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25.モフモフ神

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 シシが驚いている以上に、ククは驚いていた。
 なぜなら、そこまで深く考えていなかったからだ。
 ククは白狼が死神とは思えず、その結果温める為のモフモフが死神の条件なのだと、独特な発想から、おかしな思い込みをしていた。
 しかし、そんなククを理解しようとしたシシは、自分の知る事実と無理に当てはめたのだ。
 二人とも、自分の死に際にいたのは互いであった事など、もはや頭にないため、微妙な解釈のズレが生まれる。


(白狼の毛並みは最高だもんね。他の眷属達も触り心地はいいんだけど、白狼の毛は別格なんだ!)


「シシ、白狼がモフモフ神なら、父さんも白狼も僕が考えてる神様とは違かった。シシも父さんも白狼も僕に対しては違う。けど、下界の話になるとまた違ってて……シシ、本当はどう思ってるの?」


(本当は下界について、人々についてどう思ってるのか知りたい。それが分からないから、僕は尚更分からなくなる。真似する相手がいないのは、どうしていいか分からない。考え方は真似できないんだ)


 ククは、子どもが親の真似をするように、シシの真似をしている事が多かった。
 ほんの少し丁寧にしたような口調と、シシの表情や仕草、それらを真似るのは運命のオメガであるククが、ツガイに育てられている過程において当然のことだった。
 そしてそれを、シシは分かっている。
 だからこそ、ククの前では口調や表情に気をつけていたのだ。


「ごめん……俺は、どうも思わない。ククがいたらそれでいいんだよ。衰退しようが、争いがおころうが、俺と創造神と古竜には信者が必要ないから……俺達だけは、信者がいなくても神力が減る事はないし、ククを守る事はできるよ」


 そこで、ククはシシの赤い瞳を見つめた。
 その赤い瞳にはククのみを映し、本当にクク以外のことはどうとも思わないのだろうと感じられる、冷めきった感情をククは敏感に察した。


「僕が、シシの愛を奪ったの?」


「どうだろうね。けど俺は、元々下界という界層に興味はない。興味があって、愛していたのは魂と生と死。ククが俺の愛を奪ったと言うなら、俺は全力でククの愛も心も体も運命も、全てを奪いに行く」


 シシはククの頬を撫で、優しげに微笑みながらも、ククが自分以外を気にかける事が気にくわないと言いたげに、ククに顔を近づける。
 だが、ククはシシの顔を全力で押し返した。


「嫌だ!僕は縛られない」


「ふふっ、今はそれでいいよ。どんなククも可愛いだけだから――」


「でも、ツガイはシシだけ。僕が好きなのはシシだけ」


「ぐッ……ククが愛しすぎて、ククのこと以外考える暇がない」


 シシが悶え始めたところで、ククはシシの膝の上から下り、東屋を出て白狼の毛に埋もれた。


(ふわふわ、癒される。僕の癒し。温かい。シシといるのは安心するけど、白狼の毛とは何か違う)


「クク、話は終わったのかい?心はどうだ?」


「父さん、僕は今日だけで沢山の事を知った」


「そうだね。クク、神になりたくないのなら言いなさい。ククへの信仰心は、ツガイであるシシに渡す事も可能だからね」


「ううん、もう大丈夫。それに、白狼がモフモフ神である為に、神器作りも頑張るよ」


 ククは、神器作りが死神の役に立つと分かっていたが、それはあくまで白狼の毛並みを保つ為であった。
 ククとしては、シシが下界を気にかけていなかったため、干渉はしたくなかったが、白狼が神であると言うのなら話が別である。
 白狼の毛並みは、ククにとってなくてはならないものなのだ。


「もふ?……シシ、大変だ。ククの言葉が理解できない。創造神である私が、息子の言葉を理解できないなんて」


 息子の言葉を理解できないことにショックを受けた創造神は、ゆっくりと歩いて来たシシに説明を求めた。
 だが、シシは毛に埋もれるククを見て、微笑みながら首を横に振った。


「大丈夫。俺もモフモフは分からない。けど、死は温かくする必要があるから、ククも亡者を見つけ出す手伝いをしようとしているんだと思うよ。優しくていい子だよね、俺のツガイは」


「……キミ、それはさすがに無理が――」


「なに?黒天、ククがそう言うのなら、死神だろうとモフモフ神だろうと、どっちでもいいんだよ。分かるよね?白狼は分かっているよ。むしろ誇らしげだ」


 白狼は誇らしげに胸を張り、自分はククを癒す毛を生やした神だと言って、ジッとしている。
 だが、やはりククにはその言葉が分からず、それが更にただの毛としての認識を加速させていた。
 そしてそんな残念な二人の神、シシと白狼を相手に、創造神は諦めたように笑顔で誤魔化したのだ。


「そうだ、言い忘れていたよ。ククの神器が完成したら、それらを神々の眷属に渡し、下界へ向かわせようと思う。そして彼らには才能ある弟子を育ててもらい、弟子には亡者探しの使者となってもらう」


(弟子が使者?下界の人達が僕の神器を使うから、一応僕が干渉する事になるのかな)


「……冥獣を連れ戻す。それと、産神と死神もどうせ冥界に来るなら、冥界は大きく変えるから」


「うんうん、それでいいよ。けれど、分かっているね?あくまで……ククが優先だ。眷属や使者がククに何かする気なら、片付けてしまっていい。これは、増え続ける眷属も選定し直すものだからね」


 創造神の冷たい声と表情に、ククはブルブルと震えて白狼から離れる。
 そして、シシの背中に抱きつくと、顔と尻尾だけを出し、創造神に全力で威嚇した。



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