異世界でも馬とともに

ひろうま

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第6章 最後の神獣

66-リフィの帰還

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家に帰ると、何やら騒がしかった。
「あ、おかえり!」
ヴァミリオが、僕に気付いて飛んで来た。
「ただいま。何か有ったの?」
「うん。リフィが帰ってきたんだよ。」
「そうなの?」
立て続けにイベントが発生するな。
「あ、ご主人、ただいま!」
そんなことを考えていたら、リフィが出て来た。
「う、うん。おかえり。あのー、ヴァミリオ、誰がリフィを中に入れてあげたの?」
ちょっと嫌な予感が……。
「セルリアが窓を開けたんだよ。」
「そう。良かった……。」
ヴァミリオが、窓を炎で融かしたんじゃなくて……。
「あ、今ボクを疑ってたでしょう!」
「ソンナコトナイヨ。」

「随分立派になったね。」
疑わしげな目で僕を見るヴァミリオは無視して、リフィに声を掛けた。
「でしょう?」
嬉しそうにそう言って、僕に近付いて来るリフィ。
大きさはそんなに変わってないが、馬の部分に筋肉が付いた感じで、野性的な感じがする。
女の子としては、どうかと思うところもあるが……。
「あ、ちょっと待って。」
クレアが、今にも僕に擦り寄ろうとするリフィを止めた。
「何?」
「ユウマに甘える前に、綺麗にするからね『クリーン』。」
「ありがとう、おばさん!」
「お、おば……。」
クレアは、リフィの「おばさん」呼ばわりにショックを受けたようだ。
年齢的には……、いや、やめておこう。
「ご主人、会いたかった!」
リフィは、そんなクレアを気にせず僕に甘えて来た。
僕は、そんなリフィの頚筋を撫でた。
「よく帰って来たね。ん?帰って来たということは、もしかして……。」
「うん。リフィ、発情期に入ったよ!あ……。」
やっぱり!
そう思った途端、リフィが向きを変える。
「え?どうしたの?」
リフィは、お尻を向けて腰を落とした。
後ろから見ると、馬にしか見えない。
そして、この行動は……。
「リフィ、ご主人に撫でられて変な感じになっちゃった。」
「あーあ。ユウマ、責任取らないとね。」
クレアが横からそんなことを言って来るが……。
「あ、そうだ。リフィ、カミルさんの所に行こうか。」
僕は、誤魔化すようにそう言った。
「わーい!」
良かった。どうやら、ミルクさんに会える楽しみがまさったようだ。

~~~
今日はレモンは天狐さんの所へは行かないようなので、ステラとリフィだけ連れてリーソンに向かった。
リーソンのギルドにも寄ろうかと思ったが、この前も来たし、今日は直接カミルさんの所を訪ねることにた。
「こんにちは。」
「ユウマさん、お久しぶりです。」
「あ、リフィちゃんだ。お久しぶり!」
「ミルクお姉ちゃん、こんにちは!」
奥から出てきたミルクさんが、リフィに気付いた様だ。
リフィもミルクさんに会えて嬉しそうだな。
「リフィさん、戻って来たんですね。」
「そうなんです。発情期に入ったようで……。」
「それはそれは。」
苦笑いするカミルさん。
「あ、そうだ。ルナの子供が産まれました。」
ちょっと恥ずかしくなり、慌てて話題を変えた。
「それは、おめでとうございます。お子さんはハイ・ホースですか?」
「いえ。ハイ・ヒューマンでした。」
「そうなんですか!?」
カミルさんは、かなり驚いているようだ。
「そうなんですよ。私も驚きました。ある程度大きくなったら連れて来ますね。」
「ぜひお願いします。」

「すみませーん!」
「あ、誰か来たみたいですね。すみません、ちょっと見てきます。」
「はい。」
あの声、聞いたことある気がするんだけど……。

「この方が、ユウマさんに会いに来られたようですよ。」
カミルさんは、戻ってくるとそう言った。
「ユウマさん、お久しぶりです。」
「ドゥフディさん!」
そう、その人はドゥフディさん(人化状態)だった。
群れに帰ったのだと思っていたので、こんな所で会うとは驚きだ。
「ユウマさんが、ここへおられると聞いたので、失礼かと思いましたが、お邪魔させていただきました。」
「どうしたんですか?」
「ユウマさんに、お願いがありまして……。」
「お願い?」
「はい。」
「ここではなんですから、場所を変えて話をしましょう。」
「ありがとうございます。」

~~~
「それで、お願いとは何ですか?」
重要な内容らしいので、僕の家で話をすることにした。
「あ、あのー。私もユウマさんと一緒に住まわせていただけないでしょうか?」
「ええっ!?」
詳しく話を聞くと、ドゥフディさんは、群れに戻ったものの僕のことが忘れられず、群れを出たこということだった。
しかも、リーダーの引き継ぎを行って、もう戻れない状況になっているらしい。
僕に好意を抱いてくれてるのは嬉しいが、ドゥフディさんの行動力には驚かされる。
僕が断ったら、どうするつもりなんだろうか?

「では、ドゥフディさん、改めて気持ちを聞かせてください。」
ドゥフディさんにそう告げたのはルナだ。
ルナにドゥフディさんの話をしたら、ルナも同席すると言って来た。
あと、クレアとステラも同席している。
二人は必要なのか疑問に思ったが、クレアが「第2夫人として必要」とか言ってステラとちょっと揉めていた。相変わらずだな。
なお、他の皆には遠慮してもらった。大勢だと、ドゥフディさんも話し難いだろう。
このメンバーでも十分話し難いだろうが、これで話ができないようなら、そもそもうちにはいられないだろう。

「ありがとうございます。私はユウマさんを好きになってしまいました。お願いです。こちらに置いてください!何でもしますから!」
何でもする、だと……いやいや、そういうことではないよね……多分。
ルナの方をチラっと見たら、目が合った。
「ルナ、どう思う?」
「あなたが良ければ、置いてあげても良いんじゃない?それに、あなたが不在の時に、人の手があったら助かるわ。」
確かに、僕以外は手が使えないから、不便な事も多い。
一番手に近い前足を持っているのはセルリアだが、それでも人間の手には遠く及ばない。
「わかった。じゃあ、ドゥフディさんにはここで暮らしてもらおうかな。クレアとステラも問題無い?」
「問題無いわ。」
「アタシも。」
二人とも、問題無いようだ。というか、この二人はルナに反対することはまず無いからな。
やはり、この二人はここにいる必要はなかった気がする。
「ありがとうございます!」
「じゃあ、僕の前では鹿本来のの姿でいてもらって、僕がいない時にはルナの指示に従ってね。」
「わかりました!」
「じゃあ、私はドゥフデイさんと、今後のことについて話をするわ。」
「そうだね。ルナ、お願いするよ。ドゥフデイさん、これからよろしくね。」
「は、はい!よろしくお願いします!」

~~~
「え?また行っちゃうの?」
「うん。」
リフィが戻ってから4日目のこと、彼女はまた旅に出ると言い出した。
どうやら、今朝になって発情が収まったようだ。
「また、近い内に発情するんじゃないの?」
ヒポグリフはわからないが、馬系魔物は周期的に発情するらしいから、同じ可能性は高い。
「またご主人を独占すると、皆に悪いから……。」
皆のこと気にしてたんだな。
「そんなに気にすることはないと思うよ。僕も、リフィがいてくれると嬉しいし。」
「ありがとう!また、そのうち帰って来るね。」
「わかった。待ってるよ。」

リフィは、皆に挨拶した後去って行った。
皆、リフィが僕にずっとくっついているので、少々不満を溜めていたみたいだったが、「あんなに短い間しか僕と一緒にいないんなら仕方ないか」みたいな感じになった。
しかし、このところ慌ただしかったな。これで、少しは落ち着けるかな?
「ごめんください。」
そう思ったそばから、これだよ!
誰かわからないけど、絶対碌な話ではない気がする。

訪ねて来たのは、ワーテンのギルド職員だった。
「ギルドマスタ-からユウマさんに伝言を頼まれました。」
「伝言?」
「はい。エラスの近くに侵略者の第一陣が現れたようです。」
「第一陣とは?」
「本格的な大侵略が始まる前に、何回か小規模な部隊が現れるのです。最初のものを第一陣あるいは第一波と呼んでいます。」
「なるほど。でも、小規模なら慌てることはないですよね。エラスには、勇者もいるし。」
「それで対応できているなら、私が急いで来る必要はなかったのですが……。」
「ということは……。」
「ギルドマスタ-からは、ユウマにも協力を頼むよう言われました。」
やっぱり、予感は的中したようだ。

「という訳なんだけど、どうしよう。」
僕は、聞いたことを神獣達に話をした。
「我が行って、直ぐに終わらせてやろう。」
「セルリア、ありがとう。」
セルリアが行けば簡単に排除できるだろう。
もちろん、ヴァミリオやレモンでも大丈夫だろうが、一掃するならセルリアが適している。
ジェイダも可能だろうが、あまりエラスの近くに行かせたくない。
しかし、誰が行くにしても、エラスの上層部に神獣の封印が解けたことが知られる可能性が高い。
当然、ジェイダとの関連の可能性も考えると思う。
いずれ知られるとは言え、極力知られないようにしたい、
「私が幻術で、神竜とわからないようにしようか?」
悩んでいたら、膝の上にいるレモンがそんなことを言って来た。
「見る人全員に幻術を掛けるっていうこと?」
「さすがに、それは私でも無理ね。セルリアと見ている人の間に細工するのよ。」
「そんなことできるの?」
なにそれ凄い。フィルターを設置するみたいな感じなのかな。
「フフン!そうよ。見直した?」
僕の膝の上で胸を張っても、威厳ないんだけど。
ちなみに、両肩にはジェイダとヴァミリオがいて、ヴァミリオがジェイダを睨んでいる。
「うん。それで、レモンはどこからそれを掛けるの?」
「そうね。ある程度近付く必要が有るから、ヴァミリオに乗せてもらうとか。」
「えー?ボクはユウマしか乗せないよ!」
ヴァミリオが抗議の声を挙げた。
しかし、困ったな。あ、そうだ。
「僕がレモンを抱えて、乗せてもらうのはどう?」
微妙だけど、これならヴァミリオは僕を乗せるということになるので、オーケーしてくれるのではないだろうか。
「うーん。まあ、それなら良いよ。」
「ありがとう、ヴァミリオ。」

ふと、反対側から目線を感じてそちらを見ると、ジェイダと目が合った。
ジェイダは、慌てて目線を反らしたけど……。
「ジェイダ、ごめんね。」
「何のことかしらー?」
「お留守番になっちゃったことだよ。ジェイダは、エラスの近くに行かない方が良いかなと思って……。」
「別に気にしないわよー。私もあの辺は行きたくないしー。」
「そう?ありがとう。」
ジェイダは、気を遣ってくれてるのだろうな。
まあ、行きたくないのは本心かも知れないが。
「主、早く向かった行った方が良いのではないか?」
セルリアが、じれたようにそう言った。
確かに、今は急いだ方が良いだろう。
「そうだね。皆も良い?」
「大丈夫!」
「良いわよ。」
ヴァミリオとレモンも問題無さそうだ。
なので、早速出発することにした。
ちなみに、テレポートはいつも通りステラにやってもらうことにした。
ステラに危険な場所に行かせるのは気が引けたが、今回は人数も多いので、確実さを優先したかったのだ。
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