異世界でも馬とともに

ひろうま

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第4章 大侵略の前兆

40-魔鳥の林

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「ルナさん、おはよう。発情は収まった?」
「クレア、朝からいきなりそれ聞くの?」
「そうよ。重要なことだもの。」
うゎ、全く悪気がない。
「今日はスッキリしているから、収まったんだと思うわ。あなた、撫でてみて。」
「う、うん。」
撫でてみるが、特に反応はない。どうやら、発情は収まったみたいだ。
「クレア、妊娠したらステータスでわかるの?」
「多分わかると思うけど、はっきりとは言えないわ。お母さんに聞いたら、わかるかも知れないわね。」
確かにお義母さんならわかりそうだけど、そこまでしなくても良いかな。
もし、ステータスでわかるとしたら便利だな。

それから、いつも通り、乗馬施設へ出勤(?)した。今日はルナも一緒だ。
「ベルタスさんおはようございます。」
「おはようございます。」
「ユウマさん、おはようございます。あ、ルナさん復帰されたんですね。」
「ご迷惑をお掛けしました。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。では、今日はトムのレッスンをルナさんからもお願いします。」
「わかりました。」
トム君の準備もあるので、先にエルミナに乗った。
大分乗り易くなって来たが、まだ基本的な運動を中心にした方がよさそうな感じだ。
エルミナも早く高いレベルの運動をしたそうだが、今は我慢してもらっている。
「トム君、今日もよろしくね。」
「ルナです。よろしくお願いします。」
「は、はい。よろしくお願いします。」
トム君、ルナがいるからいつもより緊張しているみたいだ。
そのせいか乗り始めは硬かったが、徐々に柔らかさが戻って来た。
僕が2日乗ってることも有り、ルナの指導も細かい部分のみだった。
トム君は素直なので、ルナの指導も直ぐに吸収してどんどん良くなっていった。
「今日はこれで終わりましょう。」
「ありがとうございました。」
「かなり良い感じになったわね。しばらく、この調子で頑張ってね。」
「え?もう指導してくれないんですか?」
「それは、私たちが決めることじゃないから、わからないけど……。機会があれば、またよろしくね。」
「はい!」
その後ベルタスさんと相談し、トム君の指導は今日で一旦終了ということになった。
「トム君は、また指導を受けたそうでしたよ。」
「そうですか。では、もう少し運動レベルが上がったら、またお願いすることにしましょう。」
乗馬施設から出ながら、ふと気になったことをルナに聞いてみた。
「ルナは、馬に乗りたくなったりしないの?」
「そんな訳ないでしょ。あなた、人を乗せたいと思ったりする?」
「それもそうか。」
我ながら、変な質問をしたものだと思う。

~~~
「セルリア、お願いね。」
「うむ。」
午後から、セルリアに乗せてもらって、リーソンを目指す。
雨で延び延びになってしまっていたからな。
出発しようとしたら、ヴァミリオが声を掛けて来た。
「北の方は鳥の魔物が多いらしいから、気を付けてね。」
「そうなんだ。ありがとう。」
それがどうしたという感じだが、わざわざヴァミリオが忠告してくれたからには、何かあるのだろう。
もしかして、何かのフラグかな?
「我に近付いて来る者がおるとは思わないがな。」
確かにそうかも知れない。

ステラにカラドリウスの山までテレポートしてもらい、セルリアに海岸沿いに飛んでもらった。
レモンが封印されてた場所を過ぎると、しばらく同じ様な海岸線が続いていた。
『何もないね。』
『そうだな……。』
結構な時間飛んでいるが、遠くに海鳥の群れが見えた以外は、変化がなく飽きてしまった。
そのうち、空が赤くなって来た。
『日が傾いてきたし、今日は帰ろうか。』
『うむ、仕方ないな。適当な場所に降りるぞ。』
『お願い。』
セルリアが岩場の近くに降りてくれたので、そこにテレポートポイントを設定した。
『ステラ。来てもらいたいけど、場所はわかる?』
『一旦、さっき行ったポイントにテレポートしたらわかると思うわ。』
『そう?じゃあ、よろしくね。』

~~~
次の日は、乗馬施設に休みをもらって、朝から昨日の続きでセルリア飛んでもらうことにした。
まだリーソンへの距離がわからないので、なるべく進んでおきたい。
乗馬施設に連絡をするのに、電話がないのは不便だな。通信用の魔道具は、一般的ではないみたいだし……。
そう考えると、遠距離の念話がいかに便利かがわかる。
「セルリア、申し訳ないけど今日もお願いね。」
「うむ。我にとっては、大したことではないぞ。」
さすが、セルリアさん。頼りにしてます。

相変わらず、似たような景色ばかりだ。そろそろ、昼を過ぎた頃だろうか。
『ん?あれか?』
『どれ?』
セルリアが何か見付けたようだ。まだ僕には何も見えないが……。
しばらくすると、壁の様な物が見えて来た。
多分リーソンの外壁だろうが、ずいぶん高い壁だな。
その壁から少し離れた場所に林が有ったので、セルリアにその付近に降りてもらった。
林の中にテレポートポイントを設定しておこうと思ったのだ。

「何これ?」
林の中に入ると、鳥が集まってきて、騒ぎ始めた。
一斉にしゃべっているので、何を言っているのか聞き取れない。
これ、皆ヴァミリオが言ってた鳥の魔物かな?こんなところで、フラグを回収するのか……。
どうでも良いことを思っていたら、一羽の鳥が近づいて来た。
先日家で見たソニック・クロウと同じツートンカラーだし、多分同じ種族だろう。
近くで見ると、かなり大きいんだな。背の高さが、僕より少し低い位だ。
「お騒がせしてすみません。すぐ出て行きますので。」
「大丈夫ですよ。皆あなたを歓迎してるみたいですから。」
「僕を?」
「はい。あ、申し遅れました、私はここの魔鳥を取りまとめてるサニーと申します。」
「私はユウマと言います。」
取りまとめとかいるんだな。
あれ?そういえば、サニーさんは僕と会話できるのをわかって話し掛けてきたのかな。
「失礼ですが、サニーさん。もしかして翻訳スキル持っていらっしゃいますか?」
「はい。ということは、あなたも持っていらっしゃるのですね。」
「そうです。」

話を聞くと、僕がこの林に入った途端、メスたちが騒ぎだして僕の方に向かって来たらしい。
サニーさんはオスだが、この林は上位から中位の魔鳥のメスが多いようだ。
サニーさんの種族であるソニック・クロウは中位種だが、知能が高いらしい。
その中でも、サニーさんは翻訳スキルを持っているため、取りまとめに抜擢されているということだった。
ちなみに、サニーという名前は、以前仲良くなった人間から付けてもらったもので、正式な名前ではないとのことだった。
「ところで、なぜ皆集まって来たのでしょう。」
「それ聞きます?」
呆れたように口を開けたままになるサニーさん。
「いや、何となくはわかります。」
「でしょうね。皆、あなたに着いて行きたがっているんです。ドラゴンさんがいるので、ある程度距離を取っていますが……。」
「我に怯えて近付けない程度の奴が、ユウマに着いて来る資格はないな。」
セルリアがそう言うと、一羽の鳥が降りて来た。
「私も一緒に連れて行ってもらえないでしょうか?」
近付いて来たのは、白い大きな鳥だ。
見掛けはサギみたいで、高さは僕より少し高い位。
ちょっと震えている気もするけど、大丈夫かな?
「申し出はありがたいけど、結構大所帯になってるから、居場所無いかも知れないよ?」
「それでも良いです。」
「うーん。ヴァミリオと話をしてもらって良いかな。」
ここは、鳥同士ということで。
「ヴァミリオさん、とは?」
「あ、ごめん。フェニックスの名前だよ。」
「不死鳥様!?」
鳥の表情はよくわからないけど、驚いている様だ……というか、フェニックスと聞けば普通驚くよね。
「明日、連れてくるから、またその時にね。」
「は、はい。わかりました。」

~~~
翌日は、昨日行けなかった乗馬施設へ行った。
「ベルタスさん、昨日はすみませんでした。」
「大丈夫ですよ。ユウマさんたちがいつも来られる訳ではないことは承知の上ですので。」
「そう言って頂けると、助かります。」
「それより、今日は牡馬は例の馬しか残ってなくて……。牝馬は駄目ですよね?」
「他の人が乗って、ルナが指導だけするのは可能ですか?」
「それはできますが、ルナさんは良いのですか?」
「そこそこ乗れる人であれば、問題無いわ。」
「ユウマさん程ではないですが、トレーニングできるスタッフを乗せましょう。ルナさん、お願いします。」
「わかりました。」
ルナは、ベルタスさんと一緒に歩いて行った。
その間、僕はエルミナに乗っておこう。
「エルミナ、お願いね。」
「はい。よろしくお願いします。」

乗馬施設の後は、ギルドへは寄らずに家に戻った。
「セルリア、今日は申し訳ないけど、留守番をお願いね。」
「うむ。仕方無いな。」
今日はリーソン入りを優先するので、セルリアの飛行訓練は中止にしてもらった。
セルリアを連れていくと、例の鳥が怖がるし……。
連れて行くのは、ステラのほかは、ヴァミリオとレモンにした。
ヴァミリオの役目は、もちろん例の鳥と話をしてもらうことだ。
レモンには、リーソンで敵か味方かわからない人に会った場合などに、読心術を使ってもらおうと思っている。
リーソンは勇者崩れも多いらしいから、これまでより警戒する必要があると思う。
ステラは僕たちを送った後に家に戻ってもらおうと思っていたのだが、今日は僕を乗せて歩きたいということなので、残ってもらった。

林にテレポートすると、直ぐに鳥たちが集まって来た。
今日はセルリアがいないからか、鳥たちが昨日より近くにいるが、それでも少し距離を取っている。
多分、ヴァミリオに近付き難いんだろう。
「不死鳥様、ようこそお越しくださいました。」
サニーさんがやって来て、ヴァミリオに挨拶した。
「ボクは、ヴァミリオだよ!」
「失礼しました。ヴァミリオ様。」
「様はやめて欲しいんだけど……。ところで、ユウマについて来たいっていうのはどの鳥?」
「皆ついて行きたいと思いますが、ヴァミリオさんが言われてるのは、昨日話をした者ですね。」
「うん。」
「ここにいます!」
「うゎ!」
いつの間に居たんだろう?全然気付かなかった。
「不死鳥……ヴァミリオさん、是非連れて行ってください。」
「何でユウマについて行きたいの?」
「なぜかと聞かれましても……本能がついて行けと言っている気がするんです。」
何それ?
「うん。わかるよ。」
「わかるんかい!」
思わず、ツッコミが声に出てしまった。
「特に反対する理由も無いし、ユウマが良いなら良いんじゃない?」
「丸投げなの?」
ヴァミリオ連れて来た意味はあったのだろうか?
まあ、ヴァミリオなら仕方ない気もするが……。
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