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33.魂の引き継ぎ

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 宮殿の外を少し進めば、産神と死神と狼獣の姿があり、産鳥となったサランとシシの眷属達、それから多くのモノノケ達が警戒するように、何かを囲っていた。


「ちょっとちょっと、なんで俺達が警戒されてるわけ?」


「冥獣が帰って来たっていうのに、おかしいよね?ボクら連れて来られただけなのにさ」


「……うるさい」


「他についてきた眷属もうるせェし。お前らも騒ぐんじゃねェよ」


 騒がしい場所にいるのは、冥獣とその眷属、そして他の神々の眷属も送られてきたようだ。
 そんな騒がしい様子を見て、シシはククを連れて帰ろうとしたが、産神と死神によって止められる。


「冥王、遅かったのう。魂の引き継ぎには、冥王の力が必須じゃ」


「すまない、全員を連れてくるには、さすがに時間がかかってしまった。それと、うるさいので早く下の都市に追いやりたい」
 

(ジジ様とロロ様、なんだか疲れてる。確かにうるさいけど……賑やかで楽しそうだ。でも、怖いから目立たないように下りた方がいいかも)


 ククは尻尾を揺らしながら、白狼の背から下りようとするが、シシがそれを許さなかった。
 これはデートではないとククに言えば、ククはおとなしく白狼の背に乗ったまま、その場の事は考えずに再び時間について考え始めた。
 今、ククにとって優先すべきは、答えの出ていない時間についてだ。
 そのため、この場では自分は関係ないのだと分かると、賑やかで楽しそうではあるものの、陸での事を思い出す賑やかさから逃げるように、シシの服を掴みながら自分が考えるべき事と向き合う。


「ククが怯えているし、早く済ませてしまおう。過去の傷は消えないし、ククが逃避する事を選んだのなら、これは自己防衛だ。急いでこの場から離してあげた方がいい」


「そうじゃな。尻尾は揺らしているようじゃが、かわいそうなほど魂が怯えておる。心と体が、あまりにもかみ合っておらんな」


「冥王、ククを育てるにしても、陸での傷はもう抉る必要はない。癒ない傷は、ツガイが守って補ってやるべきだろう。なぜ連れてきた」


「なぜ?逆になぜ分からない。ククには悪いけど、ククを残して来る方が危険だからだよ。ククは何をするか分からない。それに俺のツガイは活発だからね。目の届く範囲にいないと、すぐにどこかへ行ってしまう」


 騒がしい場所から離れながら話すが、ククは自分の世界に逃避してしまったため、この内容が聞こえておらず、シシの服と白狼の毛を掴んでいる。
 そして、そんなククが何を考えているのか、内心緊張しているシシは、ククが時を司る事になるのなら、静かな場所でゆっくりと時間をかけて考えてほしいと思っていた。


 神が何を司るようになるのか。
 それは、今まで様々な神の誕生を見てきたシシだからこそ、なんとなく分かってしまうのだ。
 どれだけ武芸に優れていようとも、知恵の神となった者もいれば、穏やかな者が憤怒の神となった者もいる。
 それは彼らの求めた神の姿であり、同じものを司る神でも、内容は違ってくるのだ。
 例えば、武神の中でも戦術や武器によって様々であり、扱う術も弓術、槍術、馬術など様々であるため、彼らの神術はあまり術らしくはないように思えるが、実際は大規模な術を発動する。


「それに、ククには冥獣のような神になってほしくはないからね。冥獣を見て、何か思うところがあるのなら、それでいいんだよ」


「それはそうじゃのう。彼奴ら、都市が水没しているとは言え、放置して冥界から逃げおった」


「冥界というより、冥王から逃げたんだろう。冥獣は、冥王を怖がっているからな……この辺りでいいか」


 うるさくない程度に離れた場所まで来ると、ククの意識はシシ達の方へ向き、魂の引き継ぎの瞬間を静かに見守る。
 多くの水が浮かんで、空中で回転するように球体になると、産神と死神と狼獣が発動した術で空中に留まり、そこから次々と転生が行われていく。
 そして水没していた都市はだいぶ下の方にあり、シシの視線の先にいる冥獣や眷属達は、シシと産神の眷属によって強制的に都市へ連れて行かれた。


(白狼はここにいて大丈夫なのかな。それに、術も発動してるのか分からない)


「安定してるから大丈夫そうだね。クク、俺達は帰ろうか。これから、産神と死神の宮殿も作ってあげて、都市の方も少し変えないといけないからね」


「分かった。それなら、白狼から下りた方がいい?」


「下りなくていいよ。白狼は死神でも俺の眷属だから、こういう事は任せられないんだ。それに、そろそろ三人とも自由になるはず。俺のジオラマが更新されたら、あとは定期的に術を発動させるだけだからね」


 それよりもククが優先だと言ったシシは、宮殿に戻ると両隣に二つの宮殿を建て、更にジオラマを使って都市を大きく変えていく。
 その間、ククは再び時間について考え、シシに甘えるようにくっついた。
 そうして数日が経ち、ククはシシの顔を掴んで、シシの膝に座っていた。


「シシ!」


「どうしたの?可愛いけど近いね。誘ってる?」


「誘ってない!それよりも、やっと思いついたよ!」


 ククは、ずっと時間について考えていた結果、漸く新たな発想に辿り着いたのだ。
 そのきっかけとなったのはシシであり、シシの顔を掴んで赤い瞳を覗き込んでいるこの状況が、ククの思考を刺激したのだ。






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