上 下
31 / 50

31.尊く儚い美しさ

しおりを挟む


 暫くの間、桜の木の下で二人の時間を過ごした後、ククはもう一度シシに抱えられ、術によって陣のある場所に戻った。
 そこには、多くの神々や眷属が集まっているが、陣の中に入って待っているのは、産神と白狼と狼獣、そして産神の眷属であろうモノノケが揃っていた。


(あのモノノケ達、白色じゃない。そう思うとシシの眷属って、本当にみんな力が強いんだね)


「クク、こやつらは儂の眷属達じゃ。ククの元へ遊びに行くかもしれんからのう。ククを脅かさぬよう、今のうちに言っておくとだな、こやつらは本来、大きな鳥で産鳥と呼ばれておる。下界ではコウノトリとも呼ばれておるが、そのへんは気にしなくてよい。眷属になる前の昔の話じゃからのう。ククが気にするべきは、こやつらの大きさじゃ」


 産神がそう言うと、羽の塊のようなモノノケ達が集まり、古竜よりも少し小さいくらいの大きな鳥が、ククの目の前を覆う。
 ククが押し潰されないよう、シシが鳥の体を支えるが、そんな事など気にしていないククは、鳥の体に触れて目を輝かせた。


「す、凄い!この羽毛、白狼にも負けてないよ!」


 ククが産鳥を褒めれば、白狼はククの手の下に自分の頭をねじ込む。
 するとククは、白狼を撫でるために産鳥から手を離し、それによって産鳥は羽の塊に戻ると、ククの足元に集まって動かなくなる。


「シシ、羽の塊が僕の周りに集まってる!」


「この状態の産鳥を、俺はケサランパサランと呼んでるけど、面倒だからサランなんて呼ぶ事がほとんどかな。この状態は産鳥とは違って、ただ空中を漂ってるだけなんだよね。だから、産鳥とサランは別物だと思っておいた方がいいよ」


「サランが魂で、産鳥が命?ジジ様にピッタリの眷属なんだね」


 ククが口にした言葉に、周囲がシンと静まり返ったが、ククはその理由が分からず、不安になってシシを見上げた。
 だが、シシだけは「そうだね」と言って微笑んだため、ククは安心して白狼の背に乗り、それ以上は喋らないよう白狼の毛に埋もれた。


「産神、感動してるところ悪いけど、そろそろ冥界に戻るよ。これ以上、大事なツガイを神々の見せ物にはできないからね」


「あ、あぁ……そうじゃな。創造神の一部であるククを、これ以上天界に置いてはおけん。早く安全で静かな場所に連れて行くべきじゃ」


 シシと産神がわざとらしく、ククがどんな存在であるかを強調して言うと、周囲はざわつき、武神など勇気のある神々は、近寄ってこようとする。
 だが、その前にシシは印を結び、陣を発動させて一瞬で冥界に戻ってきた。
 そこで、ククは安心からシシの胸に飛び込み、そのまま顔を擦り付けて尻尾を揺らす。
 甘えるククに対し、シシは表情を崩してククを抱きしめる。


「シシ、早く部屋に行こう。水浴びもしたい」
 

「そうだね。産神、悪いけど白狼に案内させるから、部屋で待機していて。狼獣も、死神が戻るまで時間がかかるだろうから、寛いでいるといい。俺はククを優先させる」


(僕が優先。ジジ様と狼獣がいるのに、僕との時間を大切にしてくれるんだ!)


 ククが甘えるように「キュキュ」と喉を鳴らすと、シシはククを抱えて自室へ向かい、そこから水浴び場へククを連れて行く。
 水浴び中、何度も口づけをする二人は、言葉もなく穏やかな時間を過ごし、ベッドへ行ってはククがシシを誘うようになった。
 そうして死神が冥獣を連れて来るまでの間、誰にも会わずに二人で過ごしていると、漸く白狼がシシを呼びに来たのだ。


「来たね。クク、起きれる?」


「んうぅ……まだ眠い。シシ、白狼触りたい」


 ククがシシに甘えるように膝の上で眠り、シシはジオラマを更新しているところだった。
 そこに白狼は爪を鳴らして、尻尾を揺らしながらククに近づき、腕の下に顔をねじ込む。
 すると、ククは白狼を撫でながらも瞼が落ちていく。


「クク、眠そうなところ悪いけど、下界も決着がつきそうだよ。見てごらん」


(たぶん、父様達が勝った。見なくても分かる。陸が半分消えていたし、陸が降参したのかな)


 この数日、下界では海と陸の争いがあり、自然の力に勝つすべのない陸側は、あっという間に追い詰められていた。
 結果、陸にある各国の王と流底の王が話し合い、争いよりも話し合いが長く続いた。
 そして陸の王達の賢明な判断によって、被害を最小限に抑える事ができたのだ。


「父様も、みんなも馬鹿だ。争いなんていい事ないのに」


「それはどうかな。少なくとも、陸は衰退をまぬがれる。魚人には女性が多くいるし、運命を見つけた者も多い。それに、海は多くの事を知る事ができ、二度と自分の子どもを贄にする必要がなくなった。太陽の下で、自由を手に入れた。過去に決着をつける事ができた」


 そう言って、シシはククの上体を起こし、現在の下界のジオラマを見せ、術を発動させた。
 するとそこは、ジオラマではなく空から見た人々の様子が映し出された。


「クク、失ったものよりも、残ったものに目を向けてごらん。ほら、自然の力を前にして、こんなにも陸が残っている。人々が残って、なんとかしようと頑張っている。別に忘れろというわけじゃないよ。でもね、こういった事は無駄になっては駄目なんだ。だからこうして嘆き、前に進んでいく。そうして世界は成り立っている。本当に……生命はどこまでも尊くて美しくて……そして儚い。だからこそ目を背けては駄目だよ」


 シシはククに自分の考えを伝える。
 それがククを育てるものであり、今後どんな事があろうとも、シシとともに生き続けなければならないからこそ、こうして失ったものに目を向けさせた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騎士団長である侯爵令息は年下の公爵令息に辺境の地で溺愛される

Matcha45
BL
第5王子の求婚を断ってしまった私は、密命という名の左遷で辺境の地へと飛ばされてしまう。部下のユリウスだけが、私についてきてくれるが、一緒にいるうちに何だか甘い雰囲気になって来て?! ※にはR-18の内容が含まれています。 ※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

王子の俺が前世に目覚めたら、義兄が外堀をやべえ詰めてきていると気づいたが逃げられない

兎騎かなで
BL
塔野 匡(ただし)はバイトと部活に明け暮れる大学生。だがある日目覚めると、知らない豪奢な部屋で寝ていて、自分は第四王子ユールになっていた。 これはいったいどういうことだ。戻れることなら戻りたいが、それよりなにより義兄ガレルの行動が完璧にユールをロックオンしていることに気づいた匡。 これは、どうにかしないと尻を掘られる! けれど外堀が固められすぎてて逃げられないぞ、どうする!? というようなお話です。 剣と魔法のファンタジー世界ですが、世界観詰めてないので、ふんわりニュアンスでお読みください。 えっちは後半。最初は無理矢理要素ありますが、のちにラブラブになります。

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

【報告】こちらサイコパスで狂った天使に犯され続けているので休暇申請を提出する!

しろみ
BL
西暦8031年、天使と人間が共存する世界。飛行指導官として働く男がいた。彼の見た目は普通だ。どちらかといえばブサ...いや、なんでもない。彼は不器用ながらも優しい男だ。そんな男は大輪の花が咲くような麗しい天使にえらく気に入られている。今日も今日とて、其の美しい天使に攫われた。なにやらお熱くやってるらしい。私は眉間に手を当てながら報告書を読んで[承認]の印を押した。 ※天使×人間。嫉妬深い天使に病まれたり求愛されたり、イチャイチャする話。

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)

ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子 天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。 可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている 天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。 水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。 イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする 好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた 自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語

処理中です...