異世界で普通に死にたい

翠雲花

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後編

24夢

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   外ではずっと爆発音など、いろいろ聞こえる。きっと戦闘中なのだろう。そして多分、この魔力はジル……ファンファンも居るだろう。


  僕は…僕はここで何をしてる!?何も出来ない、動けない。ジル達は頑張って戦っているのに、僕は……


『ハル……戦いなさい。貴方はなんの為にそこに居るのですか?貴方は何も出来ないのではなく、しないのです。』


   ッ!!!念話!?でも、誰!?

『頑張りなさい、ハル。貴方の愛する者の為に。』

   愛……そうだ、僕はジルを愛してる。そして、お兄ちゃんも……意味は違うけど愛してるんだ。大好きだったんだ。優しいお兄ちゃんが……。



  魔力を……魔力をかき集めろ。口が動かなくても、念じれば出来るはずだ!!

"浄化!!"


パキン


「と、解けた!! 動く!!」


   よし、これで僕も助けに行ける!!

「待ってて!!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(ジル視点)


  くそっ、2人がかりでもこの強さ。

  ハルは無事みたいだが、こいつが邪魔だ!

「僕からハルを奪うなんて出来るはずないでしょ?君達2人とも邪魔なんだよ!!これでもうお終いだ。」


  すると、バチバチと言ってる赤黒い大きな玉をだし、それをこっちに放ってきた。


  避けられなッ……





「浄化!!」


  目を開けると、目の前には愛しい人が立って居るだけで、大きな玉もルシファーも見えなかった。


「ハル…」

「ジル!!良かった。……ありがとう。ファンファンも…。」

「すまない。私がもう少し魔力を溜めれていたら……」

「ファンファンのせいじゃないよ。……これは僕が招いた結果だから。」


   そう言ってハルは悲しげな表情で、倒れていたルシファーの元に行こうとしていた。



パシッ


  咄嗟にハルの手を掴んでしまった。きっと今の俺は頼りない顔をしているだろう。そんな俺をハルはニッと笑って

「大丈夫だよ。少し話をしてくるね。」

  そう言ってやんわりと俺の手を離し、ルシファーの元へ向かった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「お兄ちゃん……。」

  僕はボロボロになってしまったお兄ちゃんの元へ行って声をかけた。


「葉…瑠……ど、して。」

  悲しそうな顔をするお兄ちゃん。

「ごめんね、お兄ちゃん。僕はお兄ちゃんを止めたかった。傷ついて欲しくなかった。僕のせいで傷つけてしまったのに、また傷ついてしまうのを見たくなかった。」

「大…丈夫……また、やり……直そ……」


   僕は、首を横にふり、お兄ちゃんの透けた身体に手をやった。

「……ッ!!」

   お兄ちゃんは自分の身体が透けていた事に、気づいてはいなかったらしく、驚いた表情をしている。

「ごめんね。浄化……お兄ちゃんには、殺せるくらいの効果だったみたいだ。」

「……違う……これ…は……」


「消滅だよ。」

  ッ!!ファンファン!?何言って……


「魔王のルシファーにハルの浄化は神の死を与えた。普通の死ではなく、神だったルシファーの死は消滅だ。本当の死だよ。」


  嘘…なんで……魔王?……僕は……ただ………


「葉…瑠……顔……笑って……」

  お兄ちゃんは笑ってと言うけど、笑える訳がない。大好きだったお兄ちゃんを、僕が殺したんだ。





「ね……ねえ、葉瑠最後に……なんで……君があの空間にきたか……わかる?」

  身体が消えかけているお兄ちゃんは、僕の頬に手を置き、苦しそうに話した。

「ルシファー!!!やめろ!!」

   ファンファン?珍しく怒ってる。


「葉瑠は…もともと身体が死んでも……本当の意味では死ねないんだよ…。……だ、だから……私の元にきた。……帰る場所を間違えてね。」

 え?どういう……

「それ以上は!!!」

  ファンファンは慌ててお兄ちゃんの口を塞ごうとするが、もう消滅しかけているお兄ちゃんの身体を、ファンファンの手はすり抜けた。


「葉瑠は天界の子。……天界に居る神達の大切な子だ…。だか…ら……天界に行くはずだった…のに……私のところに……迷い込んでしまった。」


  天界?いや、でも僕は人間で……。


「葉瑠……僕は…消滅する。……でも、またいつか……生まれてくるから……そしたら……また…………」


   お兄ちゃんは、最後に声は出なかったけど、口で何を言っているのかは分かった。……笑顔でキラキラと輝きながら、お兄ちゃんは消えていった。キラキラした粒子は消滅したのに、何故か空に帰っていくように。






「ハル……」

  ジルは、いつの間にか泣いていた僕を、温かく抱きしめてくれた。

「ジル…ジル……」


   その後は、子供の様にわんわん泣き、ジルはその間ずっと優しく抱きしめ、ファンファンは静かに空を見ていた。




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