異世界で普通に死にたい

翠雲花

文字の大きさ
上 下
9 / 69
前編

8夢

しおりを挟む


  お披露目パーティーから七年後。僕は十歳になっていた。だが、学校には行けていない。通常この世界では十歳から剣術学校か魔法学校に行けるのだが、僕は家族全員に反対された。


  理由は、僕の魔力とスキル達だ。僕は七年で魔力量がかなり増えて、大人の平均魔力をはるかに超えていた。その為、魔法学校に通うことも反対され、かと言って剣術学校なんかは以ての外だという。


  そして、一番の理由は僕が目立って狙われてしまうからだそうだ。どうしたらそんな思考に至るのだろうか。僕は男だ。


「母様。暇だよ。僕も学校に行きたい」


「ダメよ。それは前にも説明したでしょう?それに騎士団になら父様がいる時に行ってもいいと言われたでしょ?父様は今日一度帰ってくると言ってたわ。その時に連れて行ってもらって」


「僕はもう一人で行けるよ。」


「ダメよ!それだけは絶対にダメ」


  そう、僕は未だに外に一人で出れないのだ。家族が言うには十歳になって色気が出たとかなんとか言ってた。そんなの僕には知ったこっちゃない。


「分かったよ。父様はそろそろ帰ってくる?」


「そうね、お昼頃と言っていたからもうすぐ……あら?帰ってきたみたいね!」


  母様がそう言うと、本当に父様が帰ってきた。母様はどうしていつも父様が帰ってくるのが分かるのかが謎だ。


「ハルー!帰ったぞー!」


  そう言って父様は僕に抱きついてきた。


「うぶっ。と、父様。苦じい」


「ああ、すまんすまん。それよりハル!これから騎士団に行かないか?」


  父様から言ってくるなんて珍しい。何かあるのか?


「行きたいけど……父様何か隠してる?」


  僕はジト目で父様を見るとあからさまに目線を逸らした。


「……いや、なにも。それより行きたいなら行こう!ローブを着てきなさい!」


「はい」


  僕は成長しても相変わらず外ではローブを着ていた。何故か成長していくうちに、昔より酷くなっていくこの体質。普通は逆だろうに。流石に今では僕自身も常に痛覚耐性と治癒魔法を発動しないといけない為、ローブを着ないと出歩けない。そしてあれ程嫌がってたフードも必需品になっていた。


  支度し終えると、父様に連れられて騎士団へ向かった。


「父様、何を隠してるのか分からないけど、僕が行かないといけないの?」
    

「ハルが行かないと私が恨まれる。あいつには適わんからな」


  あぁ、なんとなく分かった。きっとあの人だろう。


  そして、騎士団に着くと案の定予想通りの人が出迎えた。


「ハル。久しぶりだね。会いたかったよ」


  そう、この人は第一王子のジルだ。どうやらお披露目パーティー以来、僕を激愛している様だ。密かに、父様にも僕が一日、何をしていたかなど、細かく聞いていたりするらしい。まあ、いわゆるストーカーだ。


「お久しぶりです、ジル王子」


「だからハル、何度も言ってるだろ?ジルと呼べと。それに敬語も要らない。私はハルとは特別な関係でいたい」


「いや、しかし」


「駄目だ!それ以上断るなら私はハルに何をするか分からないよ?」


  ジル王子は微笑んで言ってはいるが、確実に目が笑っていない。


「わ、分かったよ。だから何もしないで」


「それでいい。それと、ジルと呼び捨てで呼んでくれ」


「うっ……ジ、ジル」


  僕がそう呼ぶと、ジルは素晴らしいイケメンスマイルをおくってきた。


  イケメンは何しても許されるからいいよなぁー。


「それよりジル。僕を呼んだのは貴方ですか?」


「敬語」


「うっ。僕を呼んだのはジルなの?」


「そうだよ。ハルに会いたかったからね」


  もうめんどくさい。敬語の方が楽なんだけど。


「そ、そうなんだ」


「ハルは私に会いたくなかった?」


「いやいや、僕も会いたかったよ……」


  今のはちょっと嘘だってバレたかなー。


「そっか。良かったよ。それよりハル?いつまでフードを取っているの?フードかぶって」


  え?ダメなの?だってもう室内だけど。


「なんで?フードはもうかぶらなくても大丈夫……じゃないですね、はい。かぶります」


  そんなすっごい真顔で不機嫌な魔力前回にされたら、流石に僕だって抵抗はしない。


「お利口だ」


  ジルは笑ってはいるが、まだ魔力が漏れていた。


「ジル?もうその魔力出すのやめて?僕フードかぶったでしょ?」


「あぁ、まだ漏れていたか。流石にハルは鋭いな」


  そう言ってジルは魔力を抑えて、僕はほっとした。そういえば父様どこに行ったんだ?


「ジル?父様知らない?さっきまで一緒にいたはずなんだけど」


「??ああ、ショーンさんはイルとディーの所へ行ったんじゃないかな?今日一時報告しに来るらしいよ。ハルも行くか?」


「イル兄様とディー兄様今日は騎士団にいるんだね!!行きたい!」


  そう、イル兄様とディー兄様は学校卒業後、騎士団に入った。ここ数日は魔物討伐に行っていた為家でも会えなく、久しぶりに会うのだ。


「はあ。まだイルとディーには適わないか」


  ジルは小さくため息をついた。僕に聞こえてますよー。兄様なんだからジルより兄様の方が大事なのは当たり前だろうに。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

俺達の関係

すずかけあおい
BL
自分本位な攻め×攻めとの関係に悩む受けです。 〔攻め〕紘一(こういち) 〔受け〕郁也(いくや)

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

地下酒場ナンバーワンの僕のお仕事

カシナシ
BL
地下にある紹介制の酒場で、僕は働いている。 お触りされ放題の給仕係の美少年と、悪戯の過ぎる残念なイケメンたち。 果たしてハルトの貞操は守られるのか?

【完結】試練の塔最上階で待ち構えるの飽きたので下階に降りたら騎士見習いに惚れちゃいました

むらびっと
BL
塔のラスボスであるイミルは毎日自堕落な生活を送ることに飽き飽きしていた。暇つぶしに下階に降りてみるとそこには騎士見習いがいた。騎士見習いのナーシンに取り入るために奮闘するバトルコメディ。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

処理中です...