36 / 50
36.術の相性(sideシシ)
しおりを挟むククが白狼の毛に埋もれている間、シシは白狼から報告を受けていた。
まず、輪廻転生は安定しているようで、冥界の都市についてもシシが知っている現状と、あまり変わりはなかった。
冥獣は都市の管理に追われ、神々の眷属も弟子を決め始めている。
だが、弟子の居場所や修行場がないようで、そのあたりは創造神が動いているらしい。
それと、亡者が増えてしまった事でモノノケに悪影響があるらしく、そのあたりは古竜が対処しているようだ。
「修行中は眷属が付き添って、クク様の神器を使っている。だが、中にはクク様の神器を持ち出し、自分の物にしようとする眷属や弟子がいる。それと、クク様に接触しようとする者も少なくない」
「それは知っている。ククの神器だけで、穢れの原因はだいぶ見つかったんじゃないかな。創造神はどうすると言ってる?」
「輪廻転生で下界に追放だそうだ」
(またイチから魂の修行をさせるのか。まあ、眷属になる事はもうないだろうけどね)
ククは時神になった事で、白狼の言葉が分かるようになったはずだが、無反応で白狼の毛に埋もれている。
シシは、ククがもっと興奮するものと思っていたため、内心驚きながらも創造神が今後どうするつもりなのかと続けた。
「それを話すのは、主と古竜だけだ。それとクク様もか……分かっているだろう。クク様が無事に目覚めたら、会いに来てほしいと言っていた」
「分かったよ。けど、ククが休んでからかな。まだ疲れは残ってるだろうし」
「シシ、父さんの所に行くの?それなら、シシが生まれた場所にも行ける?あそこの風景を記録したい。だから、神器?記録物?も作ってから行きたい」
やはり話が聞こえていたククは、白狼の顔を撫でながら話に加わる。
顔の周りの毛を弄られている白狼は、気持ち良さそうに目を閉じながら、尻尾を揺らしてククの手に擦り寄ると、それ以上は話さなくなった。
「それなら、ククの神器……記録器でいいか。それが完成して、時の術も上手く扱えるようになったら行こうか」
時神になった以上、創造と付与だけがククの術というわけではなくなる。
付与は、あくまで創造神の息子である証のようなものであり、創造は神であれば使えるものだ。
ただ、それぞれの神によって、何を創造できるかは違ってくるが、シシのツガイであるククはなんでも創造できてしまう。
しかし、残念ながら今のところは、塊の創造だけが得意である。
そしてシシも、ククが時神となった事で時間を扱う事ができるのだが、やはりこちらもククの術は不得意である事が分かった。
(魔法付与は神とか関係なく、ククが分け与えられたものだから使えないかな。けど、時間なら……これは気持ち悪いうえに、扱いにくい。ククが塊しか創造できない理由が、漸く分かった)
「シシ?さっきから、時空を歪めてるの?それとも、僕との時間を変えてる?」
「試してるだけだよ。でも、俺は無理そうかな。ククが塊しか創造できないのと同じらしい」
「そうなの?シシなら、なんでもできると思ってた」
「なんでもはできないよ。一見、創造神と同じように、なんでもできるように思えるけど、破壊と再生はいつかなくなったり、壊れたりするものに限る。俺が有限を創造できるのなら、創造神は有限も無限も創造できる。そして俺は、有限を無限にする方法を知っていて、それが破壊と再生。ある程度で破壊し、そして再生する事で、偽りの無限が可能になるんだよ」
ククは、よく分からないと言いたげに首を傾げた。
実際、シシも創造神と自分の違いが分からなくなる時があるが、それでもこの世界を創造したのは創造神であり、自分はその世界があるからこそ存在できるのだと知っている。
だが、無に破壊して新たに再生させる事は可能であるため、創造神ですら恐るほど、シシは創造神に近いのだ。
要は、基盤となる世界というものさえあればいいのだ。
それ故に、シシは魂を無にしても、ただの入れ物となった魂に、命を吹き込む事ができていた。
しかし、時間に関して言えばこれは無限であり、決して停滞する事なく無限に進み続けるものである。
そのためシシには扱いづらく、破壊する事も再生する事もできないものは、どう頑張っても完璧に使いこなす事はできないと感じた。
だが物質の時間という、寿命や劣化といった有限のものであれば破壊と再生に似ているため、ある程度扱う事は可能だ。
「シシの話は難しい。よく分からないけど、シシができない事を僕が補えるのなら嬉しいな。シシも、僕の創造した塊の形を整えてくれる。僕も同じ事をしたい」
(俺のツガイがいい子すぎる。好きが溢れてるのが分かる)
「ククは本当に可愛いね。俺の自慢のツガイだよ」
「シシも僕の自慢のツガイだ!」
ククがシシを愛し、一生懸命シシに愛を伝えようとしている姿が可愛らしくて、シシはククへの耐性をつける事が最優先だと思いながら、ひとりで悶えていた。
だが、そんなシシに抱きついて尻尾を揺らすククに、シシはククをベッドに連れて行って、ククを隠すように抱きしめた。
(あぁ、駄目だ。襲いそうになる。ククはまだ疲れて――)
「シシ、しないの?」
そこでシシは白狼が部屋から出て行った事を確認し、ククをベッドに押し倒して口づけをした。
10
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
騎士団長である侯爵令息は年下の公爵令息に辺境の地で溺愛される
Matcha45
BL
第5王子の求婚を断ってしまった私は、密命という名の左遷で辺境の地へと飛ばされてしまう。部下のユリウスだけが、私についてきてくれるが、一緒にいるうちに何だか甘い雰囲気になって来て?!
※にはR-18の内容が含まれています。
※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
王子の俺が前世に目覚めたら、義兄が外堀をやべえ詰めてきていると気づいたが逃げられない
兎騎かなで
BL
塔野 匡(ただし)はバイトと部活に明け暮れる大学生。だがある日目覚めると、知らない豪奢な部屋で寝ていて、自分は第四王子ユールになっていた。
これはいったいどういうことだ。戻れることなら戻りたいが、それよりなにより義兄ガレルの行動が完璧にユールをロックオンしていることに気づいた匡。
これは、どうにかしないと尻を掘られる! けれど外堀が固められすぎてて逃げられないぞ、どうする!?
というようなお話です。
剣と魔法のファンタジー世界ですが、世界観詰めてないので、ふんわりニュアンスでお読みください。
えっちは後半。最初は無理矢理要素ありますが、のちにラブラブになります。
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
【報告】こちらサイコパスで狂った天使に犯され続けているので休暇申請を提出する!
しろみ
BL
西暦8031年、天使と人間が共存する世界。飛行指導官として働く男がいた。彼の見た目は普通だ。どちらかといえばブサ...いや、なんでもない。彼は不器用ながらも優しい男だ。そんな男は大輪の花が咲くような麗しい天使にえらく気に入られている。今日も今日とて、其の美しい天使に攫われた。なにやらお熱くやってるらしい。私は眉間に手を当てながら報告書を読んで[承認]の印を押した。
※天使×人間。嫉妬深い天使に病まれたり求愛されたり、イチャイチャする話。
魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!
松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。
15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。
その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。
そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。
だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。
そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。
「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。
前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。
だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!?
「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」
初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!?
銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。
周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)
ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに
ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子
天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。
可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている
天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。
水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。
イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする
好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた
自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い
そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語
王子様の愛が重たくて頭が痛い。
しろみ
BL
「家族が穏やかに暮らせて、平穏な日常が送れるのなら何でもいい」
前世の記憶が断片的に残ってる遼には“王子様”のような幼馴染がいる。花のような美少年である幼馴染は遼にとって悩みの種だった。幼馴染にべったりされ過ぎて恋人ができても長続きしないのだ。次こそは!と意気込んだ日のことだったーー
距離感がバグってる男の子たちのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる