異世界でも馬とともに

ひろうま

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第4章 大侵略の前兆

47-レッドドラゴン

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午後からは、予定通りセルリアと一緒にレッドドラゴンに会いに行くことにした。
今日は、ミノンの要望があればそれに応じる予定だったが、ミノンは特に思い付かなかったようだ。

昨日目印にした山に向かって、セルリアに飛んでもらう。
セルリアは速いので、例の川をすぐに超えた。
もう、昨日引き返した辺りまで来たのではないかと思うが、まだそれらしき気配はない。
『いないね。』
『うむ。もう少しこのまま飛んでみよう。』
『そうだね。』
まだ時間は充分あるからな。

『ん?』
あれからしばらく経って、セルリアが何か気づいたようだ。
『どうしたの?』
『多分、ドラゴンだな。』
セルリアは、そう言うと、そちらの方向に向かった。
見える距離迄近付くと、向こうも気付いたのだろう、こちらに向かって来た。
近くで見ると、矢張り大きい。
セルリアの元々の大きさより、少し小さい様だが、今はセルリアは小型化してるので、かなり大きく見える。

「ん?もしかして、ブルードラゴンか?」
相手の方が先に話し掛けてきた。
「そうだ。久しぶりだな。こんな所で何をしているのだ。」
「お前の封印が解けたと聞いたから、探していたのだ。」
あ、レッドドラゴンの目的はセルリアに会うことだったのか。
「そうか。それで我を探してた理由は?」
「俺と勝負してもらおう。」
「良いだろう。まあ、結果はわかってるがな。」
「ちょ、ちょっと待って!」
やっぱりこうなるのか!両者とも戦闘狂なんだな。
「ん?何だその人間は。」
「我の夫であり主であるユウマだ。人間だが、お前では歯も立たんだろう。」
「夫だと?」
セルリアが自慢げに言っているが、レッドドラゴンの意識は完全にこちらに向いている。
ガブッ!
「えっ!?」
「貴様、何をする!」
「お前が俺では歯が立たないって言うから試してみたんだが……本当に立たないな。」
こいつ、何やってるんだ。もしかして、頭弱いのか?
「フフン。言った通りだったろう。」
いやいや。セルリア、威張ってる場合じゃないんだけど……。
「ここで戦われると大変な事になるから、やめてくれる?どうしてもやるなら、戦闘できる場所を用意してもらってからにして。」
「人間の言うことを聞く必要はないが、ここはブルードラゴンの顔を立ててやろう。」
「お前がそんなことを言うとは珍しいな。どうしたんだ?」
「た、単なる気まぐれだ。別に、その人間を認めたからではないからな。勘違いするなよ。」
もしかして、こいつもツンデレキャラか!?雄ドラゴンのツンデレとか需要あるのだろうか?

レッドドラゴンの住処はワーテンの東にあるらしいので、一緒にそちらに向かいながら話しを聞いた。
ワイバーンたちの噂で、セルリアが解放されたこととリーソン付近に現れたというのを聞いて、徐々にリーソン方向に探索範囲を拡げていたらしい。
「それで、何でセルリアと戦いたいの?」
「こいつは、ブルードラゴンが神獣に選ばれたのを根に持っているのだろう。」
レッドドラゴンより先にセルリアが答えた。
「根に持ってはいない。恐らく、お前たちの種族の方が強いのだろうからな。実際、お前の方が強かったし。」
意外と潔いな。まあ、このタイプは、『強さがすべて!』みたいなとことがあるのだろう。
「そうだ。今戦っても、我が勝つに決まっている。」
「お前が封印されている間に、俺は鍛えていたのだ。お前の封印が解けたら、目に物見せてやろうと思ってな。」
「そうか。それは楽しみだな。」
「余裕を見せられるのも、今の内だぞ。」
レッドドラゴンって、僕と違って真面目なんだな。ちょっと、感心してしまった。
でも、申し訳ないけど、セルリアの圧勝になると思う。
実力が同程度ならMP上限なしというだけでも圧倒的に有利なのに、更にMP消費防御が組み合わさって無敵に近くなっているからな。
そう考えると、レッドドラゴンがちょっと可哀相になって来た。

「じゃあ、戦闘の場所が確保できたら、知らせに来るね。」
「わかった。俺はいつでも準備オーケーだからな。」
レッドドラゴンと別れて、飛んでいるセルリアと念話をする。
『レッドドラゴンって真面目なんだね。』
『うむ。我も意外に思った。』
『なぜ、セルリアと戦うことに拘るんだろう。神獣の件はそんなに気にしている感じでも無かったけど。』
『そうだな。まあ、ドラゴンは強い相手を求めるものだからな。』
それはあるだろうが、彼の場合それだけではない気もするが……。
もしかして、本人も気付いてないけど、セルリアに好意を抱いているとか?
まあ、それは、そのうちわかるだろう。

「あ!」
僕は、急にあることを思い出した。
「主、どうした?」
「レッドドラゴンのことばかり考えていて忘れていたけど、元々は従魔となるような魔物を探していたんだった。」
「そう言えば、そんな話だったな。ん?」
「どうしたの?」
今度は、セルリアが何か思い出したみたいだ。
「前に会った、ファー・ドラゴンもユウマのことを気に入っていたから、従魔になってくれるのではないか?」
「確かに……。」
その時は、従魔を増やすということを考えていなかったので、スキルも確認していなかった。
ちょっと気が引けるが、彼女にもう一度会ってみても良いかも知れない。

~~~
「おはよう、ミノン。」
「おはようございます。」
昨夜は、ミノンのなまダウン(?)のお蔭で快眠できたので、スッキリした目覚めだ。

今日は、久しぶりに乗馬施設にレッスンをしに来た。
と言っても、レッスンを受けるのはこの前と同じ牝馬だったので、レッスンしてるのはルナだけだ。
そのため、その間、僕はエルミナに乗った。
エルミナも久しぶりの運動で、動きが硬くなっていたが、運動している内に柔らかくなって来た。
しかし、いつもより時間を掛けてしまった。やっぱり、あまり休むと良くないな。

エルミナから降りると、エルミナは呼吸が荒かった。
「エルミナ、大丈夫?やり過ぎたかな?」
「大丈夫です。この感じはこの前と同じなので、恐らく……。」
あ、そういうことか。
わざわざ牝馬を避けてるのに、エルミナは発情したばかりだから油断していた。
加護の効果で、発情間隔も狭くなる可能性を考えるべきだったか。
「大丈夫?って、これはアレね。」
「そうみたい。」
ステラが心配してやって来たが、ステラもすぐに気付いたみたいだ。
「また、先に連れて帰ろうか?」
「ありがとう。でも、ルナももうすぐ終わるだろうから、一緒に帰ろう。」
少しすると、ルナが戻って来た。
「ルナ、お疲れ様。」
「お疲れ様。あら?エルミナ調子悪いの?」
「いや。例のアレみたい。」
「あ、そうなのね。」

~~~
午後から、セルリアにタルトまで飛んでもらった。
もちろん、訓練施設――前にセルリアとクレアの戦闘訓練を行った場所だ――を貸してもらうよう、お願いするためだ。
久しぶりのタルトなので、まずはクラルさんに挨拶しようとギルドに行った。
ギルドに着くと、クラルさんが出迎えてくれた。
「クラルさん、こんにちは。」
「ユウマさん、お久しぶりです。少しお時間いただけますか?」
「はい。大丈夫です。」
「では、私の部屋で少しお話ししましょう。」
クラルさんに連れられ、ギルドマスターの部屋に入った。
「前に持ってきてもらった薬用朱菊ですが、無事根付きました。」
「それは良かったですね。」
「先ずは第一関門突発という感じですが、この先が問題です。」
「と言いますと?」
「今のところ薬用朱菊は弱ってはいませんが、増える気配も有りません。」
「そうなんですか?」
増えなければ、採取して終わりになってしまうから、ここに根付かせる意味がないよね。
「ええ。温度等の条件等色々変えて試したいんですが、サンプルが少なくてあまり色々とは試せないんですよ。」
「また、採ってこいと言うことですかね?」
「もう少し様子を見るつもりですが、変化がない様なら依頼を出すので、またお願いしたいと思ってます。ですので、近い内にまた寄っていただけたらと思います。あ、ご都合が良いときで結構ですので。」
「わかりました。気に掛けておきます。」
「ありがとうございます。私からは以上ですが、今日はどのようなご用件ですか?」
「実は、訓練施設をまた貸してもらえないかと思いまして。」
「そうですか。では、ユウマさんが行くことを、カイトに連絡をしておきますね。」
「お手数をお掛けします。」
「いえいえ。このくらい何でもないです。」

訓練施設に行くと、カイトさんが出迎えてくれた。
「ユウマさん、お久しぶりです。セルリアさんも。」
「ご無沙汰してます。」
「ここを使いたいということですが、何に使われますか?また、戦闘訓練的な感じですか?それとも、模擬戦とかですかね。」
カイトさんはそう言いながら、セルリアをちらっと見た。
「模擬戦というか……。」
「レッドドラゴンと戦うのだ。」
「えっ!?」
セルリアが横から割り込むように言った言葉に、カイトさんが固まってしまった。
「カイトさん、大丈夫ですか?」
「し、失礼しました。何かとんでもないことを聞いた気がしまして……。」
確かに、今のセルリアの発言はいきなり過ぎるよね。
「えーと。順序だてて説明しますね。」
僕は、レッドドラゴンを発見してからの経緯を説明した。
しかし、カイトさんはまだ固まっている。あれ?説明が良くなかったかな?
「ちょっと整理させてもらって良いですか?」
「え?あ、はい。」
「レッドドラゴンはセルリアさんを探していて、ユウマさんがそれを発見したんですね。」
「そうです。」
「セルリアさんが会いにいったら、レッドドラゴンがセルリアさんに戦闘を申し込んで……。」
「その通りです。」
「二人が戦闘を始めようとしたから、ユウマさんが場所を提供するからと言って止めたと。」
「はい。」
なんだ。ちゃんと伝わってるじゃないか。
「なんじゃそりゃー!!」
「うゎ!」
びっくりした!
カイトさん、キャラ変わってない?

「す、すみません。取り乱してしまいました。」
ちょっと間があったが、カイトさんが冷静さを取り戻したようだ。
「もしかして、ここを使う想定にしたのがまずかったですか?」
「いや、他の所で戦闘してしまったらそこが大変なことになるだろうから、ユウマさんの判断は正しいと思います。」
「それを聞いて、安心しました。」
「しかし、ここもドラゴン同士が戦闘することは当然ながら想定してないので、耐えられるかどうか……。特にブレスとか使われたら、とてもじゃないですが無理です。」
「じゃあ、ブレスはなしというルールにしましょう。セルリア、問題無いかな。」
「我は問題ないし、レッドドラゴンもそれくらいは受け入れてもらおう。」
「だそうです。」
「簡単にドラゴンを納得させるとは、さすがユウマさんと言うべきでしょうか……。でも、それでも本気の戦闘となると、結界を強化しないと厳しいかも知れませんね。」
「うーん。我は本気を出すつもりはないが、奴は本気で来るかも知れんな。」
「で、ですが、結界強化ができれば何とかなると思います。クラルさんとも相談するので、また明日来てもらえますか?」
「わかりました。いつも、お手数をお掛けして申し訳ありません。」
「いえいえ。ドラゴン同士の戦闘を見るチャンスなんて、一生に一度有るかどうかですから、何とか実現させたいと思います。」
あれ?いつの間にか、カイトさんがやる気満々になっている。
やっぱり軍人だけあって、そういうのは燃えるんだろうな。
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