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50.終わりのない愛を永遠に

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 数年後、気持ちの良い風により桜が舞うなか、シャチの尻尾を揺らして二人の天使と白狼を眺めるククと、ククの尻尾に龍の尻尾を絡めて寄り添うシシの姿があった。


「ココ、見て見て。俺達のかか様は今日も可愛い」


「うん。僕達のかか様は今日も綺麗だね」


 ククが微笑みながら天使達を眺めるなか、少し離れた場所から、双子の天使は白狼の毛並みを整えながらククを褒める。
 二人は日に日に成長していき、小柄なククよりも育ってしまったが、元気に育ってくれた事にククもシシも安心していた。
 そしてなにより、ココの声が出ない代わりに、ココの口の動きに合わせて文字を表示できるよう、魔法を付与したガラスの板を、ククとシシで創造した事で、問題なく会話が成り立つようになったのだ。
 記録器を改良し、ココの口の動きを記録しつつ、その場で文字として作り出せるよう、何重にも魔法を付与し、それをシシが上手く加工したものである。
 だが、口の動きによって正しく文字が表示されなかったり、文字の表示が遅くなったりと、何度も失敗した結果、ココの特徴と性格に合わせた神器が完成したのだ。


(僕のモコモコちゃんが、また僕の話をしてる。というか、あの二人は僕のことを好きすぎるよね。毎日毎日、シシと一緒に褒めてくれるものだから、僕の可愛さに磨きがかかってるよ)


 相変わらずのナルシストだが、実際にククは美しさと可愛いさを兼ね備え、家族以外の者は誰であだろうと、緊張のあまり直視できなくなり、モノノケであれば誰の眷属であってもククに従ってしまうほど、捕食者としての魅力が溢れてしまっていた。
 狩りとは本来、自分が生きる為であったり、家族を飢えさせない為に行うものだが、ククの場合は心を奪う狩りになってしまうため、家族を得たククが無意識に家族を守ろうとしてしまっているのだ。
 しかし、無意識であるククは、家族が自分を褒めてくれるから、それに応えているのだと思い込んでいる。
 クク独自の思い込みは相変わらずではあるが、間違いとも言い切れない部分があるため、シシはククの思い込みをそのままにしていた。
 なにより、他の者がククを直視できないというのは、シシにとっても都合が良かったのだ。


「クク、そろそろだよ。彼らの魂が全員揃った」


 そう言ったシシは、遠くの方を指差す。
 そこには、懐かしい友である海龍の姿があり、その手に命の炎が灯った魂が、五つ揃った状態で運ばれていた。


「シシ……気のせいかな?僕の友達が成長した」


「アレは海龍だからね。本来の姿があの大きさで、贄を貰う代わりに流底を守っていたんだよ。まあ、それも全て水神の眷属として、海を守る使命の中に入っていたんだけどね」


「じゃあ、どうして贄を?使命なら、贄は必要なかったんじゃ……」


「それは、魚人側に守ってほしいと言われてしまったからだよ。願われれば、それ相応の対価が必要になるからね。今のククなら分かるでしょ?神でないにしても、水神の眷属である霊獣として下界にいる以上、何もなしに手を貸してしまえば、人々は堕落し、最悪の場合霊獣をいいように扱い、争いも増えるだろうね。そうなってしまったら、下界はカオス状態になる」


(何かを求めるなら、対価が必要って事なのかな。確かに、父さんも僕を生み出すのに視力を失ったし、シシは……たぶん傷つきながら僕と接してきたし、僕しか愛せなくなった。僕も神になる時は時間を奪われて、今でもたまに時空が歪むんだ。ココも……僕が真名をつけちゃったけど、それでも声を失って今がある。それはココも望んでいた事だったのは今なら分かるけど、それでも僕が奪った事は事実で、僕はこれからも自分を責め続ける)


 ククは自分と向き合うなか、いまだにココの声の事は気にしている。
 それでも、ココが幸せであるよう願い、その幸せには自分の笑顔が必要だと分かっていて、シシに甘えて幸せを噛みしめる。


「甘えるククは可愛いけど、俺も同じだからね。一緒に背負っていこう。大丈夫、失ったものよりも――」


「今あるものを大切に……だよね。うん、分かってる。きっと今の幸せは、あの時に自分にとっての安定っていうものを、手放さなかったら手に入らなかったものだ」


「それはさっき、ククが考えていた事?確かに、生きていれば神だろうと、それ相応の対価は必要だろうね。でも大丈夫。ククには俺がいるよ……ほら、彼らも来た。一緒に笑顔で迎えてあげよう。あの日依頼の再会だ」


 そうして、目の前にやって来た海龍と、五つの魂をククは笑顔で迎え、白狼と子ども達もククとシシの元に来る。


「久しぶり、クク」


「うん!久しぶりだね、僕の大切な友達」


 海龍がゆっくりとククに顔を近づけると、ククは海龍の鼻に触れて尻尾を揺らす。
 すると、五つの魂はククの周りにフヨフヨと集まり、ククを愛でるように頭に触れていく。
 そんな魂の行動に、ククの涙は溢れてしまうが、シシがククの肩に手をのせると、ククは笑顔で両手を広げた。


「おかえりなさい、僕の家族――」


 何年経っても、どんな経験をしても変わらない愛がそこにはあった。
 この世界のものであれば愛であっても、どんな形だろうと少しずつ変わっていくものだと信じていたククは、またひとつ自分が知らない愛を知り、これから先もククはシシとともに、さまざまな愛に触れていくのであろう。
 魂が望むまま、終わりのない愛を永遠に――




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