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23.隠された想い

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 第二の性やククが運命のオメガであった事、それから今まで海龍の贄となった者達もオメガであった事を知ったククの家族は、王族として全てを国民に話し謝罪した。
 だが、そんな王族を国民は責める事なく、第三王子の存在すら知らぬ間に亡くなっていた事で、過去のオメガ達の家族は怒る事はなかった。
 むしろ、傷つけられても生きていたククが、最期は自分の家族によって殺された事実に涙を流した。


 そして今、流底で隠れるように暮らしてきた魚人達は、同族を傷つけられた事に怒り、これまでの魚人の扱いにも我慢の限界がきたのだ。
 魚人がなぜ海底で暮らし、贄を捧げてまで海龍に守ってもらっていたのか。
 それは、陸の者達に攫われ、死ぬまで見せ物の奴隷にされたり、長寿を求めた者達によって、血肉を目当てに狩られたりと、絶滅寸前まで追い込まれた過去があったからだった。


 だが、今の彼らは過去とは違う。
 陸に比べると、知識や文明は発展していないが、それでも人々は陸よりも繁栄し、弱肉強食の海で生きてきた彼らが弱いはずがなかった。
 なにより、長寿であるため魔法だけは陸よりも発展しているが、閉じ込められていたククは知らない。


「今が海底から出る時だと思ったんだろうね。それに、冥王であるシシがククの死を命じた理由も、彼らは知ってるからね。ククが見守ってくれてると思ってるんじゃないかな。死んだ第三王子が、冥王のツガイになって見守ってくれている。これほど、彼らの士気をあげるものはないよ」


(僕は何も知らなかったのに。みんな、僕が見守ってると思ってたの?)


 ククがシシに目を向けると、赤い瞳は気まずそうに揺れ、ククと何度か目を合わせるが、結局シシは目を逸らした。


「シシは知ってたんだよね。なんで教えてくれなかったの?」


「……ククが、悲しむかもしれないと思ったから。それに流底が動きだしたのは、ククが術を扱えるようになってからだから、そんなに時間は経ってないよ」


「僕が魔法を付与した飾りをあげると思ったの?僕、そんなに信用ない?僕には下界に干渉するすべがないのに?」


(何か隠してる。変な言い回しばっかりで、全然シシらしくない。また僕に隠し事?)


 ククが尻尾を叩きつけながら、シシの目をジッと見て怒る。
 これは当然の怒りであり、ククが何に対して怒っているのか、薄々気づいている創造神は口出しせず、シシも余計な事は言わずに謝った。
 だが、ククは下界の様子を見せてくれるのなら許すと言い、シシは干渉しない事を条件にした。
 しかし、その条件には創造神が口を出す。


「言い忘れていたけど、ククには下界に干渉してもらうつもりだよ」


「はあ?ククに何させるつもり」


「落ち着きなよ。干渉とは言っても、直接干渉させるわけではない。ククには、亡者探知の魔法を付与させた神器を創造してほしくてね」


 海と陸で争えば、どうなるのかは神でも分からない。
 だが、確率で言えば海が勝つ事になり、おそらく水没によって地形が大きく変わるだろうと、創造神は言う。
 和解でもすれば、陸の人々は生き残り、人間と獣人という種族を超えて繁栄するようになれば、衰退は免れると予想しているようだ。
 そしておそらく、この争いによって迷子になる魂が増え、亡者となって下界を彷徨う者が増えるだろうと、創造神は続ける。


「魂の循環も産神と死神に任せて、輪廻転生をさせるつもりなんだよ。望みがないのなら、前世を参考に転生させ、望みがあるのなら産神と死神に誓わせる。そうする事で初めて、二柱の祝福を得られるようにし、魂レベルを上げて産まれる種族を決められるようにする。勿論、眷属や神になる条件は変わらないよ。これはあくまで、魂が転生を拒まないようにする為のもので、望みがある者には選択肢を与える」


「なるほどね。俺がククだけを愛するようになったからできる事だ。それに争いに関係なく、生にしがみつく魂は増えるだろうね。魂の望みがなく転生するのなら、死を迎えても満足はしないし、未練を残す場合が多くなる。俺はもう回収には行かないよ」


(なんとなく分かってたけど、魂としての望みと、人としての思考って違うものなんだね。望みが純粋なら、思考は不純なのかな。神だって眷属だって思考はあるけど、経験値が違うというか、淡々としてるというか……家族の様子を知らなかっただけで、シシに怒る僕とは大違いだ)


 ククはなんとも言えない感情に襲われ、俯きながら創造神とシシの話を聞く。
 魂は魂であり、生者は生者。
 善も悪も決めつけず、ただひたすら中立として、世界を俯瞰して見る。
 気にかけて見守る事はあっても手助けする事はなく、世界というものを維持する事だけを考えている。


 しかし、シシだけはククを求めて干渉してしまった。
 たった一人を手に入れる為のわずかな干渉。
 最初から干渉などしなければ、ククは家族の意思によって両親とともに死を迎え、シシのものになっていただろう。
 だが、ククを愛しているシシが、それを許すはずもない。
 両親の意思で殺されるのと、シシの意思で両親に殺されるのとでは、死後のククが何を思うのか変わってくる。
 海龍がククを殺さなかったり、ククが陸に上がってしまったりと、誤算はあったが、ククがどんな死を迎えても、シシの意思によるものであったという事実が、シシには必要だったのだ。


 しかしそれが今、争いの種になっているのだから、シシがククに下界の状況を隠すのは当然だろう。
 なにより、ククが両親の意思によって殺されそうになっていたという事実を、シシはどうしてもククに隠したかったのだ。
 



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