異世界で普通に死にたい

後編

19夢

「うっ……ひっぐ…お父さん、お母さん、どこ。」

  小さな可愛らしい少年は1人、真っ黒な空間で泣いていた。

『ねぇ君、どうしてこんな所に来たの？』

   すると少年に、真っ黒な髪の青年が声をかける。

「うっ……分か、らない。気づいたら、僕1人で…。」

  少年は、何も無い黒い空間でうずくまっている。

『どうしたら君は泣き止むんだい？』

   青年は、うずくまって泣いている少年にまた質問をした。

「お父さんと、お母さんの所に帰りたい。」

『それは無理だよ。』

「どうして？」

   青年は、こんな小さな子に本当の事を言っていいのか悩んだ。

   少年は泣き顔で、青年を見上げると、青年の目をまっすぐ見ている。

  青年はその瞬間、何を思ったのか、少年に1つ提案をした。

『僕が君の居た世界を作ってあげよう。そしたら泣き止んでくれるかい？』

「僕、帰れるの？」

   少年は幼かった為、その意味が分からず、帰れると思い込んだ。

『そう、帰れるよ。だから泣き止んでくれるかい？』

  青年は、少年のその勘違いに、つけ込むように言った。

「うん、僕もう泣かない！」

『そっか、お利口だよ。じゃあ、さっそく帰してあげる。』

    そう言って青年は、少年の居た世界を作り上げた。

「お兄ちゃん！ありがとう。僕、お父さんとお母さんの所に帰るね！！」

    少年は、嬉しそうに自分の家へと帰って行った。




   これが、青年が最初に作り出した世界で、少年が、育つ世界だ。




  少年は、帰れたと思い込み、あれから毎日のように、青年に会いに行った。

「お兄ちゃん、今日は何して遊ぶの？」

『葉瑠、今日はね、大事な話があるんだ。』

   青年は、葉瑠と呼んだ少年を抱き上げながら、そう言った。

   少年…葉瑠が首を傾げると、青年は葉瑠に軽いキスをする。

『お兄ちゃんは、葉瑠が大好きなんだ。だから、葉瑠が楽しく過ごせる様に、色んな世界あそびばを用意したんだよ。』

「楽しい所？」

『そうだよ。葉瑠が喜んでくれるといいな。』

「お兄ちゃんが楽しいなら、僕も楽しい！」

   葉瑠は、無邪気な笑顔を青年に向けた。

『じゃあ約束、葉瑠は僕だけのモノだから、僕以外とは仲良くしたり、遊んだりしたらダメだよ。』

「分かった！約束する。」

『じゃあ約束ね。』

   青年は、幼い葉瑠に、殆ど強引に無茶な約束をとりつけた。

   幼いが故に、忘れるとも知らずに……。



    そして青年は、遊園地の様な世界をつくった。それが、2個目の作り上げた世界だ。





   数年後、中学生になった葉瑠は、青年の存在を忘れ、部活動に入ったり、友達と遊んだりと、楽しく暮らしていた。




『……葉瑠、約束を破ったね。……仕方ないなー。葉瑠には、僕を思い出して貰う為に、お仕置きも兼ねて、呪いをかけてあげようか。』


  これが、葉瑠の人生を狂わす、パラレルワールドの始まり…………




    いや、最初から葉瑠の人生は狂っていた。



    なにせ、葉瑠の育った世界も、青年が作ったパラレルワールドであり、現実の葉瑠は、あの時既に病気で死んでいたのだから……。