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第一章
7.ディオの暴走
しおりを挟む少しの間、僕はママさんに撫でられながら、動物達と触れ合っていると、突然ギンが馬車の上から降りてきて、僕を呼ぶように吠える。
「ギン、どうしたの?」
「ワフッワフッ」
「外に出ろって言ってる? でも、僕はここで留守番しないといけないんだよ」
「グルルルル」
うぅ、なんか怒られた。
なんで僕、ギンに怒られてるの?
「ん? この音は……ディオが暴走しそうになってる」
ママさんは耳をピクリと動かすと、急いだ様子で僕を抱き上げ、馬車を出た。
馬車を出れば、魔物や動物達は嬉しそうに僕に集まってきて、少しでも僕に触れようと、群がってくる。
「ピチチチチッ」
「グルルルル」
アスルとギンが注意をしてくれたのか、みんなは僕から少し離れてくれる。
しかし、それでも僕の服を噛む子や、小さな鳴き声で僕を呼ぶ子がいて、ママさんは絶対に僕を下ろさないように、手に力を入れる。
「ユユくん、あそこに見えるの……誰か分かる?」
あそこ?……血だ。
血だらけの狼だ。
「ディオ?」
「そう。アレが、ディオの暴走だよ。魔物にしか見えないでしょ」
そうなの? 魔物には見えないけど……ディオ、悲しそうだよ。
それに、黒い霧も出てる。
「ほんと……何を言って、ここまで怒らせたんだか。ユユくん、怖くなかったらディオのところに行ってあげてほしい。周りは私とキキョウで、押さえつけておくから」
そう言って、ママさんは僕をディオの元まで連れて行き、ディオの近くで僕を下ろしてくれる。
「ディオ、血だらけだよ」
「……」
ディオは僕の声に反応はするものの、何も言わずに騎士団に向かって殺気を放ち続け、僕の方は見ようとしない。
「ディオ、馬車に行こうよ」
「……」
「僕が洗ってあげる。ギンもみんなも洗わせてくれないから、ディオが初めてだけど、ちゃんと洗えるよ」
「ッぐ……」
あ、ちょっと声が漏れた。
もう少しで戻ってくれるかな?
「ディオが動かないなら、僕もここにいる。一緒にお風呂に入りたいから、ここに座ってディオとお揃い───」
「駄目! やめて……ユユに他の奴の血がつくなんて許せない。俺はただ、ユユを危険だと言うこいつらが、ユユにとって一番危険だと思っただけなんだよ。でも、そしたら……突然制御ができなくなって……初めて怖いと思った」
ディオは元の姿に戻ると、魔法で綺麗にしたのか、一瞬でその場の血がなくなり、僕を力強く抱きしめてくる。
「俺が死んだ後、ユユが誰かと結ばれるなんて、考えたくない。俺の死は、ユユの後じゃないと駄目だ。でも、制御ができなくなったら、俺は……」
「また僕が迎えに来たらいい? そしたら、ディオは寂しくない?」
「迎えに……来てくれるの? あんな姿を見せたのに。怖かったでしょ?」
怖い? 僕は特に怖いとは思わなかったけど……普通は怖いものなの?
「僕が怖いのは、お父様と転移者と元婚約者と……光ノ国は全部怖い」
もう、鞭打ちは嫌だ。
どんなに頑張って癒しても、ご褒美の鞭打ちは痛くて怖い。
僕にとっては、ご褒美なんかじゃなかった。
「ユユ、ごめん。嫌な事思い出させちゃったみたいだね。ユユが怖くないなら、迎えに来て。ユユが来てくれたら、俺は俺でいられる」
「うん! 僕が迎えに行く!」
そこで、完全に元通りになったディオは、怪我をさせた騎士達を治癒し、僕を抱えて馬車へ帰ろうとする。
しかしそんなディオを、知らない人が呼び止める。
「ディオ様!」
「はぁ~……しつこい。お前さ、俺の顔が好きなんだろうけど、俺はお前なんて知らないし、断ったよね? それに、勝手に名前を呼ぶなんて、常識ないんじゃない? そんなにこの顔が好きなら、ディアのところに行けよ。これだけの人数侍らせて、ユユを危険人物に仕立て上げようなんて、ただの馬鹿でしょ」
ディオ……すごい怒ってる。
可愛い感じの子も、僕のこと睨んでくるけど、まだ子どもなのかな?
「ディオ、子ども相手だよ」
「子どもだったら、騎士団なんて入れないよ。ユユは気にしなくていいから、早く帰ろうね」
「ディオ様! なんで……こんなに愛してるのに! どうして、どうして、どうして!」
なんか……闇ノ国は、愛の表現が凄いんだね。
ちょっと耳が痛い。
僕が自分の耳を押さえると、それと同時に叫び声が消え、ニコニコと笑顔で手を振るシアくんが、返り血をつけたまま僕に近づいてきた。
「シアくん、殺しちゃったの?」
「だってさ~、ユユの敵だし。うるさいし。ユユの耳に良くないと思って~。それに、こいつは他国のスパイで、狙いはユユだったみたいだし。ただ、任務中にディオ様に惚れちゃって、こんな風になったみたいだけどね~」
そうなんだ? よく分からないけど、シアくんは助けてくれたって事でいいんだよね?
「シアくん、ありがとう」
「ユユの為ならなんでもするよ~。俺もショウも、神官だからね~」
シアくんもショウくんも、神官だったの? じゃあ、僕のことも調べて知ってるのかな。
「シア、報告と騎士達の拘束を頼む。他の神官も連れて来ているんだろう?」
「はい。癒し子様の護衛をしていましたので、こちらにお任せください。それと、報告は自分がします。よろしいですか」
パパさんと話すシアくんは、僕の知っているシアくんではなく、感情が一切ないように感じた。
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