可愛いな」
陛下よりも、父上の方が癒されているのか、父上はユユの頭を撫でて、表情を緩ませる。
ユユはそんな父上を見た後、ディアを見上げて首を傾げ、陛下の腹の上で尻尾を揺らしながら座った。
「ユユ、そのままでいいよ。とりあえず、陛下が癒されるように考えてみな」
「ゼゼ様が癒されるように。眉間の皺……気になる」
ユユはディアに言われた通り、自分で考え、行動する。
俺とディアに対しては、ユユは俺達の為にと、いろいろと考えながら闇化の分析をし、言動に気をつかってくれている。
駄目そうだと思えば、俺達の顔を見て確認したり、俺達の真似をしてみたりと、嬉しい事ばかりをしてくれるが、他の者に対しては今まで通り、受け身の状態なのだ。
そんなユユが今、陛下を起こさないように気をつけているのか、伏せながらジリジリと陛下の顔に近づき、短い前足を頑張って伸ばして、陛下の眉間に触れようとしている。
可愛すぎる! これは、頑張れって応援したくなる。
ディアを見てみれば、笑いを堪えるように口元を押さえ、尻尾を揺らしながら愛しそうにユユを見つめている。
そしてショウの方はというと、拳を握りしめて、声には出さずにユユを応援していた。
「みけん……シワシワなくなれ」
可愛すぎて今すぐに抱きしめたい。
無事に手が届いて良かったね。
ユユは陛下の眉間に肉球を押し当てると、満足そうに尻尾を振るが、残念ながら俺達から見れば、陛下を窒息死させようとしているようにしか見えなかった。
たぶん、陛下は起きてるね。
尻尾が揺れてるし、呼吸できるように少しだけ顔をずらして、寝たふりをしてくれてる。
「ふあぁ……あれ、なんか眠い───」
ユユが欠伸をし、コロンと陛下の上から落ちそうになったところを、急いで抱きかかえれば、俺達の予想通りユユは熟睡してしまい、陛下はゆっくりと起き上がった。
「実験は成功か?」
「成功というか、ユユが寝たのは予想通りかな。陛下は自分の数値を見てみなよ。特級じゃなければ、効果はかなりのものなんじゃねーかな」
陛下は自分の数値を見て目を丸くし、父上もその数値を見て、あまりにも驚いていたため、俺とディアと、ついでにショウも確認の為に身を乗り出した。
すると、陛下の数値は見た事のない結果になっていた。
針が白に振り切れるどころか、カツカツと小さく音を鳴らしながら、針は更に白の方へと移動しようとしており、闇化で命を落とす者の逆の状態になっていたのだ。
「これは凄いね。ユユが自分で考えて癒そうとすれば、特級の俺達でも白になるからね」
「ただ、そん時のユユの癒しは、魔法に近いんだろうな。癒そうとすれば、こうして眠って回復してんだよ。ただ、魔力は感じねーし、癒し子特有のナニかだなぁ。コレ、神官のショウなら知ってんじゃねーの?」
ウェルダーに訊けば、ショウかシアなら知っている可能性があると言っていた事だ。
特にショウの場合は、他国への調査をしてもらっていたため、闇ノ国で知られていない情報も知っているのではないかと、他の神官達も言っていたのだ。
「知ってますが、それを知ったのはつい最近です。本来であれば今頃、報告すべき件とともに、ディオ様とディア様にお伝えするものも全て、陛下とフェンリア公爵に報告するつもりでした。癒し子様には……聞かせるべきではないと思っていましたので」
なるほどね。
これはたぶん、シアと話し合ったんだろうね。
ショウはいつもなら、調査から帰ってきてすぐに報告してくるからね。
でも、今回はそれをしなかった……これは婚約についても関係がありそうだ。
ソファに座り、報告を聞く姿勢になると、ショウは俺の膝の上で眠るユユが、本当に寝ているかの確認をしてから、口を開いた。
「まずは光ノ国への調査ですが、癒し子様を追い出した光ノ国は、着実に崩壊へ向かっています」
それは今までと変わらないね。
あの国が崩壊しようが、どうでもいいけど、奴らがユユについて気づくのは面倒かな。
その前に、さっさと自滅してくれないかな。
「ですが、最近になって異世界の者が闇化したかのように、様子がおかしくなり、癒し子様を捜しに光ノ国を出ては、国の者に回収される。といった状況が繰り返されています」
うっわ……最悪じゃん。
光ノ国でも闇化した奴が出たって事でしょ。
それに、ユユを捜すって事は、ユユの癒しに気づいてるか、なんとなくユユを求めてるのか……どっちにしても嫌な話だ。
「それと同時に、森の調査も行っており……光ノ国では、癒し子様は死んでいて当然という扱いとなっています。要は、死体捜しです」
その瞬間、部屋の空気が重くなり、俺はユユの周りにのみ結界を張った。
そのため、全員が怒りを隠しもせず、ギンやアスルまでもが本来の姿になった。
ギンは真っ赤な炎を纏ってディアの隣へ立ち、アスルは青い炎を纏って俺の肩に乗ると、まるで俺達の使役獣のように振る舞い始めたのだ。
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