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45.望む子
しおりを挟む警戒していたシシも元の姿に戻ると、古竜はノノと呼んでほしいとククに言い、シシには子づくりの予定を訊く。
「まだ分からないよ。俺だってククに求愛中なんだし」
「そ、そう……残念だけど待つ。僕のツガイ……僕だけのツガイ。ククの子が……僕の――」
「ノノ様、まだ決まってないよ」
「ッ……ククが、呼んでくれた!嬉しい。クク……ノノと呼んで」
(それは……ノノくんでもいいかな?)
癒し系のような古竜だが、話が正しく伝わらない事に、ククは自分のツガイがシシで良かったと思った。
だがそこで、ククも似たようなものだ、というシシの考えが伝わってきて、そこに愛しさも含まれていたが、ククはシシに向かって尻尾を叩きつけた。
それでもシシが、ククに向ける感情は変わらず、ククは頬を膨らませながらも、頬を赤く染めて嬉しそうにする。
そんな二人の様子を羨ましそうに見る古竜は、ククに惹かれているのは事実であっても、シシのように胸が苦しくなるような様子もなければ、嫉妬や怒りといった感情も見えず、ただひたすら羨ましそうに見つめてくるのだ。
(やっぱり、ノノくんはシシと違う。ノノくんを見てると、昔の僕を思い出す。まだ愛も恋も知らなかった僕と同じだ)
「ノノくんは、僕を好きなの?愛してる?」
「呼び方、可愛い……僕はククが好きだから、ツガイにしたかった。可愛くて、モノノケに優しくて……シシのツガイなら、僕ともツガイになってくれるかもしれないと思った」
ククは予想通りの答えが返ってきて満足げに頷くが、シシにとってはそうではなく、驚きと苛立ちに顔を歪ませた。
「ククが可愛いのは当然だし、好きになるのも分かるよ。けど、俺はツガイを共有する趣味もなければ、ククを手放すつもりもない。ノノ、君はもっと愛について知るべきだ。あの頃のククの匂いに耐えられるのなら、それほど強くツガイを求めていたんだろうし、自分の性格の壁すら超えていた。それで愛を知らないなんてもったいないよ。愛を知るには俺達の子づくりは、ちょうどいい期間だと思うし、ノノが望むなら魂の時から会わせてあげてもいい」
(確かに。子どもだって、きっと愛し愛される為に生まれたいはずだもんね。よし、それなら僕達の子は、愛に溢れる子に育てよう!みんなから愛されて、みんなを愛してくれるような子――)
「ッ……クク、帰ろうか?大丈夫?」
シシがククの顔を覗き込んでくるが、ククはなぜだろうと思いながら、ものすごい勢いで首を横に振る。
「嫌だ!帰らない。シシとのデートは大事にするんだ。それとも、シシは帰りたいの?」
「そういうわけではないけど……そうだ、こっちにおいで。ノノは、もう帰りなよ。ククと話すことは許すし、宮殿に遊びに来る事も許すから。下界で頑張っておかないと、あとでツガイができた時に融通がきかなくなるよ」
すると、古竜は急いで下界へ行き、ククはシシに手を引かれて森の中へと向かった。
ククはシシが求愛をしようとしていることに気づいたが、今日の分の花は既に受け取っていたため、首を傾げて不思議に思う。
そうして暫く歩くと、花畑となっている場所に着き、シシは丁寧に花を摘む。
ククは、その様子を静かに見守っていたが、明らかにいつもよりも量が多かったため、恐る恐る口を開いた。
「シシ、話しかけてもいい?」
「どうしたの?ククなら話しかけてもいいけど、見ての通り求愛用の花を摘んでいるところだから、止めても無駄だよ」
「それは知ってる。ただ、いつもよりも量が多い気がして」
「それはククが子づくりに向けて、心の準備を始めたからだよ。フェロモンが俺を誘ってた。だからさっき、ククに帰るか確認したんだよ」
ククは知らないうちにシシを誘っていた事が恥ずかしくなったが、シシは嬉しかったと言ってククに求愛した。
求愛の花束は、どれも根っこから抜かれているため、ククの巣づくりにはちょうど良く、巣を囲うように植え付けられると考えたククは、巣に帰りたいと言った。
そしてそれを分かっていたかのように、シシがククを巣へ連れて帰り、今度は子づくりの為の巣づくりを始めた。
だが、今回のククは前回とは違い、シシを桜の木の中にすら入れず、一人で巣づくりをしたのだ。
運命のツガイとなったからこそ、安心して一人で巣づくりをし、シシが求愛の為に桜の木の前に花を持って立てば、ククは求愛を受け取って再び巣にこもる。
そうして外では数日、桜の木の中ではひと月ほどかけて巣を作り、ククはシシを巣の中に招き入れた。
「シシ、準備ができた!見て見て、これで安心して子づくりができる。僕が望んで、シシも望んでる子だし、きっと大丈夫だよね?」
「大丈夫、ククが思うように、きっと愛し愛される子になるよ」
それから二人は巣の中で抱き合い、深い眠りにつく。
神々の子づくりとは特殊である。
互いの神力で巣の中を満たし、創造と同じく子を望む事で神力が魂となるのだ。
しかし、それにはあまりにも多くの時間と神力が必要であり、二人は眠って神力を解放した。
そうして長い間眠り、先にシシが起きた後、ククが目覚めると、巣の中には二つの魂が転がっていたのだ。
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