異世界で普通に死にたい

翠雲花

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前編

33夢(ジル視点)

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   私はいつも気になっていた。ハルが寝ている時に魔法を使っている事を……無意識なのかもしれないと思った事もあったが、どんな時でも必ず魔法を使っていた。そして、ハルがその事を隠している事もなんとなく気づいていた。


  でもまさか、自分の想像を超えるものだとは思ってもみなかった。固有スキルと何か関係があるとは予想していたが、固有スキルがきっかけではなく、まさか前世がきっかけの固有スキルだとは思わないだろう。


  それに、毎日何度も何度も死を経験し、その痛みも、全て覚えているときた。そんな話、普通話したくないのは当たり前だ。それにハルの周りは過保護が多い。それもハルは気にしているんだろう。


   私はハルの話を聞きながら、最初の討伐前に「死ぬのは慣れてるから」と言っていた事を思い出した。


  あれはそう言う事だったのか。……ハルの記憶も全て消し去りたいと思った。でもそれによってハルがハルでなくなる気もした。


  どうすればいい。どうすればハルが安心して暮らせるようになる。今でもハルは気を抜いたらあちらに行ってしまうと言っていた。もし、行ってしまったら?ハルの魂が壊れてしまったら?そう考えるだけで、身体の震えが止まらなく、ハルを失うのが怖いと思った。


  こんなに何かに対し、怖いと思った事はない。これは……ハルが隠している人物に話を聞いてみるしかないか。なんとなく分かる。きっとこの世界の神だろう。でなければ今のハルは前世と変わらず、寝たきり状態を繰り返すだろうから。それを変えられるのは神くらいしか思いつかない。


  今度教会にでも行ってみるか。神との対話なんて出来るのだろうか。……きっと、ハルは何かしらの方法で連絡をとっているだろうが……ハルが隠しているのならハルには言えないな。


  明日辺り、ハルの浄化が終わったら行ってみるか。きっとハルはまた気を失うだろうし。


  私はその日は何もせず、私の腕の中で眠ってしまったハルを抱きしめながら、食事もとらずにそのままゆっくり横になった。


  腕の中にいるハルは、今までと違い、宝石の様に脆く思えてしまった。それを私は凄く愛しいと思ってしまう。


「ハル、君を愛している。君が壊れて居なくなってしまう時は、私も一緒に連れて行ってくれ……ハルの居ない世界は生きる価値もない」


  私は静かにそう言って、ハルのおでこにキスをし、眠りについた。
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