35 / 50
35.乗り越えた先
しおりを挟む酷く長い時間、ククはひとりで耐え抜き、試練を乗り越えたのだ。
正確に言えば、シシもククを支えていたのだが、ククの時間はシシとは違ってものすごく長い時間であり、ただひたすら寂しさと孤独の恐怖に向き合い、心が壊れそうになるとシシと繋がれた手を思い出す。
時空が歪んでいく中でも、繋がれた手はククの支えになっていて、それによって何度も救われていたのだ。
「……シシ」
「クク、良かった。目が覚めたんだね。おめでとう、クク。よく頑張ったね」
目が覚めた時、久しぶりにシシの笑顔を見たククは、溢れる気持ちが制御できず、シシに抱きついて涙を流した。
(シシ、会いたかった。シシ、大好き。僕もシシを愛してる。僕にはシシだけだ。だから、離れないで。これからも僕のそばにいて。僕だけを愛して)
「クク、寂しかったね。俺も寂しかった」
「僕はシシが好き。もう、独りは嫌だ。シシの手だけが僕の支えで……シシ、シシ」
言いたい事が纏まらず、ククは自分が感じた事を全て口にしていく。
だが、最後にはシシの名前と『愛してる』だけしか出てこなくなり、その言葉に全ての想いを詰め込んだ。
これは、シシが今までククにしてきた事であり、長い間孤独であったシシだけが理解できる気持ちだ。
だからこそ、シシは運命のツガイでなくてもククの想いを理解する事ができ、シシも静かに涙を流してククを強く抱きしめた。
(やっとだ……やっとシシと同じか、シシに近づいた。僕もシシを愛してるんだ。シシの愛には負けるかもしれないけど、僕だってシシをたくさん愛してる)
「クク、愛してる」
「僕もシシを愛してる」
他の言葉を続けるよりも、この一言に全てをのせて伝える方が、自分の愛が伝わるのだと、今のククは知っている。
言葉にできないほどの、強い想いがあるからこその、この一言。
それがククにはとても大事な言葉であり、その言葉を発するシシがキラキラと輝いて見えてしまうのは、きっとシシに恋をした証であると、ククは感じていた。
そしてそれを、ククはどうしてもシシに伝えたくて、尻尾をブンブンと振りながらシシに顔を近づける。
「ねぇ、シシ……僕の恋を知りたい?知りたいよね?」
「そうだね。ククのことはなんでも知りたいな。ククはどんな恋をしてるの?」
「ふふん!僕の恋はね、キラキラして見える恋なんだ!シシが愛してるって言うと、雨上がりの世界みたいにキラキラして見える。水浴びした時みたいにキラキラしてるんだ!いいでしょ」
「あぁ、それなら俺は花だよ。ククが笑うと、いろんな花が咲く。凄く綺麗で儚くて、俺だけが知る恋だよ。羨ましい?」
互いにツガイの自慢話をしているようにしか思えないが、これは運命を決めるかどうかの攻防であった。
ククはシシを運命にしたいが、あともう一歩がなかなか踏み込めず、シシから切り出されるか、項を噛まれるのを待っている。
そしてシシは、ククの口から運命を聞きたいのだ。
(うぅ……シシに桜の花が咲いたら、絶対にもっとキラキラしてる。シシの桜、見てみたい)
そんな事を思いながら、ククは尻尾を揺らしてシシの首に噛みつく。
だが、オメガがアルファに噛みついても意味がないため、シシはククの行動に微笑み、ククの項に口づけした。
「いい匂い。誘えばいいのに」
(誘う……そうだ、発情期で誘ったらいいんだ!僕の発情期、早くこないかな)
「ねぇ、シシ……僕の発情期がどうやってくるか分かる?」
「オメガは基本的に、成人すると発情期がくるんだよ。けど、稀に精神的な面が原因で発情期がこなかったりするかな。ククの場合は運命のオメガだから、俺のツガイとして心が育てば発情期がくると思うよ」
ククは既に、ツガイとして愛が育っている。
時神となり、シシが自分にとってどんな存在なのか知る事ができたククは、いつ発情期がきてもおかしくはないのだ。
だが、いまだに精神が幼いククに発情期がくるのかは、シシでも分からない。
というより、シシがククに甘えてもらえるよう育てているため、ククは自然と幼くなっていくのだ。
「なるほど……それなら、僕がもっとたくさん、シシを好きになったら発情期がくるのかな」
(そしたら自然に誘えるし、噛んでもらえる!よし、この作戦でいこう!)
「俺のツガイが可愛いッ!」
ククがひとり、運命のツガイになる為の作戦を練っているなか、シシは悶えて苦しそうにしている。
そんなシシをそのままに、ククは白狼を部屋に呼んで、久しぶりに白狼の毛に埋もれた。
10
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
魔道具士になりたい僕に愛を囁く王太子には婚約者がいる
拓海のり
BL
十五歳になったエリクは王都の魔術学院に入学した。しかし魔道具作りが得意で、攻撃魔法はそれほどでもないエリクは学院では落ちこぼれだった。
だが、この学院で第一王子に出会ったことによりエリクの運命は動き出す。
タイトル変更いたしました。
他サイト様にも投稿しております。
BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました
厘/りん
BL
ナルン王国の下町に暮らす ルカ。
この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。
ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。
国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。
☆英雄騎士 現在28歳
ルカ 現在18歳
☆第11回BL小説大賞 21位
皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。
幼馴染は俺のかみさま
八
BL
主人公と一緒にいること意外全部どうでもいいと思っている無口無愛想幼馴染の世話を焼いてばかりの主人公くんだがしっかり幼馴染に依存して崇拝しているお話し。
◻︎執着無口幼馴染と世話焼き主人公くん
R15は保険です。
「食欲と快楽に流される僕が毎夜幼馴染くんによしよし甘やかされる」と同一世界ですが単品でお読みいただけます。
pixivにも投稿しています。
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
後輩に本命の相手が居るらしいから、セフレをやめようと思う
ななな
BL
「佐野って付き合ってるやつ居るらしいよ。知ってた?」
ある日、椎名は後輩の佐野に付き合ってる相手が居ることを聞いた。
佐野は一番仲が良い後輩で、セフレ関係でもある。
ただ、恋人が出来たなんて聞いてない…。
ワンコ気質な二人のベタ?なすれ違い話です。
あまり悲壮感はないです。
椎名(受)面倒見が良い。人見知りしない。逃げ足が早い。
佐野(攻)年下ワンコ。美形。ヤンデレ気味。
※途中でR-18シーンが入ります。「※」マークをつけます。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師の松本コウさんに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる