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4.時間による変化

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 ククが環境に慣れるというのは、活動時間を増やす事が目的だったようだ。
 死のショックから、活動時間が減って眠ることが多くなるため、それを慣らす為に部屋から出ないでゆっくり休んでいたククは、シシに言われた通り長い時間を部屋から出る事なく過ごした。
 ツガイであるシシのそばにいる事で、より早く慣れるのだと言われたククは、シシからもなるべく離れないようにし、冥界や白いモノノケ達について、シシから教えてもらっていた。


 白いモノノケ達はシシの眷属らしく、普段は与えられた役割をこなしているようだ。
 そして冥界については、水と水没都市によって状況が変わってくるらしい。
 まずは冥界にいる、シシ以外の存在についてだが、冥界にいるのはモノノケが殆どで、その他に広い冥界を分担して管理する冥獣が四人いて、それぞれが多くの眷属を従えている。
 眷属は主に、生前に徳を積んだ者を選んでいるようだが、モノノケである場合は力のある者を選び、霊獣として現世に送る事もあるようだ。


 水や水没都市についてもククは教えてもらい、水は人々の魂のようなものであると知った。
 現世に行けずにいる魂によって、都市が水没しているのだと聞いたククは、それがいい事か悪い事か分からず、シシに尋ねてみた。
 しかし、シシは微笑んで「どちらでもない」とだけ答え、それついて理解できなかったククは、陸の人口減少と水没都市の関係に、首を傾げるしかなかった。


 そうして長い月日が経ち、ククは漸く部屋から出れる事になった。
 ククは眠る事も減り、心の傷も少しずつ癒えてきたところで、部屋の中だけでは飽きてきていた。
 時間の流れが分からない冥界は、ククにとって退屈でしかなく、シシが部屋に来てくれたり、白いモノノケ達が遊びに来てくれる時だけが、喜びの時間になっていたのだ。
 そこで、シシが仕事に行く時について行きたいとお願いしてみれば、シシは部屋から出る事を許可したのだ。


「シシ、やっと外に出れる!起きて!」


「クク、外には出さないよ。宮殿を案内して、あとは俺のそばから離れない約束でしょ?」


(うっ……わ、分かってる。部屋から出れるだけでもいい)


 いまだに表情が硬いものの、尻尾は左右にブンブン振り、たまにベッドに叩きつける。
 表情には出なくとも、尻尾で感情が分かりやすくなったククは、自分が不機嫌であることも、シシ相手に出せるようになったのだ。
 そんなククが愛しくてたまらないといった様子のシシは、ククの頬を突いたり引っ張ったりを繰り返す。


「むっ……シシ、痛い。やめて」


「ククが不満そうだったからね。守ってもらわないといけないから、念押ししてるんだよ。ちゃんと分かってる?」


「分かってる。約束はちゃんと守るよ。約束を破ったら、真名で縛るってシシが言ったんだ」


「そうだね。覚えててくれて嬉しいよ」


 シシは嬉しそうに微笑むが、ククは口を開けてギザギザな歯を見せつけて、尻尾を叩きつける。
 これだけが、ククがシシに対抗できる手段なのだ。
 こうして威嚇するだけで、シシはククを無理に縛りつけようとはしなくなる。
 ククは威嚇が通じるのだと思ってやっているのだが、実際はシシがククの威嚇を見たくて、縛りつけないようにしているにすぎない。


「意地悪してごめんね、クク」


(ふふん、また勝った!やっぱり僕の威嚇は強いんだ)


「シシ、早く部屋から出たい」


 ククの言葉に、シシは一瞬眉を寄せるものの、すぐに準備をして扉を開く。
 今までなら、ククは扉が開いていても部屋から出れなかったが、今回は透明な壁に阻まれる事なく、シシとともに部屋の外に出れたのだ。
 それからは、ククは興味深々に尻尾を揺らしながら、シシの案内によって宮殿内を歩き、シシの眷属である白いモノノケ達に見張られながらも、少しだけ自由に動き回る事ができた。


「クク、楽しかった?いい匂いがする。もしかして誘ってる?」


 一度部屋に戻ると、シシがククの後ろから抱きしめるが、ククは誘っているつもりはなく、楽しくて興奮してしまっただけだった。
 ククとシシは何度か体を重ねているが、基本的にククがシシを誘うような事はなく、シシがククを可愛がっているのだ。


(誘ってない。シシのそばは心地良いけど、好きだとか愛してるとか言われると、どうしていいのか分からなくなる)


「こんなにいい匂いがするのに、ククはまだ誘ってくれない。仕方ないけどね……クク、愛してるよ」


(うっ……ムズムズする。嬉しいけど、どうしよう。僕は同じものを返せない。それに、なんで僕のことが好きなのか訊いても、いつもはぐらかされる)


 ククは、どうして自分のことが好きなのかと、今回もシシに訊いてみるが、シシは「愛に理由がいるの?」と、いつものように言う。
 しかし、今回はその言葉に続きがあった。


「クク、どうしても知りたいなら、ククが理由になればいい」


「僕が理由?それってどういうこと?」


「そのままの意味。ククの全部が、俺がククを好きな理由になる。ククがククであれば、俺はどんなククも愛してる。例え、俺を嫌って恨んでいても、そんなククも俺は愛しいと思うよ」


 そこで、ククは突然涙が溢れだしてしまい、その感情がどういったものなのか分からないククは、ただ一つだけ変わった事に気づいた。
 自分の中でずっと引っかかっていた、シシへの恨み。
 家族を巻き込み、両親に息子殺しをさせた事への恨み。
 その恨みは残り続けるだろうが、恨みと同時にそれ以上の何かが芽生えたような気がしたのだ。



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