異世界でも馬とともに

ひろうま

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第5章 新たな従魔探し

54-魔物ブリーダー1

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雛はしばらく僕にくっついていたが、そのうち周りを見回し始めたので、地面に降ろした。
それにしても、アンバランスな身体だな。
雛特有の頭の大きさに、子馬らしいヒョロリと長い足。
それでも、しっかりと立っているところは、さすが魔物というところか。
ちなみに、ワシの様な頭の部分は短い白い羽毛が生えていて、頚から下は母親と同じ鹿毛だ。小さい翼は、身体よりやや濃い茶色の短い羽毛が生えている。
「ママ?」
雛は、クレアのお母さんの前まで行って、そう言った。
あれ?母親という概念も有るんだ。
しかも、クレアやステラも居るのに、クレアのお母さんを母親ではないかと思っている。
これは、刷り込みとは違う気がするな。
誰か説明して欲しいが、頼りのクレアも驚いているみたいだから、わからないだろう。

雛は、結局、クレアのお母さんが母親であると確信できなかったのか、甘えることなく僕の所に戻って来た。
頼りなく歩いて来る姿も可愛い!
思わず抱き上げたが、この子は身体の造りが微妙なので、抱っこし難いんだよね。
あ、名前考えないと……。
色シリーズは思い付かないから、種族名絡みかな。
『ヒポ子』はあんまりだから、グリ……いや、これもやめておいた方が良さそうだ。
後ろを取って『リフ』とか。
もう少し、女の子らしく『リフィ』の方が良いかも。
「名前は、リフィでどうかな?」
「わーい!」
喜んでくれている様だ。
多分、どんな名前でも喜んでくれるんだろうけど……。

「ところで、リフィはどうしよう。ここに残すか、僕の家に連れて帰るかだけど。」
「ユウマに一番懐いてるから、ユウマの家に連れて帰るのが良いだろう。」
僕の疑問に、クレアのお母さんがそう答えた。
「お義母さんは良いの?」
「私は、魔力を与えただけで実の親ではないからな。」
「僕も、親ではないけどね……。リフィは、どうする?僕と一緒に来る?」
「うん!」
「じゃあ、一緒に行こうね。じゃあ、お義母さん、申し訳ないけど連れて行くね。」
「わかった。」
それにしても、リフィは知能高いな。人間の幼児位に感じる。
魔物はそういうものなのか、この子が特別なのかわからないが……。

~~~
「ステラ、セラネスに行ってもらえる?」
家に戻って皆にリフィを紹介した後、ステラにそう聞いた。
「もちろん、良いわよ。」
「ありがとう。」
セラネスに行くのは、リフィの従魔登録と、ボルムさんに色々聞きたいからだ。
リフィはいつの間にか眠ってしまったようだけど、起こすのもかわいそうなので、このまま連れて行こう。

乗馬施設で、今日休ませてもらう事を伝えて、ギルドに向かった。
いつも、当日に休みを伝えて申し訳ないな。
ベルタスさんは、理解を示してくれているけど、改善する様にしたい。
まあ、今回の様に急用ができる場合はやむを得ないとは思うけど……。

セラネスの街中をギルドに向かっていると、今日はリフィを抱いていることで注目された。
「見たこと無い魔物だな。」
「もしかすると、この前の卵が孵ったのかな?」
「危なくないのか?」
「雌獣たらしのことだから、大丈夫だろう。」
また、色々言われてるな。
なんか変な信用のされ方をしているが、これは喜ぶべきなのだろうか。

「もう卵が孵ったのか?」
「はい。」
ギルドに着くと、いつもの様にボルムさんの所に連れて行かれた。
何も言ってないのに……。
「ふぁ~。」
リフィが大きなあくびをした。目が覚めたらしい。
リフィは、ここが家ではないと気付いたらしく、キョロキョロし始めた。
「パパ、ここどこ?」
「ここは、別の街だよ。寝てる間に連れて来てごめんね。」
「パパとはな……。しかし、産まれたばかりなのに、そんなにしゃべることができるんだな。」
「そうなんですよ。魔物って、こういうものなんですか?」
「幼体の魔物はほとんど見たこと無いから、わからないな。」
「そうですか。能力値の事とかもご存じないですか?」
「能力値?なるほど、変わってるな。そうだ。魔物に詳しい奴を知っているから、紹介しよう。」
「本当ですか?お願いします。」
ボルムさんは紹介状を書いて、僕に渡してくれた。
「リーソンに住んでいる、カミルという奴だ。住まいは、リーソンのギルドで聞けばわかるだろう。」
「ありがとうございます。」
「ユウマとは気が合いそうな奴だ。」
ボルムさんは、若干ニヤついている。
何か嫌な予感がするが、気のせいということにしておこう。
「ところで、またスキルが増えてるな。」
「えっ?」
そういえば、スキルの確認がまだだった。
「即死耐性は、そのヒポグリフのスキルか。滅多に見掛けないスキルだな。」

================
【即死耐性】(パッシブ)
即死系の魔法・技・アイテムを無効化する。
================

「即死系って……。」
ロールプレイングゲームとかで良くある『デス』みたいな感じかな?
「即死系の魔法や技が使える者となると、かなり限られるし、役に立つことはまずないだろうがな。」
ボルムさんが僕の独り言に答えるように、そう言った。
確かに、このスキルが役に立つ機会は無いに越したことはない。

その後、ボルムさんと少し話をして、ギルドを後にした。
ちなみに、リフィの従魔登録を忘れそうになったのは、皆には内緒だ。

~~~
「ここだね。」
「そうみたいね。」
翌日の午後、リーソンのギルドでカミルさんの家を教えてもらった。
カミルさんは、『魔物ブリーダー』をやっているということだった。
狼の絵が描いてある所と言われたので、ここで間違いないだろう。

昨日行くこともできたが、貴重なヴァミリオとの飛行訓練なので、そちらを優先した。
セルリアとの飛行訓練はほぼ毎日なので、今日は休みにしてもらっている。
ちなみに、今はステラと二人だけだ。
リフィを連れて来ようかと思ったが、カミルさんがどんな人かわからないので、今回はやめておいた。
ボルムさんが紹介してくれるくらいだから悪い人ではないはずだが、念のためだ。
あと、さっきまでレモンも一緒だったが、今は別行動をしている。
この前天狐の話をしたことで久しぶりに会いたくなったらしく、リーソンに行くなら連れていって欲しいと言われたのだ。
久しぶりと言っても、少なくとも300年は経ってるんだよなぁ。

「ごめんください。」
「いらっしゃいませ!」
「えっ?ど、どうも。」
出迎えてくれたのは、大きな白い狼(?)だった。
「すみません!こら、先に出て行ったらお客さんが驚くからダメだと言ったろうに!」
「でも、この人言葉通じてるわよ。」
「えっ?」
「すみません、カミルさんですか?」
「そうです。うちのがご迷惑をお掛けしました。」
「うちの?」
「これは、妻のミルクです。」
「よろしくお願いします!」
なるほど。ボルムさんが言ってた、『気が合いそう』という意味がわかった。
「僕はユウマと言います。こっちは……。」
「妻のステラです。」
ステラが、珍しく主張している。ミルクさんに対抗意識を燃やしているのだろうか?
カミルさんは、ちょっと驚いた様子をしている。
妻ということに対してか、ステラがしゃべったことに対してかはわからないが。
「ボルムさんにカミルさんを紹介してたもらいました。」
そう言って、カミルさんに紹介状を渡した。
「ボルムさんに?」

紹介状を読んだカミルさんは、顔を上げた。
「成る程。ステラさんは、奥さんのうちの一人なんですね。」
「は、はい。」
え?『奥さんのうちの一人』って……。ボルムさん、紹介状に何を書いたのだろうか。
「奥さんがたくさんいて、凄いですね。私はミルクだけを全力で愛してます。」
「私も、カミルだけを愛してるわよ!」
何かラブラブな空気になってるんだけど……。
「アタシも、ユウマだけを愛してるわ!」
ステラ、一々対抗しなくて良いからね。
「お邪魔でしたら、帰りますが……。」
「あ!これは、失礼しました。本題は、ヒポグリフの幼体についてでしたね。」
「はい。今日は連れて来てないんですが。」
「それは、残念です。魔物の幼体は、なかなか居ないんですよ。」
「そうなんですか?」
「はい。たまに、弱っている魔物の幼体を見付けて連れて来る人がいますが、ほとんどの場合すぐに死んでしまうんです。なので、普通は親に守られているのだと考えられます。」
「そうでしょうね。」
「もう一つ、幼体の期間が短いというのも理由として挙げられます。」
「そうなんですか?」
「実は数は少ないですが、幼体が助かるケースも有ります。そういう場合、皆動物ではありえないほど、早く成体になっています。」

魔物の成長が早いのは、驚く事ではない。
妊娠期間も短いみたいだし、魔物は動物とは仕組みが違うのだろう。
僕はふと疑問に思った事があったので、聞いてみることにした。
「カミルさんは、ブリーダーなんですよね。」
「そうですよ?」
カミルさんは、何を今更という感じで聞いてきた。
「ということは、幼体の時から人に馴らしたり、トレーニングしたりするんじゃないんですか?」
「確かにそうなんですが、実は既に成体になった魔物の方が多いんですよね。」
「それは危険ではないんですか?」
「確かに成体の魔物は力も強く、危険な事も有ります。ですが、私のスキルで意外と何とかなるんですよ。」
「スキル?」
「詳しい事は話せませんが、この職業にはピッタリのスキルです。ミルクと話すことができるのも、このスキルのお蔭ですね。」
何というスキルか気になる。
閲覧すればわかるけど、まあそこまでする必要はないか。
あと、ミルクさんの言葉が僕に通じるのに驚いていた理由がわかった。
カミルさんが翻訳スキルを持っていたら、僕もそうだと推測できたはずだ。
多分、カミルさんのスキルは特定の条件を満たした相手としか言葉が通じないのだろう。

その後、ミルクさんとの出会いから始まり、どれだけ愛してるかを延々と聞かされた。
ミルクさんは成体になったばかりの頃に、罠に掛かっているところをカミルさんが助けたということだった。
最初は面白く聞いていたが、惚気をずっと聞かされるのは、さすがに辛くなった。
「あのー。そろそろ本題に入りませんか?」
「あっ、す、すみません。」
「すみません。主人はいつもこんな感じで、客に疎ましがられるんです。」
それは、凄く理解できる。
が、取り敢えずフォローして置こう。
「で、でも、そんな人が育てた魔物なら、安心して譲り受けられますね。」
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