異世界でも馬とともに

ひろうま

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第6章 最後の神獣

68-ぬいぐるみと抱き枕

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暫くして、ステラが小型化したレモンを乗せて戻って来た。って、何でステラに乗っているんだろう……。
それは兎も角、セベスさんと二人で気まずい雰囲気だったので、思ったより早くて助かった。
実際には、セベスさんのような人が独りで行動できるとは思わないので、どこかに隠れている護衛の人がいるんだろうけど……。
「おぉ、本当に神獣に会えるとは!それにしても、可愛らしいお姿ですね!」
レモンを見ながら、セベスさんがそんな事を言った。
『良かったね、レモン。可愛らしいって。』
『あれは、あの人の中でわたしがもっと大きいイメージだったからよ。まあ、神獣に会えて感動しているのは、本当みたいだけど。』
あ、そうなんだ。
「セベスさん、これは地狐のレモンです。本来の姿はもっと大きいのですが、今は小型化してもらってます。」
「そうなんですね。セベスです。よろしくお願いします。」
「……。」
レモンは、セベスさんの言葉は無視する様だ。
「それで、僕に会いに来た理由を聞かせてもらえますか?」
「それは……。」
セベスさんは言い淀んでいる。
『レモン、どう?』
『理由が多すぎて、何から言おうか迷ってるみたい。』
『そうなんだ。例えば?』
『ジェイダの事とか、ドラゴンの事とか……。まあ、ユウマに危害を加える気は無いみたいね。』
『そうか。ありがとう。』
『こんな事、お礼を言われるまでもないわ。』
レモンはそう言っているが、嬉しそうだ。
「セベスさん、ここではなんですので、場所を変えませんか?」

僕達は、近くに有ったオープンカフェ的な店に移動した。
僕としては、自分達の家が良いけど、さすがにセベスさんを連れて行く訳にはいかない。
あと、ギルド内のスペースもあるが、当然リーソンの冒険者が多いため、避けた方が無難だと思ったのだ。
こういう場所なら、ステラがいても問題無いし、セベスさんの護衛の人達も僕達を遠くから見ることができるので良いだろう。
「いらっしゃいませ。何にいたしましょう。」
この店は、店員さんが席に注文を聞きに来るスタイルの様だ。
リーソンのお店は、獣人が働いていることが多く、ここの店員さんも犬の獣人だった。
コリーさんの様に犬要素が強いタイプで、サルーキっぽい。
毛並みはさらさらだ。もふもふしたい……。
「ユウマ?」
膝の上のレモンから、殺気を含んだ声がした。
『い、いや、別にいやらしい気持ちとかはないよ?』
『それは、わかってるわよ。もふもふしたいとか考えるだけでも、ダメでしょう?』
『そ、そうだね。』
僕は、誤魔化す様にレモンの頭を撫でた。
『全く、ユウマのもふもふ好きは病気よね。』
激しく同意します。
『そう言えば、セベスさんは獣人に抵抗は無いんですか?』
エラスは獣人も入れないから、もしかしたら苦手かも知れない。
『こ、これは念話ですか?』
『はい。他の人に聞かれない様に、念話でお話しします。セベスさんも、護衛の方達に聞かれない方が良い内容もあるかも知れませんし。』
『気付いていたんですか?』
『セベスさんのような方が、独りで行動するわけがないと思っただけです。』
『そうですか。確かに、私の部下がどこかで見張っているはずです。それで、先ほどの回答ですが、特に獣人が苦手ということはありません。私は、今のエラスのやり方には賛同できかねています。』
『幹部なのにですか?』
『そうです。』
セベスさんは、自分の過去について語ってくれた。
僕は、セベスさんのことを信用し、神獣の件も先日の侵略者の襲撃の件も話すことにした。
セベスさんは驚きっぱなしだったが、最も驚いたように見えたのは、バーンが従魔になったことを伝えた時だった。

~~~
『今日はありがとうございました。色々聞かせてもらえて、ユウマさんに会えた甲斐が有りました。』
『こちらこそ。エラスの幹部でも、セベスさんの様な方がいらっしゃるといことがわかって良かったと思います。それにしても、私に会いに来られた目的は、話をするためだけですか?』
『そうですね……。翼蛇の件について真相が知りたいというのがメインでしたから。それと、これは言いそびれてましたが……。』
『何でしょう。』
『この前は、助けていただいてありがとうございました。最初に言うべきだったのに、申し訳ありません。』
『いえいえ。まあ、そもそも僕の存在を知らなかったんですしね。』
『確かにそうですが……。では、私はこの辺で。また、機会が有れば、お会いしましょう。あ、お金は私が払っておきます。』
そう言うと、僕が止める暇も無く、セベスさんは去って行った。

「レモン、ありがとう。付き合わせてごめんね。」
「まあ、ずっと撫でてもらえたから良いわよ。」
なお、セベスさんとの念話での会話は、レモンにも伝わる様にしておいた。
セベスさんの言う事が本心か確認してもらうためだ。
「セベスさんが良い人で助かったよ。」
「そうね。」
レモンはあまり興味が無さそうだが、否定はしない様だ。
「そう言えば、あの店の人レモンが地狐だと気付かなかったね。やよいさんの様に、レモンに反応するかと思ったのに。」
「普通の獣人だと気付かないでしょうね。さすがに、元の姿だと気付くと思うけど。」
「成る程。そうなんだね。」
今の姿のレモンが地狐だと気付けるのは、そこそこの実力がある人ということなんだな。

~~~
昨日、やよいさんから「できればボルムさんにも話しをしておいて欲しい。」と言われたので、今日はセラネスに行くことにした。
一応やよいさんからボルムさんには話はしておくということだったが、僕から直接伝える方が良いだろうし、ボルムさんからも聞きたい事があるかも知れない。
あと、ジェイダもボルムさんに会わせておきたい。
これまで、エラスがジェイダの件でどう出るかわからなかったので、ジェイダを外に出すのを躊躇ってたけど、セベスさんと話をして少し安心した。
セベスさんの考えは、エラスとは違う様だが、それでもエラスの幹部と話ができたというのは大きい。
ジェイダをいつまでも閉じ込めておくのもどうかと思うので、今日は思い切って連れて行くことを決めた。
ついでと言っては何だが、神獣勢揃いで行こう。

「何だあの魔物?に囲まれている奴は?」
「知らないのか?あれは『雌獣たらし』だぞ。」
「え?何それ???」
「雌の動物や魔物を悉く落とすらしいぞ。」
「げっ!」

「何か増えてないか?」
「確かに見たことが無いのも居るが、そもそも『雌獣たらし』の従魔すべて把握してる訳ではないしな。」
「まあ、『雌獣たらし』だからな。どんどん増えてるんだろう。」

「ルナさん、居ないのか……。」
「ルナさんは、未だ子育て中で出られないだろう。」
「そんな……。」

セラネスの街を歩いていると、色んな会話が聞こえて来る。
酷い事を言われているが、あながち間違ってない気も……。
そして、ルナの人気も相変わらずのようだ。
そう言えば、ファンクラブの活動はどうしてるんだろう?

「ユウマさん!」
セラネスのギルドに入ると、声を掛けて来る人がいた。
なんと、ロートスさんだ。
さっきファンクラブのことを考えていたので、タイミングの良さに驚いた。
でも、こういうことって、結構あるよね。
「ロートスさん、お久し振りです。お元気でしたか?」
「お蔭様で。ユウマさんも、元気そうですね。ルナさんとお子さんはお元気ですか?」
「はい。でも、未だルナは子どもから離れられないので、暫くは出て来られないです。申し訳ありません。」
「いえいえ。大丈夫ですので、無理されませんように。それに、本物を見ることができないということで、ルナさんのぬいぐるみがすごく売れてます。」
ロートスさんが指差す方を見ると、ぬいぐるみが何体か置かれていた。サンプル的な物だろうか。
「そうなんですか?奥さん大変でしょう。」
「そうなんですが、妻だけだとぜんぜん追い付かないので、縫子さんを雇って廉価版を作るようにしました。もちろん質は落ちますが、妻のは待ち切れなということで、廉価版を買う人の方が多いのです。」
「なるほどです。ちなみに、奥さんのを注文すると、どれ位待つことになるんですか?」
「今だと、4~5か月待ちですね。」
もちろんそれだけ待つ価値はあるが、早く欲しい人には辛いだろう。
「それは厳しいですね。ん?あれは?」
ぬいぐるみの見本が置かれた台の端に、ルナをモチーフにした抱き枕みたいな物が有った。
前の世界でも、動物が肢を前後に広げた様な抱き枕が有ったが、それに似ていた。
「あ、あれは抱き枕ですよ。普通のぬいぐるみだと抱き難いということで、そういう希望が有ったんです。」
「やっぽり、抱き枕ですか!僕も欲しいな。」
「主には要らないだろう。」
僕の呟きに、セルリアが呆れた様な声で反応した。
他の皆を見ると、同じ様に呆れ顔になっていた。
え?そんなに変な事言ったかな?
「ユウマさんは一緒に寝てくれる奥さん達がいるでしょう。」
ロートスさんが、苦笑いしながらそう言った。
「確かに、皆が一緒に寝るので、抱き枕を抱くのはおかしいですね。特に、レモンは抱き枕としては一番ですし。」
「私は、抱き枕じゃないわよ!」
「あら、私は一番じゃないのー?」
「アタシの毛並みが触り心地が最高って言ってたわよね?」
「ボクは、ボクは?」
セルリア以外の皆が、一斉に騒ぎだした。……カオス。
「ごめんごめん。レモンの抱き心地が良いっていうことだよ。ジェイダもひんやりして気持ち良いから、夏ならジェイダかな?もちろん、ステラの毛並みは最高だけど、抱き枕っていう感じではないし……。ヴァミリオは、どちらかというと抱かれ枕の方が近いかも。」
「ユウマさんも、大変ですね。」
「主が余計な事を言うから……。」

ロートスさんと別れた僕達は、いつもの様にボルムさんの部屋に案内された。
「ボルムさん、お久しぶりです。」
「そうだな。色々やらかしてるらしいな?」
「え?このジェイダを解放したのと、侵略者の件くらいですよ?」
「いや、それは大概のことだぞ。」
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