3 / 50
3.運命
しおりを挟むオメガとは通常、アルファとツガイ関係となり、子を宿す事ができるようになる。
だが運命のオメガは、アルファやベータに関係なく、唯一誰とでもツガイになれる存在であり、運命のオメガとして産まれた者の意思に関係なく、複数のツガイを持つ事ができてしまう。
そんな運命のオメガは自衛の為に悪臭を放ち、どんなに明るい性格だろうと周りを寄せ付けないよう、表情を無にする。
しかしそんな運命のオメガは、愛されればそれに応えるように表情を柔らかくし、愛してくれる者の好みに合わせた香りを放つようになるのが運命のオメガだと、シシは隠す事なくククに説明した。
(運命のオメガ……じゃあ、やっぱりシシは僕が運命のオメガだから、こうして優しくしてくれるのかな。でも、シシは僕に触れてくれるし、嫌な顔もしない)
「ククは疑ってるみたいだけど、俺はククが運命のオメガだと分かる前からククを愛してるんだよ。ククをずっと見てきた。ククが欲しくて、ククの家族がククを手放すように誘導した。それでも、ククが陸に上がってしまうから、ククを迎えに行く為に、ククの家族にも協力してもらって命を奪った……ごめんね」
衝撃の事実にククは声も出ず、目を丸くしてシシの赤い瞳を見つめる。
そんなククを愛で続けるシシは、ククに全てを理解してもらいたいようで、運命のオメガについて話を続けた。
運命には三種類ある。
アルファとオメガの間にある、産まれてくる際に決められているツインレイという運命のツガイと、自分達の想いや行動によって創りだされ、やがて本物となる運命。
そして、愛を育むように自分だけのツガイをイチから育て、真実の愛を必要とするオメガであり、誰のツガイになろうとも、自分の運命だけは決して譲らない運命のオメガ。
これら三種類の運命は全て違うが、運命のオメガだけは交わる事さえできれば、強制的に誰とでもツガイにされてしまう分、相思相愛になるまでの難易度が非常に高く、時間がかかってしまうようだ。
それを聞いたククは自分のことであるにも関わらず、別人の話を聞いているような気がして、首を傾げてシシを見上げる。
シシはそんなククの頬を撫で、緩んだ表情でククに口づけをするが、ククはシシの口づけを拒絶し、尻尾を揺らしながらシシの服で唇を拭う。
(うぅー……僕の唇にシシの唇がくっついた。シシの唇は、僕にはもったいない)
「ククは可愛いね。尻尾揺らして、嬉しかった?」
「う、うん。でも、唇は嫌だ」
拒絶しながらも素直に肯定してしまうククは、シシから離れるような事はせず、シシの綺麗な和服にシワをつけるほど両手で服を握りしめていた。
ククにとってのシシは、勝手にツガイにされただけでなく、自分を殺す為に家族を巻き込んだ事が許せない存在だが、それを隠す事なく話してくれた事にも感謝していて、ククを愛してくれる事についても好印象だった。
だからこそ、ククのなかでの葛藤が行動に現れていて、クク自身も戸惑っている。
(僕のツガイ……好きも分からないし、ここから恋愛が始まるとは思えない。なのに、優しくされると離れたいとは思えないし、愛されたいと思っちゃう僕は、やっぱりおかしいのかな)
ククは尻尾を揺らし、シシの胸に頬を押し付け、ダラリと力を抜いている。
無意識にリラックスしてしまっているククは、思考と行動が噛み合っておらず、シシはそれを知っているのか、ククを刺激しないように微動だにしない。
それから暫くすると、シシの話が終わった事に漸く気づいたククは再びシシを見上げて、綺麗な顔立ちのシシを間近で見つめる。
(……こんなにかっこいい人が、なんで僕を選んだんだろう。運命のオメガだって分かる前から、愛してるって言ってたけど)
「シシ、もう話は終わったの?」
「ククからの質問がないなら終わったかな。冥界についてはゆっくり教えていくつもりだし、この宮殿内もククがこの環境に慣れてきたら案内してあげる」
環境に慣れてきたら、というところが引っかかったククは、シシから目を離さずにコテンと首を傾げた。
それがシシにとっては、鼻血を出すほど良かったらしく、突然の血にククは白狼の背後に逃げた。
(血だ!僕、シャチだけど血は好きじゃない。大変だよ、どうしよう)
「驚かせてごめんね。ククがあまりにも可愛すぎて……いや、ククのせいにするのは良くないね」
鼻を押さえながら謝るシシは、幸せそうな表情をしているが、ククはシシのことが理解できずに「シャーッ」と大きく口を開け、ギザギザな歯を見せつけて威嚇する。
しかし、ククがどんなことをしてもシシは嬉しいようで、ひとりで悶えているシシは、白狼以外の白いモノノケ達に距離を置かれている。
(この人、本当に冥王様なのかな。怖くはないけど、こんな反応する人は見たことがない。なんで喜んでるのに苦しそうなの。でも、幸せそうに見える……恋って、苦しいものなのかな)
ククにとって新しい発見が多いため、シシの反応を観察していると、シシは疲れたようにベッドに横になったため、ククは尻尾を揺らしながらベッドに近づいた。
すると、シシは先程まで鼻血を流していたとは思えないほど、爽やかな笑顔でククを抱き寄せて目を瞑ったため、ククも観察をやめて目を瞑った。
27
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説
魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!
松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。
15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。
その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。
そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。
だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。
そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。
「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。
前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。
だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!?
「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」
初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!?
銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)
ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに
ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子
天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。
可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている
天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。
水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。
イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする
好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた
自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い
そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語
悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――
ロ
BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」
と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。
「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。
※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)
隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する
知世
BL
大輝は悩んでいた。
完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。
自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは?
自分は聖の邪魔なのでは?
ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。
幼なじみ離れをしよう、と。
一方で、聖もまた、悩んでいた。
彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。
自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。
心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。
大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。
だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。
それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。
小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました)
受けと攻め、交互に視点が変わります。
受けは現在、攻めは過去から現在の話です。
拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる