異世界でも馬とともに

ひろうま

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第6章 最後の神獣

閑話15~エルミナの機転~(エルミナ視点)

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馬車なんて曳くのは初めてなので、かなり疲れてしまった。
ユウマさんを乗せるのも最初のうちは多少疲れていたが、これ程ではなかった。
そういえば、群れにいる時も、私は他の馬より疲れにくいと感じていた。
その時は、自分が魔物だとは思ってもみなかったけど……。
あ、今は、そんなこと考えている場合じゃあなかった。
元飼い主の男が、私に着けられた道具を外してくれているが、これが全て外された瞬間に暴れて走り出さなければならない。
走って行く方向は既に確認してある。
それにしても、この男、時々私の匂いを嗅いでいやらしい表情を浮かべている。
やっぱり、私はこの男のことが嫌いだ。
今日は、ユウマさんのために我慢するけど……。

しばらくして、私に着いていた最後の道具が外された。今だ!
「ヒヒィィィィン!」
私は立ち上がって、それから直ぐに走り出す。
しかし、久しぶりに嘶いた。
ちゃんと、馬らしくできたかしら?
群れにいるときは、コミュニケーションとしてやっていたが、私はあまり得意ではなかった。

元飼い主から離れすぎない速度を保ちつつ走っていたら、やがて神獣の封印地と思われる場所の直ぐ近くまで来た。
私は、速度を落として、元飼い主の男に捕まり掛ける。
しかし、捕まらない様にそれを躱す。
「済まないが、馬が捕まらないんだ!手を貸してくれないか!」
手筈通り、元飼い主の男は封印されている場所にいる男に声を掛けた。
そこにいた二人の男はチラッとこちらを見た。
そのうち、一人の男がこちらに向かって来た。
『エルミナ、粘ってもう一人も動かして。』
『わかりました。』
ユウマさんから、念話が入った。
頑張らなければ……。
でも、私は魔物だから、本気を出せば人間に簡単に捕まることはないだろう。

済みません、人間を舐めてました。
抵抗する間も無く、捕まってしまって……。
この状態でも、何かできることはないかしら……そうだ!
私は、動かずにいたもう一人の男に誘惑を使った。
かなり強い人であることは推測できるから、効くかどうかとわからないけど、やってみる価値はあるでしょう。
すると、その人はフラフラとこちらに向かって来た。
どうやら、成功したみたいだ。
『エルミナ、何かした?』
『誘惑を使いました。今のうちに、お願いします。』
『エルミナ、ナイス!』
やった!ユウマさんに褒められた!
後は、ユウマさんがあそこへ入り切るまで、引き付けておけば良い。

「おい。ルフレは俺の物だぞ。」
元飼い主の男が、そう言った。
いえ、私は貴方の物ではないです……って、この言葉は誰に言ったのだろう。
あら?近付いて来ている男に気を取られて気付かなかったけど、さっき私を捕まえた男が私に抱き着いている!?
もしかして、この男の人にも誘惑が効いてしまったのかしら?
「なんて良い匂いだ。僕と良い事しようよ。」
あ、これダメなヤツだ。
「こら、ルフレに、手を出すな!」
「待て、ソイツは俺の物だ。大人しく渡してもらおう。」
「何!?」
元飼い主の男に、もう一人の男が加わって混沌として来た。
あ、元飼い主の男を置いて、二人が喧嘩し始めた。
元飼い主の男は、あたふたしている。
やっぱり、この男ダメだ。
私が欲しいなら、争いに加わる位の気概が欲しい。
ん?何か違うような……。

そうこうしているうちに、ユウマさんが完全に見えなくなったので、誘惑を使うのをやめた。
「ん?俺たち何をしているんだ?」
「あれ?早く持ち場に戻らないと!」
正気に戻った二人は、戸惑いながら、元の場所に戻って行った。
「何だったんだ、アイツら。」
あ、元飼い主は、誘惑の影響は無かったみたいだ。
とりあえず、協力してたくれたお礼は言っておこう。
「今回は、ありがとうございました。お蔭で、作戦は上手くいきました。」
「そうか、ユウマとやらは、中に入れたんだな。ということは……ルフレ、やっと二人切りになれたね……ぐはっ!」
わっ、しまった!
反射的に、前膝キックを入れてしまった。
元飼い主の男、気絶してるけど、大丈夫かしら?
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