異世界でも馬とともに

ひろうま

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第6章 最後の神獣

67-大侵略のはじまり

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エラスの近くに行くと、勇者と思わしき人たちが、侵略者に相対しているのが見えた。
勇者たちは、明らかに押されているので、何とかしたいところであるが、混戦なので迂闊にセルリアに攻撃させるわけにはいかない。
『セルリア、侵略者だけを攻撃できる?』
セルリアとは少し距離があるので、念話でそう聞いてみた。
『できるが、直接相対している侵略者はかなり残すことになるな。』
『それは仕方がないね。勇者たちなら、数を減らせば何とかなるかも知れないから、まずはその方向でお願い。』
『わかった。』
セルリアは、少しの溜めの後、ブレスを吐いた。
と、次の瞬間、爆音と共に侵略者の大部分が吹き飛んだ。
『す、すごい威力だね。』
『MPを気にせず使えるようになったからな。溜めの時間も短くできるようだ。』
『そ、そう。』
勇者たちは、一瞬混乱している様子だったが、それは残った侵略者たちも同様だった。
すぐに正気を取り戻した勇者たちは、侵略者が一気に減ったことで、巻き返しているようだ。
しかし、よく見ると、新たにこちらに向かっている侵略者も見えた。

『ん?あれは……。』
『あいつ、何しに来たんだ。』
少し様子を見ていると、侵略者の向こうから赤いものが向かって来ているのが見えた。
どうやら、バーンのようだ。
どうして、こんな所に来たのだろうか。
そう思った直後、バーンはブレスを吐く準備に入った。
そのまま、ブレスを吐くと、勇者たちにも被害が出そうだ。
『セルリア!』
『うむ。』
セルリアは、バーンとタイミングを合わせて、ブレスを吐いた。
僕の意図を理解して、バーンのブレスが勇者たちに届かないよう、打ち消したらしい。
さすが、セルリア!

~~~
「それで、何でこっちに来たの?」
バーンのブレスで新たな侵略者も全滅したようだが、セルリアが対応しなければ、勇者たちをはじめ、近くの人たちも巻き込まれる可能性が高かったと思う。
ちなみに、レモンが焦ったせいで、幻術が一瞬解け掛けてしまったらしい。
もしかすると、セルリアの正体に気付いた人もいたかも知れない。
その場に残るのは色々とまずいと思い、テレポートして家に戻って来た。
もちろん、バーンも連れて来た。
「あいつら俺の住み処の側に現れたんだ。半分は薙ぎ払ったのだが、残りがこちらに向かって来たので、追いかけて来たのだ。」
「そうなの?」
侵略者が出現したポイントは1ヶ所ではないんだな。
「そうだ。だから、その……お前に向けてブレスを吐いたのは仕方ないのだ。」
「それは理由になってないんだけど。」
「……。」
あ、バーンが顔を背けた。
悪いとは思ってるんだな。
「それに、ほかの人も巻き込まれるところだったんだよ。」
「他の人間は、どうでも良いだろう?」
「いや、良くないし!」
そりゃ、バーンは人間に感心がないだろうけど、どうでも良いというのは言い過ぎだと思う。
「そんなことより、お前に頼みがあるのだが。」
「そんなことって……はぁ。で、頼みって何?」
「そのー……。俺もお前の従魔にしてくれないかなと。」
「はっ?いきなり、どうしたの?」
「ブレスを回数打てる様にしたいのだ。べ、別にお前が気になったとかじゃないからな。勘違いするなよ。」
「そんな理由で主の従魔になろうとは……。」
セルリアが呆れて、そう呟いた。
「ステラ、あれが典型的なツンデレよ。」
「ふーん。オスのツンデレもアリなんだ。」
何か後ろから会話が聞こえてくるような気がするが、きっと空耳だろう。
それはそうと、バーンに返事しないとな。
「まあ、僕に不都合はないし、構わないけど……。」
「何か問題があるのか?」
「従魔になっても、ブレスを打てる回数は増えないと思うよ。」
「そうなのか!?」
バーンは勘違いしたようだが、MP共有は、結婚しないとされないからね。
僕がそれを説明すると、バーンはショックを受けたように項垂れていた。

「MP共有はされないが、有用なパッシブスキルも得られるし、従魔になって損はないぞ。」
「そうか!」
セルリアがバーンにそう言うと、バーンはなぜか嬉しそうに頭を上げた。
そして、結局従魔契約をすることになったのだが……。
「ステラ、見てて。今からキスするわよ!」
「そう。」
「いや、しないから!」
とうとう、スルーしきれず、クレアにツッコんでしまった。
「でも、従魔契約するんでしょ?」
「そうだけど、別にどこでも身体の一部を触れておけば良いんだよね。」
「ダメダメ!他の従魔と差別したらいけないわ。」
クレアはそんな事を言っているけど、単にキスさせたいだけじゃないかな?
「お前たち、何を言い合ってるんだ?」
置き去りにされたバーンが、耐えきれずに聞いてきた。
バーン、申し訳ない!
「私たちがマスターと従魔契約した時は、お互いの口同士を触れさせたんだけど、マスターったらバーンとは嫌だって言うのよ。」
「そんな言い方すると、僕が悪いみたいじゃないか!バーンも、僕とそんな事をするのは嫌だよね?」
「俺は別に構わないぞ。」
「え?」
もしかして、バーンってそのがあるのか?
いや、ドラゴンだから人間の感覚とは違うだけだろう、多分。
「ほら、バーンは問題ないみたいだから、やっちゃって!ステラ、見逃さないように!」
「え?う、うん。」
クレア、テンション上がり過ぎだろう。もしかして、腐っているのか?
対するステラは、興味無さそうだ。
まあ、僕も相手がドラゴンなら、オスでもそこまで抵抗はない。
相手が人間の男なら、確実に拒絶するけど……。

「じゃあ、バーン、良いよ。」
バーンには、なるべく小さくなってもらっている。
僕は気持ちを落ち着けて、目を閉じた。
ちなみに、目を閉じたのは雰囲気を出すためではなく、バーンの顔が迫って来るのが見えると反射的に顔を背けそうだからだ。
「バーン、できれば、腕をマスターの背中に回して。」
「ん?こうか?」
身体が拘束された。
セルリアに抱き締められるのは嬉しいけど、これだとドラゴンに捕まったみたいで恐怖しか感じない。
「そうそう!良い感じよ!」
いや、ちっとも良くないんだけど……。
クレア、何を指導しているのか。
バーンも、素直に従い過ぎじゃないかな?
何もできずにいると、口に硬い物が当たった。
≪従魔契約が成立しました。≫
いつもの脳内アナウンスが流れた。無事に契約できたみたいだ。
つまり、今当たったのはバーンの口だったのか?キスした感覚は全くないな。
そんなことを考えていると、拘束が解かれた。
目を開けると、バーンがじっとこっちを見ていた。
「ど、どう?」
何となく気まずい感じなので、無理矢理そう聞いてみた。
「あまり変わらないが、ちょっと変な感じだな。お前との繋がりを感じるぞ。」
「そ、そう。」
「きっと、それは愛よ!」
「そうなのか?」
「いや、違うから!それより名前が正式に付けられる様になったけど、バーンのままで良い?」
今のバーンというのは、飽くまで仮の名前だからな。
「それで、良いぞ。でも、別にその名前が気に入っているとかではないからな。」
「ツンデレ来た!」
クレアはちょっと落ち着こうか。

~~~
午後からリーソンのギルドに行くことにした。
この前の侵略者の件について、やよいさんに話をしておかないといけないからだ。

そういう訳で、ステラと一緒にリーソンのギルドに行き、やよいさんと会った。
やよいさんは感謝の言葉を述べていたが、複雑な表情だった。
やよいさんの心中は、レモンのように読心術を持っていないと正確には分からないが、僕でもある程度推測できた。
本来ならリーソンの冒険者がやるべき事を、僕たちにさせてしまったというのが大きいだろう。
「リーソンの冒険者たちは、エラスから追い出された者が多いから、エラスに協力したくない気持ちはわかるんですが……。」
僕の思いを察してか、やよいさんはそう呟いた。
あれ?やよいさんも読心術使えたんだっけ?

その後、やよいさんと暫く話をして、ギルドから出た。
「すみません。少し宜しいでしょうか?」
「え?はい。」
突然、男の人が声を掛けて来た。何者?
「神竜を解放されたのは、貴方でしょうか?」
「……。」
まさかのその言葉に、僕は言葉が出なかった。
「失礼しました。私はエラスの幹部で、セベスと申します。」
「え!?」
これはヤバい!?
僕は、この世界に来て初めて、体中に冷や汗をかいているのを感じた。

「アタシの夫に何か用かしら?」
固まった僕を庇う様に、ステラが前に出た。
人が苦手なステラが僕のために行動したことが、凄く嬉しかった。
「ほう。喋るバイコーンですか。この様な美しい奥様をお持ちとは、羨ましいですね。」
「美しい……。奥様……。」
ステラは、さっきまでの勇ましい姿はどこへやら。慣れない褒め言葉により、使い物にならなくなった。
ここは覚悟を決めて、自分で話をするしかないな。
「神竜を解放と言われましたが、なぜそれをしたのが僕だと思うのでしょうか。」
知らぬ存ぜぬで押し通す事も考えたが、相手が証拠を掴んでたら悪手になるかも知れないと思い、質問を返す形にした。
「そうですね。先ず、貴方が地狐と一緒に居るのは何人かの人が見ています。そして、あの時幻術を使って神竜とわからない様にしたのは、恐らく地狐。そこから推測されるのは、貴方と神竜とは関わりがあるということです。」
「なるほど。でも、それだけだと、僕が解放したとは限りませんよね。」
「そうですね。しかし、今の発言からすると、関わりがあるのは認めるのですね。」
「うっ!」
ちょっとしくじったか?
しかし、どうやってもこの人から逃れられない気もする。
「心配しなくて大丈夫です。貴方をどうこうしようと思ってはいませんので。」
「……。」
「信じろというのが無理かも知れませんね。でも、考えてみて下さい。神竜が本気を出せばエラスは簡単に滅ぶでしょう。そんな危険を冒して、貴方に手を出す様なバカな真似はしません。」
まあ、確かにその通りだけど、滅ぶって……。
ただ、直感的にセベスさんは信用しても良い気がした。
とはいえ、直感に頼るのは危険過ぎる。
クレア程ではないとは言え、そこそこ人の悪意に敏感なステラがそんなに警戒していないから、大丈夫だとは思うけど、用心するに越した事はない。
レモンなら読心術が使えるから……そうか!
「すみませんが、レモン……地狐を呼んでも良いですか?」
セベスさんは、僕がレモンと一緒にいる所を見た人がいると言った。
レモンに来てもらうと、それを裏付けする事にはなるが、このまま話しを続けるより安全だろう。
「もちろん構いません。」
「ありがとうございます。ステラ、悪いけど、レモンを連れて来てくれる?」
「良いけど、独りで大丈夫?」
「大丈夫だよ。セベスさんも言った様に、僕に手を出したら、皆が黙ってないからね。」
セベスさんを牽制する意味も有って、敢えてそう言った。
まあ、僕はいきなり攻撃されたとしてもダメージを受けないし、そもそもここはリーソンのギルド前だ。
エラスの幹部であるセベスさんにとっては敵地とも言えるここで、変な事はできないだろう。
「わかったわ。行って来る。」

「成る程。あのバイコーンは、テレポートを使えるのですね。」
ステラを見送っていたセベスさんが、そう呟いた。
何か納得した様子だ。
セベスさんに情報を提供してしまった事に気付いたが、これは仕方ないと割り切るしかない。

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