異世界でも馬とともに

ひろうま

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第5章 新たな従魔探し

52-ヒポグリフの卵1

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次の日から2日間は雨だったため、乗馬も従魔探しも休みにした。
今日はやっと晴れたが、ヴァミリオとの飛行の日だったので、従魔探しは休みにして、朱菊の件でタルトのギルドに行くことにした。

「クラルさん、こんにちは。」
「ユウマさん、こんにちは。この前のドラゴン同士の戦いは凄かったですね!」
「あ、映像観られたんですね。」
「はい。良いものを観せてもらい、ありがとうございました。ただ、この目で見られなかったのが残念で……。無理にでも仕事休めば良かったと思ってます。」
「いやいや。それはダメでしょう。」
「やっばり、そうですよね……。ところで、今日はどうされました?」
「前言われていた朱菊の件は、どうなったかと思いまして。」
「あっ!そうでした。ユウマさん、来られたら採取頼もうと思ってたんでした。受けてもらえますか?」
「はい。そう思って来ましたので。」
「ありがとうございます!これが依頼書です。私が依頼主になりますので、受付は通さなくて大丈夫です。どうぞ。」
受け取った依頼書を確認した。

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件名:薬用朱菊の採取
指名:ユウマ
報酬:15,000G
内容:薬用朱菊を20株、根ごと採取する。極力根の先まで土ごと採取すること。
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20株か。研究のためとしては少ないが、採り過ぎを懸念してのことだろう。
ポイントの記載がないのは、僕指名だからだろう。僕は既にCランクで、ポイント関係ないからね。
そういえば、またあの靴は貸してもらえるんだろうか?
「あの靴をお借りできますか?」
「もちろんです。あと、必要であれば採取した朱菊を入れる袋もお貸ししますよ?」
あ、スコップは準備して来たが、入れる物の事を考えてなかった。
いつも、ステラに頼ってるから、思い付かなかった。
「ありがとうございます。袋も持ってないので、お願いします。」
「わかりました。準備させましょう。」

ヴァミリオに、目的の所に連れていってもらい、朱菊を採取した。
それを袋――手さげ袋の感じだ――に入れ、運ぼうとしたが……重くて持ち上げられなかった。
土がかなり付いた状態だからだろうけど、困ったな。
「ボクが持とうか?」
「えっ?良いの?」
「それ位問題ないよ!ただ、このままだと持ち難いから、ちょっと大きくならせてね。」
「わかった。ありがとう。申し訳ないね。」
僕を乗せてくれた上で、荷物まで持ってくれるとは!
あれ?良く考えると、僕が荷物持ったとしても、結局ヴァミリオに運んでもらうのには変わりないような……。

「どうやって持つの?」
いつもより少し大きくなったヴァミリオに乗って、聞いてみた。
「足で掴むんだよ。こうやって。」
そう言うと、ヴァミリオは飛び上がった。
こうと言われても、見えないんだけど。
あと、いつもより大きいヴァミリオはうまく跨げないため安定せず、必死にしがみつくことになった。
ヴァミリオは、「そんなに強く抱き締めてくれるなんて!」とか言ってるが、こっちはそれどころではなかった。

タルトの門の前に、ヴァミリオが降りたが、門番さんも特に慌ててなかった。
クラルさんが伝えてくれていたのだろう。
いつもなら、もう少し離れた所に降りるんだけど、遠くに降りると袋を運ぶのに不便だからね。
「ありがとう!お疲れ様。」
ヴァミリオの頚を撫でると、ヴァミリオは黙って頭を擦り付けて来た。可愛い!
「ユウマさん、そんなところでイチャついてると邪魔なので、入ってください。荷物はこちらで運びますから。」
「は、はい。」
イチャついている訳では……いや、そう見えても仕方ないかな。
後ろを見ると、いつの間にか馬車が一台いて、乗客だと思われる人たちと護衛の冒険者と思われる人たちがいた。
皆さん微笑んでいるので、大丈夫そうだが、ここは謝っておくべきだろう。
「すみませんでした。」
「ごめんなさい。」
ヴァミリオも声出しちゃってるし。
隣を見ると、皆さんに向かって頭を下げていた。
皆さんの方を見ると、口を空けて固まっていた。
神々しさを感じたからか、しゃべったことに驚いたのかはわからないが、ヴァミリオのせいであることは間違いない。
あ、年配の女性が手を合わせて拝み始めた。
こっちの世界でも、そういう習慣があるんだな。
おっと。早くタルトに入らないと、またクラルさんに怒られそうだ。

クラルさんとギルドに行き、無事報酬ももらった。
「ユウマさん、何か騒動を起こさないと気が済まないのですね。」
「そういうつもりは全くないんですけどね。」
「まあ、それはそれとして、今回はありがとうございました。これで、研究も進められます。」
「お役に立てて何よりです。成果が出ることを祈ります。」

~~~
翌日は午後から従魔探しをしていたが、気になる物を見付けた。
『セルリア、あそこに馬が群れてるよね。』
『馬の群れ?ああ、あれか。そうだな。ん?一頭離れてるのがいるな。』
『やっぱり、そうだよね。』
気になったのは、馬の群れから少し離れた所にいる馬だった。
確信がないから、セルリアに見てもらったが、どうやら間違いないようだ。
『あそこに行ってみたいから、えーと、あ、あの岩場の辺に降りてくれる?』
『わかった。』

セルリアに降りてもらい、一緒にその馬の所に歩いて行った。
ある程度近付いて見えたのは、一頭の鹿毛馬と側にある大きい卵の様な物だった。
もしかして、あの馬が卵を産んだのだろうか。
馬が卵を産む絵とか、シュールだな。いや、魔物ならそういう事もあるのか?
馬は、呆然としている感じでこちらに気付いた様子がない。
このまま、あの卵を調べてみるか。
そうだ。こういうことは、クレアに聞いてみるのが良いだろう。
『クレア、今良い?』
『良いわよ。どうしたの?私の声が聞きたくなった?』
『ちょっと聞きたいことがあるんだけど……。』
『スルーなの?まあ、良いわ。何?』
『今、目の前に馬と卵があるんだけど、どういう状況かわかる?』
『その卵は、グリフォンの卵じゃないかしら。』
『グリフォン!?』
出た!
あれ?グリフォンって上位っぽいから、この世界ではメスしかいなかったりしないのかな。
『グリフォンは天界の魔物だから、ちょっと特殊なのよ。オスだけしかいなくて、子孫を残すために、発情した牝馬と交尾するのよ。』
『そうなんだ。』
僕の考えを読んだ様に、クレアが説明してくれた。
『でも、おかしいわね。』
『何が?』
『普通、交尾すると直ぐ相手は卵を産むの。だから、グリフォンは待ち構えてて、産まれたら直ぐに天界に持ち帰るものなの。』
『そうなんだ。難産でなかなか産まれなかったから、諦めたとか?』
『そうかも知れないわね。ただ、私はそういう話は聞いたことないわ。』
『そう。ありがとう。』
グリフォンか……。そうだ、卵を閲覧スキルで見てみよう。

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【ヒポグリフの卵(魔力供給待ち)】
グリフォンとハイ・ホースまたは馬系の上位魔物との交尾によって産まれる。
一定時間内に魔力供給を行わないと死んでしまう。
================ 

えっ!?
元の世界でも、ヒポグリフはグリフォンと馬の間に産まれるということになっていたが、こっちの世界の法則とは合わないな。
いや、今はそれより魔力供給しないと死んでしまうというのが問題だ。
孵らせて良いものかどうかわからないが、わからない内に死なせることは避けたい。
僕は魔力が豊富だから、取り敢えず僕が抱いておけば死ぬのは防げるんじゃないかな。
そう思って、近付き、馬に声を掛けた。
「済みません。この卵持たせてもらいますね。」
「えっ?あ、はい。」
馬は混乱している様で、こちらを警戒すらしない。
こちらには好都合だが、肉食動物とかに襲われるたりしたら危ないな。
ちょっと、この牝馬を閲覧させてもらおう。

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種族:ハイ・ホース
性別:♀
年齢:5歳
能力値:▼
スキル:▼
================ 

やっぱり、ハイ・ホースだったか。
名前がないから、何らかの契約相手もいなさそうだ。
あ、卵はどうなったかな?

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【ヒポグリフの卵(魔力供給中)】
グリフォンとハイ・ホースまたは馬系の上位魔物との交尾によって産まれる。
供給魔力が一定量を越えると、孵化する。
================ 

取り敢えず、卵を死なせることは免れた様だ。
「良かったら、話を聞かせてもらえないかな。」
「は、はい。実は……。」
彼女の話によると、こうだ。
少し前、発情が来たところをグリフォンに襲われた(彼女は死を覚悟した様だが、実際には交尾されただけだったのだろう)。
そのグリフォンは、しばらく様子見している感じだったが、そのうち去って行ったが、残された卵をどうすれば良いかわからず、呆然としていたところだった。
「この卵、僕が預かって良い?」
「え?ええ。持って行ってくれるなら、ぜひお願いします。あ、戻してもらっても困るので、できたらもらってください。」
「そう?じゃあ、そうさせてもらうよ。君の方は大丈夫?」
「卵のことが解決すれば、問題ありません。ありがとうございます。」
彼女は、そう言うと、群れの方に向かって歩いて行った。

しかし、勢いで卵をもらってしまったが、どうしよう。
取り敢えず、ボルムさんに相談かな?
「セルリア、ごめん。この卵のことで、これからボルムさんに相談に行くから、従魔探しは中止するね。」
「うむ。仕方ないな。我がセラネスまで送れば良いか?」
「ありがとう。でも、卵を持ったままセルリアに乗せてもらうのは危険だから、念のためステラにテレポートをしてもらおうと思う。」
「そうか……。」
ちょっと残念そうにするセルリア。申し訳ない!
僕はステラに念話を送った。
『ステラ、今大丈夫?』
『大丈夫よ。どうしたの?』
『急用ができてセラネスに行きたいんだ。悪いけど、テレポートをお願いできる?』
『もちろん、良いわよ。ユウマは私のご主人様なんだから、命令してくれれば良いのに。』
『それはできないよ。』
普通の馬だったら、主従関係をしっかりしておく必要があるけど、ステラたちは妻なんだから命令するのは違う気がする。
従魔でもあるんだけど、彼女たちが自分の意思でなってるだけで、僕が従わせてるつもりはないし。
『ユウマは相変わらずね。そういう所も好きなんだけど。』
『えっ!?』
不意打ちはやめて欲しい……。
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