異世界でも馬とともに

ひろうま

文字の大きさ
上 下
75 / 94
第5章 新たな従魔探し

58-盗賊とレモン

しおりを挟む
「それで、我々はどうすれば良いのかな?」
「あそこに、岩がゴロゴロしてる川原がありますよね。」
「ああ。あそこだな。」
ジョーンズさんが、そちらに視線を向ける。
「ちょっと道から外れますが、あそこで休んでおいて欲しいということです。」
「なるほど。休んでいるところを襲わせる訳だな。わかった。」
ジョーンズさんは、御者の人に指示を出して、馬車はそちらに進み始めた。
あ、後ろに続いていたいくつかの商隊が戸惑っている感じだな。
『クレア、後ろから来ているいくつかの隊があるから、それぞれにこの先に盗賊らしき人たちが潜んでいることを伝えてくれない?』
『了解!』
クレアのことは、皆多分知っているから、大丈夫だろう。
無視して襲われても、こっちの責任じゃないし。

川原に着くと、馬からハーネスを外してやり、休みに入った。
「もうすぐ着くんだろう?俺は特に休まなくても良いぞ?」
草を食みながら、リーダー的な馬が言って来た。
真面目なやつだ。
「ちょっと事情があるんだよ。」
「ふうん。まあ、草食べさせてもらえるから、良いけどな。」
普通は、こんなところで休んだりしないんだろう。
うしろの商隊も皆少し離れた所に来ていたが、馬は馬車に繋いだままだし、人もすぐ動ける様にしている感じだ。
盗賊のことを信じたのなら、警戒しているだろう。
これ、すごく不自然な状況に見えるけど、盗賊たちは襲って来るかな?

~~~
「こいつ、気持ち悪いんだが、噛み付いて良いか?」
盗賊の一人に抱きつかれた馬がそう言って来た。
馬でも気持ち悪く感じるんだな。
それでも、勝手に振り払ったりしないのは、さすが調教が行き届いた馬車馬というべきか……。
「もうすぐ、この人たちはいなくなるはずだから、もう少し辛抱してね。」
「しょうがないな。」
「ごめんね。」
聞き分けが良いな。
後でしっかり誉めてやろう。

どういう状況かというと……。
あれから少しして、盗賊たちが襲って来たのだが、皆何もない所で短刀を振り回してニヤニヤしていた。
しかも、それから、皆裸になって岩にしがみついた。
唖然としていると、後からリーダーとおぼしき男がやってきた。
「おい、お前らそんなことをしている場合か!」
彼はまともそうだなと思ったのもつかの間、彼は一頭の馬に向かって行き、抱きついたのだ。

ということで、ちょっと見るに耐えられない光景になっている。
「レモン、どうなってるの?」
岩にしがみついている男たちを指さして、レモンに聞いてみた。
「彼らは、美女と楽しんでいるつもりなのよ。」
まあ、大体予想は着いたけどね。
「あの男は?」
馬に抱きついている男を見ながら、レモンに尋ねる。
「あいつは、人には興味ないみたいだったから、試しに馬を獣人に見せてみたのよ。」
「あ、なるほど!ちょっと変わっているのか。」
いわゆる、『ケモナー』だな。
「ユウマ程では、ないけどね。」
「酷い!」
でも、否定できないことは、自分が一番よくわかっている。

~~~
しばらくすると、ヴァミリオが戻って来て、僕の肩にとまった。
「ヴァミリオ、お疲れ様。」
「連れて来たよ!」
見ると、馬に乗った人たちと馬車が近付いて来ているのが見えた。
ワーテンの警備隊の人たちとかかな?馬車は護送用だろう。

「こ、これは、一体……。」
警備隊らしき人の一人が、呆れた様に呟いた。
他の人たちも、唖然としていた。
うん。まあ、そうなるよね。

警備隊らしき人には、ジョーンズさんが状況を説明してくれた。
「あなたが、ユウマさんですか。噂は聞いております。あ、失礼しました。私は、ワーテンで警備を行っているルモールと申します。」
「はじめまして。ユウマです。」
噂というのは気になるが、触れない方が良いだろうな。
「この者たちは、こちらで引き取らせてもらいますね。」
「あ、待って。」
レモンが、盗賊たちを拘束しようとした警備隊の人を止めた。
「レモン、どうしたの?」
「せっかくだから、自分から乗ってもらいましょう。」
「「えっ?」」
見ていると、盗賊たちは自分から護送用の馬車に乗った。
警備隊の人も驚いている。
レモンが何か見せているのだろうが、聞かない方が良いかな?

「ありがとうございました。それでは、これで。あの者たちのことは、後でギルドで聞いてください。」
「わかりました。」
警備隊と護送用の馬車を見送って、進行を再開した。

その後は何事もなく、ワーテンに着いた。
「ジョーンズさん、お疲れ様でした。」
「お疲れ様。ユウマ君のお蔭で、荒事に鳴らずに済んだよ。」
「僕は何もしてないです。レモンのお手柄ですよ。」
「もっと誉めても良いのよ?」
僕に抱えられながら、そう言うレモン。
幻術が思い通りに決まって、満足そうだ。
「そうだね。エライエライ。」
「何かバカにされてる様な気がするけど……。」
「き、気のせいだよ。」
レモンの機嫌を損ねないように、慌てて撫でた。
「しかし、私たちは何もしませんでしたね。」
「確かに。」
「ホントだよね。」
ギザールさんたちは、活躍の場がなかったので、残念そうだ。
「勝手な事をして、すみませんでした。」
「いえ。ユウマさんと一緒という時点で、予想は付いていましたから。」

「皆さん、ありがとうございました。」
ジョーンズさんが、依頼の達成証明を渡してくれた。
それを受け取り、自宅に戻ろうとしたのだが……。
「ユウマさん、ギルドに行かないんですか?」
「あっ!」
ギザールさんに言われて、盗賊について後でギルドで聞いてくれと言われたのを思い出した。
僕は別に急がないが、ギザールさんたちと一緒に行った方が良いだろう。

~~~
ギザールさんたちと一緒にギルドに行くと、コリーさんの所に通された。
ギザールさんたちは、コリーさんと直接話をしたことはほとんどないようで、緊張していた。
「皆さん、今回は盗賊の捕縛に協力いただき、ありがとうございました。」
「い、いえ。捕まえたのは、ユウマさんで、私たちは何もしてないですので……。」
「いえ。やったのはレモンで、僕も何もしてないです。」
ギザールさんの発言に続けて、僕は抱えているレモンを見ながら、そう告げた。
「はあ。ちなみに、何をしたんですか?彼らは、ヤバい感じでしたが。」
「幻覚を見せたみたいです。」
「な、なるほど……。あんなに効果があるとは、さすが神獣ですね。」
「どういうことですか?」
「人間でも幻術が使える人がいますが、普通効果は限定されていて、しかも一時的なんですよ。」
「そうなんですか。」
「はあ。ユウマさんの従魔は規格外ばかりだから、一般的な水準がわからないのですね……。」
コリーさん、ため息ばかりだな。
「それで、なぜ今回コリーさんが直接話をしてくれているんですか?モフモフさせてくれるとかですかね?」
「そんな訳ないでしょ!」
思い切り拒否された。
横からも、ギザールさんたちの「何を言ってるんだお前は」みたいな視線を感じる。
「じょ、冗談に決まってるじゃないですか。ハハハ。」
「まったく……。皆さんを呼んだのは、直接お礼を言いたかったからです。」
「お礼ですか?」
「今回の盗賊は、捕縛依頼が出てた訳でもないので報酬もないですし、賞金首でもないので懸賞金も出ません。ですが、彼らは元々冒険者で、盗賊を始めたばかりでした。」
「元冒険者ですか……。」
冒険者から盗賊になるのは、ラノベでは有りがちだな。
「はい。このところ、上位の冒険者が戻って来ているので、依頼に対して冒険者が多い状態となっています。盗賊のリーダーはDランクでしたが、Dランクは特に仕事不足になっています。」
「それで、盗賊になる冒険者も増えている訳ですか。」
「そうなんです。そこそこ実力もあるので、余計に性質たちが悪くて……。彼がまだ盗賊を始めたばかりで捕まったことにより、他の冒険者に『盗賊になってもそう上手くいかない』ということを知らしめることになりました。なので、今回の皆さんの働きはありがたかった訳です。」
「そうなんですね。」
「はい。これからも、よろしくお願いします。……ところで、ユウマさん。」
「は、はい、何でしょう。」
何か急にコリーさんの表情が険しくなったが、どうしたんだろうか。
「フェニックスが割った窓の修理費を後で請求させていただきますね。」
「えっ?」
コリーさんの指さした先には、穴の空いた窓があった。

「ヴァミリオ、急いでくれたのはありがたいけど、窓から入らなくても良かったんじゃない?」
「てへっ(ペロッ)!」
フェニックスがてへぺろしてもかわいく……なくはないな。
窓は割ったというより、ガラスを溶かした感じだったから、炎魔法を使ったのだろう。
「今度から、ちゃんと入り口から入ってね。」
「わかったー!」
ヴァミリオなら、普通に入っても、皆注目するはずだからね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

異世界から来た馬

ひろうま
ファンタジー
ユウマの子であるアイリスは優秀な乗り手を求めて、家出を繰り返していた。 ある日、勇者送還の場に遭遇したアイリスは、それに乗じて現在日本に転移し、そこで一人の青年と出会う。 ※本作品は、「異世界でも馬とともに」の続編になります。 ※本作品は、某サイトで公開していた作品の転載となります(一部、言い回しの修正や加筆あり)。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...