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第一章
5.特別な存在
しおりを挟む~sideディオ~
ユユについて報告を受けたのは、闇ノ国に入国してすぐの事だった。
ユユを保護してくれた薬屋夫妻は、ユユについての報告を毎日のようにライにしていた。
というのも、あの夫妻は伯爵家の専属医師でもあり、ユユがミックスの時点で保護対象だと知っていたからだ。
ミックスは、二種族以上の特徴を持っている事で体が弱く、成人前には亡くなってしまう。
しかし、ユユは元気に生きていた。
その事から、薬屋夫妻にはユユの様子を見てもらっていたのだが、ユユが元気に生きている原因が癒し子だと判明した時は、神官に客のふりをして様子を見に行かせたほどだ。
その神官は二人いて、ショウくんとシアくんと呼ばせるほど、ユユに心を開いたため、こちらから依頼をして、ユユと光ノ国についての調査を行ってもらっている。
「シアがユユの言ってた奴かな。あいつ、慣れない事するから、酷くなってるんじゃないの」
「シアは男娼で、情報を引き出しているんだったか。それももう終わりだ。今後は大丈夫だろう」
「ユユくんの為に、一番情報が集まりやすい場所を選んだのは本人だよ。それくらい、ユユくんに心酔してるんだろうね」
神殿の奴らは無感情ってイメージだったけど、やっぱり癒し子相手には別なのかな。
だとしても、戦争なんて無駄な事はやめてほしいね。
どうせなら、ユユの分までジワジワと苦しみながら、衰退していってほしい。
光ノ国は、三十年ほど前まで女性がいた分、いまだに人口だけは多いのだ。
そんな、人口だけが多い国と戦争をしても、こちらが疲れるだけなため、どの国も光ノ国は放置しているのが現状だ。
「はぁ~……俺さ、ユユとツガイになれるかな」
「……珍しいな。お前が自信ないなんて。まあ、顔はいいがディア殿下とも似ているからな」
「ディオは私に似ていて、ディアも私の兄に似ているからね。王族の血は、顔だけはいいから、ディオも自信を持ちな」
母上が王族であるため、俺も王族の血をひいている事になり、第一王子のディアとは従兄弟になる。
似たような顔に、似たような名前で、歳も同じとなれば、もはや双子のようなもので、実際俺達は一緒に育ってきた。
「ディアとは一緒に育ってきたからこそ分かる。ディアはユユをツガイにしたいと思うはずだよ」
「そうだろうね。本当に、昔から二人は似てるから」
「ディア殿下には、そろそろツガイをつくってほしいけどな。ただ、それがユユなら別だ。それに、私は息子の応援をしたい」
気を失っているユユを抱え、顔に擦り寄ってみれば、やはりユユからはいい香りがしてきて、まるでユユが俺の為に産まれてきたような錯覚に陥る。
ユユと会うのは今日が初めてにも関わらず、こんなにも愛しい気持ちでいっぱいになるのは、初めての感覚だった。
「ユユ、可愛い。ユユの好きなぬいぐるみ買おうね。あと、可愛い服も買わないと」
「それなら私も決めたいな。可愛い物が好きなら、可愛い服も好きだろうし、可愛い子を可愛くして、ディオに可愛がられているユユくんが見たい。私の部屋の服もきっと似合うよ」
「シュシュ、程々にな。ユユが楽しそうならいいが、押し付けるのは良くない」
母上は誰に着せるわけでもなく、可愛い服を集めるのが趣味になっている。
可愛い服をそのまま飾る事で満足し、使用人や父上ですら触らせてもらえない服を、ユユに着せようとしているのだ。
これは無意識だろうと、独占欲になるのだろう。
そして、それを父上が許すという事は、二人にとってもユユが特別である事は間違いない。
「でも、ユユに一番最初に着せるのは、俺の服だからね。そこだけは守って。俺の服は大きいと思うけど、寝巻きならいいよね。ユユならブカブカでもだらしなくないし、むしろ可愛いと思う。あー……可愛い、ユユ」
俺は更にユユに頬擦りすると、ユユは俺の長い髪を噛んできて、尻尾を揺らし始めた。
すると、アスルや動物達がユユの顔を順番に覗き込み、全員でユユの尻尾に合わせて横揺れし始めた。
「なにこれ、すっごい癒されるんだけど。俺の数値が、白になってる」
「私も白に振り切れている。シュシュとツガイになった時以来だ」
「私は眠くなってきたかな。身体も軽いし、顔が緩んでるのが自分でも分かる」
父上と母上に目を向ければ、二人とも見た事がない程、穏やかな表情をしていて、最後にギンが上から顔を覗かせる。
「ワンッ」
「ッ……あれ、僕寝てた」
ギンは、わざとユユを起こしたのだろう。
俺はユユに気づかれる前に、急いで髪を引っ張るが、ユユに噛まれた部分だけが白くなっていて、髪の魔力が消えていたのだ。
「ユユ、体調はどう? 気を失ってたんだよ」
「うん……気持ち良かった。もう少しだけ寝たい」
「グルルル」
ギンは眠る事を許さないのか、ユユに向かって唸り、ユユは俺に甘えるようにしがみついてくる。
「うぅ~……起きるよ」
起きると言いながらも、俺にしがみついたまま、目を開けようとはしないユユは、俺の胸に顔を擦り付け、俺の心臓を壊そうとしていた。
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