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第一章
10.安心する場所
しおりを挟む「ようこそ、ユユ。ここが闇ノ国中央の空中都市にある、フェンリア公爵邸だよ」
空鯨から降りると、そこには真っ白な屋敷があり、敷地内は開放的で広々としていた。
白い建物は、空中都市では当たり前なのか、どこを見ても同じように見えてしまうが、僕が連れて来た動物や魔物が、自由に動き回れるほどの敷地の広さは、さすが公爵家と言ってもいいだろう。
「ユユ、我が家へようこそ。これからは、ここで生活するといい」
「まずはユユくんを部屋へ案内しないとね! 住処がなければ、落ち着けるものも落ち着けないでしょ」
「じゃあ、俺が案内するよ」
そうして、僕は一階にある青い扉の部屋に案内され、大きな窓からは屋敷に入れなかった、大型の魔物達が寛いでいるのが見える。
「ここがユユの部屋だよ。下手に二階にするよりも、一階で魔物達に見張ってもらった方が安全でしょ? それに、ユユも外は好きそうだからね。いつでも庭で昼寝できるよ」
「僕の部屋……癒し部屋になる?」
「大丈夫。ここはユユの部屋だから、安心して巣作りしてもいいよ」
巣作り! 僕の部屋で、巣作りしてもいい場所。
初めてだ。
安心できる場所。
「ディオ! 本当に巣作りしてもいいの?」
「いいよ。ユユの巣作りに必要な物があったら、俺に言ってね。一緒に買いに行こう」
巣作りに必要な物? 僕、巣作りはした事ないから分からない。
どうやってやるんだろう。
「巣作りってどうやるの? 教えてもらった事なくて、巣作りしたい気持ちはあっても、巣作りは許してもらえなかったから分からない」
僕が首を傾げれば、ディオは僕の頭を撫でてくれたため、尻尾を揺らして目を瞑れば、ディオはギリッと歯を鳴らしながら、強く抱きしめてきた。
「あー、可愛い。ユユの巣作りは俺が教えてあげるから、マズルガードだけ買ってからでもいい? 噛み殺しそう」
う、うん……僕も今、命の危険を感じる。
揺らしていた尻尾も、今は足の間に挟み、耳も下げてブルブルと震える。
「怖いよね。ごめん。でも、ちょっとだけ待って。今逃げられたら、本当に噛み殺しちゃうから」
「ピチチ」
「ワフッワフッ」
アスルとギンも、僕に動くなと言うように警戒していて、ディオは僕の首を舐めてくる。
口を開くたびに牙があたり、恐怖で気を失いそうになるが、ディオは僕をベッドに押し倒して、大きく口を開く。
そこで、鋭い牙を間近で見た僕は、気を失うよりも先に獣の姿になってしまい、抱きしめていたぬいぐるみよりも、小さくなってしまったのだ。
「ッ!? ご、ごめんなさい。こんな、姿になって……い、今戻るから、叩かないで」
「ユユ……可愛い! なにこれ、初めてミックスの獣化見た! 可愛い、可愛い! こんな可愛いのに、叩くなんてありえない」
ぬいぐるみの下で震えながら謝ると、僕はディオに抱き上げられ、すぐにタオルで包まれて優しく撫でられる。
タオル……落ち着く。
この姿で、こんなに優しくされたの初めて。
「大丈夫だよ。落ち着いたら元に戻れるからね」
「ピチチッ!」
「クゥーン、クゥーン」
アスルとギンが僕に擦り寄ってくると、他の動物達も僕の周りに集まってきて、ディオが動物達に埋もれそうになる。
しかし、ディオは嫌な顔などせず、僕を撫で続けてくれた。
「ユユ、怖がらせてごめんね。でも、ユユの獣化が見れて良かった。ユユは数値を測るバングルを持ってないから、獣化に合わせて服を収納したり、戻った時に裸にならないようにしたりはできないんだね。気づかなくてごめん」
そういえば、ディオは戻った時に服を着てた。
あれはバングルのおかげだったんだ。
「僕、このまま戻らない方がいい?」
「戻れるなら、俺は一回部屋から出るから、服を着ていいよ。もう戻れそうなの?」
「ううん。まだ戻れない……ディオ、僕の獣化って……へ、変じゃない?」
気になっている事を恐る恐る訊いてみると、ディオは首を傾げたため、僕も真似をして首を傾げてみた。
「ッんぐ、可愛すぎる。もう、可愛いから安心して。可愛すぎて誰にも見せたくない。それにほら、見てごらん」
ディオは、嬉しそうに数値を僕に見せてくるため、少しだけタオルから出て確認してみると、ディオの数値は白の中間あたりまで減っていたのだ。
それを見た瞬間、嬉しくなって尻尾が揺れてしまい、タオルから尻尾と顔だけが出ている状態になってしまった。
「ディオ、ありがとう! 僕の獣化は、ずっと駄目だと思ってた。白くて気持ち悪いって言われて、暗い場所だと目立つから、隠れてもすぐに見つかって叩かれるし、鞭で打たれると血が目立つから、真っ黒に染められた事もあったの」
僕はディオの手に、頭をグリグリと押し付けると、ディオはもう片方の手を噛み、僕を抱えて勢いよく部屋を出て行く。
ディオが向かった先には、パパさんとママさんがいて、知らない犬獣人もいたが、ディオの様子を見ると、パパさんがすぐに動き、ディオにマズルガードをつけたのだ。
「はぁ……父上、助かったよ。あと少しで、ユユを噛み殺すところだった」
「ディオ、何があった! ユユは───」
「可愛い! ユユくん、獣化しちゃったの? 可愛いね」
マズルガードをつけられたディオが、自分の手を治療する間、僕は心配になってタオルから出ると、パパさんは驚いたように固まってしまい、ママさんは僕に近寄ってきた。
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