上 下
46 / 50

46.二つの魂

しおりを挟む


 二つの魂には、桃色と紺色の炎が灯っている。
 その二つは、ククのお腹に寄り添っていて、シシが何度も紺色だけをククから引き離そうとしていた。


「シシ、何してるの」


「何って……なんだろうね。よく分からないけど、紺色の魂はククにくっつきすぎないようにしないといけない」


(なんで?離しても僕のところに戻ってくるなら、そのままにしてあげたらいいのに)


 ククはシシの手を引っ張り、自分からシシにくっつくと、二つの魂がククとシシの間に入る。
 既に自我が芽生えているような二つの魂に、シシは微笑みながらククの額に口づけをし、ククも尻尾を揺らした。


 そうして数日、ククは巣から出なかったが、シシが何度か巣から出て、紺色の魂だけを連れ出した。
 その間、桃色の魂は甘えるようにククから離れず、ククが少しでも動けば、ククのお腹に何度も擦り寄る。
 シシは桃色の魂には触れようとはしないが、時間が経つにつれて、桃色の魂もシシにはあまり近寄らなくなり、紺色の魂にもあまり近寄ろうとはしない。
 だが、ククにはこれでもかと言うほど甘え、紺色の魂も甘えようとするのだから、ククは不思議で仕方なかった。


「――シシ、そろそろ魂から命になるかな?」


「そうだね。真名がついたら、きっと肉体ができて姿が変わるよ。ただ、桃色は古竜に会わせてから真名をつけよう」


(……僕だけ何も分かってない気がする。なんだろう、この違和感)


 魂がある程度育ち、漸くククと桃色の魂も巣から出て数日、色のついた炎が球体の魂から出てしまうほど元気に育った。
 だが、ククはいまだに違和感があり、二つの魂に対してのシシの扱いが違う事と、桃色の魂もシシを避けている理由が分からなかったのだ。


「シシ、僕の違和感に気づいてる?シシをさぐっても分からないんだ」
 

「俺も本能で動いているようなものだから、さぐっても分からないだろうね。おそらく、紺色がアルファで桃色がオメガだと思うよ。魂の状態じゃ分からないし、そもそも性別も種族も分かっていないからね。ただ、俺の本能はそう言ってる」


(アルファとオメガ……僕には全然分からないけど、そう言われると、そんな気がしてきた)


 ククが桃色の魂を抱き、シシが紺色の魂を抱く。
 だが、紺色はククの方へ行きたい様子で、何度もシシの腕の中からすり抜けようとする。
 そんな時、シシが何かをしたのか桃色は怖がるように炎を揺らし、紺色はピタリと止まって動かなくなってしまった。


「この子達も分かってるだろうね。悪いけど、俺はこの子達に愛情をあげられない。無意識に威圧してしまうんだ。オメガには、俺に決して触れてくれるな。触れていいのはククだけだ。アルファには、ククに触れるな。触れていいのは俺だけだ……と。ごめんね、クク」


(シシの独占欲が、ここまでとは思わなかった。でも、シシはちゃんと育ててくれてるし、たぶん愛はある。じゃなかったら、紺色を連れ出して尻尾を揺らしたりしてない)


「この子達が分かってるなら、僕が愛情を与えるから大丈夫。でもね、シシには愛情があるって僕には分かるよ。シシが神力を与えてくれなかったら、僕一人じゃここまで元気には育たなかったんだから」

 
「良かった……ククに失望されるかと思った。少し怖かった。これでククに嫌われるかと思うと……でも、俺は子づくりを間違いにしたくはなかったし、この子達の存在を間違いになんてさせない。愛せないと分かってても、ククを愛してることに変わりはないし、ククとの子が欲しかったのは事実で、今が幸せではあるんだよ。愛せなくても、この子達を俺が嫌う事はないし、大切にする事はできるから……だから、できるだけ俺の逆鱗に触れないようにした」


 シシの複雑な気持ちは、ククにも伝わっていたため、それを咎めるつもりはなく、ククは桃色の魂を抱きしめながら、シシの龍の尻尾に自分の尻尾を絡めた。


「シシ、肉体ができたら、紺色にも触れていい?きっと、魂が剥き出しになってるから嫌なんでしょ?」


「……そうかもしれないけど、分からない事を決めるのは難しいかな。ククは勿論だけど、この子達も傷つけたくはないからね」


「それなら、今すぐに古竜と桃色を会わせてみよう!そうしたら、この子達の真名もつけられる」


「そうだね……そこに創造神も呼ぼうか。そろそろ孫の様子を見たくなる頃だろうしね」


 そうして、シシが眷属達に頼んで古竜と創造神に、茶会の招待状を送り、その後すぐに二人は宮殿にやって来た。
 茶会は外庭でやるため、魂を入れる為の籠を用意し、桜の花弁入りのお茶を出す。


「クク、シシ、おめでとう。久しぶりのククは、少し大人になった気がするね」


「クク……おめでとう。そ、それと……」


 創造神はククの頭を撫でてから、二つの魂が入る籠を揺らして微笑む。
 一方古竜はというと、ククに目を奪われた後、桃色の魂から目を離さなくなり、桃色の魂もまた、古竜の方へ行きたそうに桃色の炎を動かした。


「シシ、モモが行きたそうだよ。でもココは暇そうだ」


「モモ、ココ……それ、呼び名?急な名付けだね」


 ククの急な名付けにシシは戸惑いながらも、苦笑いでククの名付けを受け入れ、桃色の魂であるモモがいる籠を、古竜の膝の上にのせた。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

ハルに全てを奪われた

和泉奏
BL
「好きなヤツを手にいれるためなら、俺は何でもできるんだぜ」

周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)

ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子 天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。 可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている 天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。 水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。 イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする 好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた 自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

処理中です...