異世界でも馬とともに

ひろうま

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第3章 平和な日常

34-北の神獣

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乗馬施設を出た僕たちは、そのままギルドに向かった。
依頼達成の報告をするためだが、ボルムさんに現状の報告も必要だろう。
ノアさんの所に行き、依頼書を提出した。
「報酬は、ギルド預かりで良いですか?」
「はい、それでお願いします。ところで、ボルムさんにお会いできますか?」
「少々お待ちください……。大丈夫みたいです。」

「ボルムさん、こんにちは!」
「ユウマ、久しぶりだな。」
「ちょっと、バタバタしてました。そろそろ、現状の報告しないといけないと思いまして……。」
「また、随分奥さんが増えたな。あと、スキルも。」
「そうなんですよ。皆無敵化してます。それと、北の神獣が封印されている場所がわかりました。」
「まだ行ってないのか?」
「まだ、行く時間が取れてないです。近いうちに行こうとは思ってます。」
「そうか。こちらでも、神獣のことを調べたのだが、なぜか情報が無い。封印されたのは、たった300年前なのにだ。その時の、異世界からの侵略については記録が有るのだが……。」
「クレアのお母さんの話では、その時神獣が活躍したらしいんですけどね。」
「そうだな。あと、その時最前線で戦った勇者の記録も無い。それ以外の勇者の記録は一部残ってるんだが……。」
「矢張り、不自然ですね。」

~~~
セルリアとの飛行訓練に出かけようとしたら、ジョーンズさんとミールさんが訪ねてきた。
「クレアとヴァミリオで迎えよう。セルリアは別の部屋で待ってて。」
「なぜだ?」
「セルリアがいると、ミールさんがセルリアばかり見るからね。」
「なるほど。わかった。」
セルリアは奥の部屋に向かった。
「ジョーンズさん、ミールさん、いらっしゃいませ。」
「突然すまないな。ミールがユニコーンと角の件で話しが有るということで連れて来た。」
「まだ出掛ける前で良かったです。どうぞ。」

席に座ると、ミールさんが話し始めた。
「ユウマさん、申し訳ありません。例のユニコーンの角は上に通りませんでした。」
「そうですか。」
まあ、仕方無いな。
「ただし、30万Gまでなら何とかなると言ってくれました。お願いするのも気が引けるのですが、30万で譲って頂くことはできませんでしょうか。」
「良いですよ。」
「えっ?お願いしておいてなんですが、本当に良いんですか?ダメ元だったのに……。」
「別に危険を冒して入手したとかではないですし、このまま眠らせたら、提供してくれたクレアのお母さんに申し訳ないです。」
取り敢えず、商談成立ということで……。

~~~
翌朝。
「ユウマ、おはよう。夕べはお楽しみでしたね。」
「ステラ、おはよう。お陰様で。」
「エルミナ、どうだった?」
「クレアさん、気遣いありがとうございました。でも、意識が朦朧としてて、あまり覚えていないんです。」
「まあ、そういうもんよ。ユウマは大丈夫だった?」
「ま、まあ、途中まではなんとか意識は保てたよ。」
「良かったわね……。」
「あ、クレアごめんね。」
あの時のことを思い出させてしまったな。
「大丈夫よ。実はあの時、マスターは頑張ってたんだけど……。」
「届かなかったんだね。」
実は、最近その結論に辿り着いた。
「ごめんなさい。私も対応できなくて……それも含めて悔しかったの。結婚できた今だから、言えるんだけど……。」
「やっぱり……。でも、次は大丈夫だからね。」
「もう!」
「あのー。イチャイチャしてるところ、すみません。」
「あ、 ごめん。」
エルミナを放置してしまっていた。イチャイチャしてる訳じゃないけど。
「あれが、発情なんですか?」
「そうよ。」
「もしかして、私子供ができるんですか?」
「可能性は無いとは言えないわ。でも、魔物は年取るほど子供ができ易いから、若いエルミナは厳しいかも知れないわね。」
「そうなんですか……。」
残念そうにするエルミナ。子供欲しいのかな?

~~~
乗馬施設に行き、予定通りフィンガーに乗った。
昨日の乗り始めに比べると、段違いの乗り易さだ。
軽く運動してから、ルナに見てもらう。
「今日は、細かく指示出すけど、返事しなくて良いわ。常に銜をしっかり感じておくこと。」
「わかりました。」
「じゃあ、速歩で輪乗り。フィンガーは、乗り手の指示を待って。」
ルナの指示で動きがちなので、ルナが注意している。
「前肢の振りが良くなって来たから、後肢が楽に動かせるようになったはずよ。前肢の振りをそのままで、後肢の踏み込みを意識して。」
お、踏み込みが良くなった。
「乗り手の指示で常歩。」
速歩と常歩の移行を繰り返して、その後休みを挟んで、駈歩と速歩の移行をした。
フィンガーが指示より先に移行しようとして、何度かルナに注意されていた。

少し長めの休憩中、ルナが言った。
「動きが柔らかくなったから、少し詰めてみましょうか。」
途端にフィンガーが固くなった。
「フィンガーさん、大丈夫よ。これまでの運動で、問題なくできるはずだから、力を抜いて。」
直ぐに、フィンガーの固さが取れた。
運動で嫌な思いを経験すると、その運動の扶助を行う前に馬が身構えるようになることも多い。
こうなると、馬に大丈夫だとわからせるのに、かなり時間を掛ける必要があるのだ。
しかし、それが、ルナの一言で改善されてしまった。
話ができても、乗り手である僕が言ってもこうはならないだろう。
同じ乗られる側の立場であり、信頼しているルナだから、可能なんだと思う。

少し詰めた運動も無事できて、今日の運動は終わった。
僕はフィンガーを洗い場に繋いで、鞍を外した。
フィンガーも、今日は疲れたようだ。
「フィンガーさん、お疲れ様。今日も頑張ったわね。」
ルナが、フィンガーの頬にキスをする。
「ルナさん、ありがとうございました。」
キスされて嬉しそうなフィンガー。
牡馬だから、慣れるとルナに変なことしないか心配したが、大丈夫そうだな。
「ユウマさん、お疲れ様でした。フィンガーはどうですか?」
「かなり良くなったと思います。ルナ、どう?」
「良くなりました。他の人を乗せてみても良いかも知れません。」
「えっ?そんなー!」
「フィンガーさん、お仕事なんだから、しっかりやらなきゃ。」
「わかりました。」
ルナに言われて渋々という感じのフィンガー。ルナの言う通り、仕事だからね。
「では、次からは他の馬をお願いしますね。」
「わかりました。あのー、牝馬はやめておいてもらえますか?」
「えっ?ユウマさんは牝馬の方が良いかと思ったんですが……ああ、ルナさんが嫌がるのですね。」
「私は、別に……。」
『ルナ、そういうことにしといて。』
『あ、わかったわ。牝馬が発情したら困るもんね。』
「まあ、多少気にしますけど。」
「わかりました。あのー、少々馬っ気の馬でも大丈夫ですか?」
「大丈夫と思います。レッスンにならなかったら中断しますけど……。」
「ちょっと、考えときます。明日、来られますか?」
「来ます。もしレッスンできなくなっても、来るだけは来ますので。」
「では、明日もよろしくお願いします。」

~~~
家に戻って休んでいたら、トリートさんがやって来た。
『今日は、この前より悪意を感じるから気を付けてね。』
『わかった。ありがとう、クレア。もう一人いるようだけど……。』
『もう一人は、そこそこ強いみたいだけど、悪意は感じられないわね。』
『雇われた冒険者かな?』
『そうでしょうね。また、私たちにどうこうできるほどじゃないから、問題ないわ。』
頼もしい!クレアたち頼りなのは、男として情けないけど、ない物ねだりしても仕方ない。
「トリートさん、いらっしゃい。」
「ユウマさん、お久しぶりです。」

その後、しばらく取り留めの無い話をした後、トリートさんの表情が変わった。
これから本題に入るのだろう。
「ところで、ユウマさん。美しい青毛馬を手に入れたらしいですね。見せていただけますか?」
「エルミナのことですかね。ちょっと待ってください。」
『ステラ、エルミナと一緒に来てもらえる?』
『わかったわ。』
『あと、エルミナには、言葉で相手に挨拶するように言って。』
『良いの?』
『うん。ここは、普通の馬ではないことをアピールしとこう。』
直ぐに、エルミナとステラが、部屋に入って来た。
「いらっしゃいませ。私はユウマの妻のエルミナです。」
「「しゃべった!?」」
「トリートさん、エルミナがどうかしましたか?」
「実は、その馬が他の人の持ち物という噂がありまして……うっ!」
エルミナが殺気を放った。
トリートさんと、隣の冒険者らしき人が青ざめて動けなくなった様だ。
「エルミナ、抑えて。」
「ですが……。」
「気持ちはわかるけど、話ができないから。」
「はい……。」
殺気が消え、二人がホッとした様子を見せた。
「おわかりかと思いますが、エルミナは馬ではなく魔物です。」
「魔物?」
「確かに、エルミナは以前人に飼われていたようですが、飼い主が嫌で逃げ出したらしいです。その人は、きっとエルミナを魔物とは知らずに捕まえたんだと思います。」
「……。」
「あ、そうだ。」
例のパンフレットを手に取って、ペンダントの絵を見せる。
「トリートさん。このペンダントなんですが、ジョーンズさんのお店の人がルナにプレゼントしようとしたものですかね?」
「うっ!あれは、カーブスが勝手にやったことで、私の指示じゃ……。」
「なるほど。カーブスさんは、トリートさんがジョーンズさんの所に送り込んだスパイという訳ですか。」
「……。」
「このことは、ジョーンズさんにお伝えしておきます。情報をいただいたので、エルミナの前の飼い主について、どういうことをしていたかお話ししようと思います。」
「えっ?」
「エルミナ、辛いだろうけど、話してあげてくれるかな。」
「わかりました。」

エルミナは、僕に話してくれた内容をトリートさんに話した。
「エルミナありがとう。私が事実を曲げて話したと思われたくないので、本人から話してもらいました。トリートさん。この情報をどう使うかはあなたに任せます。」
「わかりました。情報提供感謝します。」

~~~
午後からセルリアとの飛行訓練だが、そろそろ北の神獣の所に行っておきたいので、彼女にお願いしてみた。
「セルリア、申し訳ないんだけど、北の神獣が封印されている所に行ってみたいんだ。」
「良いぞ。我が乗せて行けば良いのか?」
「あ、そうか。ヴァミリオと一緒にセルリアに乗せてもらえば良いのか。」
「ヴァミリオも乗せるのか?」
「案内してもらわないといけないからね。嫌なら、ヴァミリオに先に飛んでもらうけど。」
「嫌という訳ではない……まあ、良いぞ。」
「セルリア、ありがとう。」
「ヴァミリオ、セルリアに乗って北の神獣が封印されている所に行くから、案内してくれる。」
「いいよ!僕もセルリアに乗せてもらえるの?」
「うん。その間、僕の肩にとまってることはできる?」
「うーん。かなりスピード出るんでしょ?厳しいかも。」
「そうか……。じゃあ、僕の服に入っとく?」
「えっ?いいの?やったー!」
「う、羨ましい……。」
セルリアは、そこまで小さくなれないからな。申し訳ないけど、スルーしておこう。
「セルリア、よろしくね。」
「……わかった。」
ちょっと機嫌悪いな。後でたっぷり誉めてあげよう。

セルリアのスピードなら、直接行っても夜には帰って来れるだろうが、安全のためステラにカラドリウスがいる山の所までテレポートしてもらった。
「ステラ、ありがとう。」
「じゃあ、先に帰っておくわね。」
「うん。何かあったら連絡するね。」
帰りは、僕がテレポートを使う予定だ。
ヴァミリオが僕の服から頭を出した状態になり、僕はセルリアに乗った。
「さあ、行こうか。ヴァミリオ、セルリアに方向を教えて。」
「わかった。セルリア、まず海に出て、海岸線に沿って東に飛んで。」
「うむ。」
セルリアが飛び立ち、スピードを上げた。さすがに速い。
直ぐに海に出て、海岸線に沿って飛び始めた。
『少し先に陸が突き出た所が有るでしょ?あの向こうらしいよ。』
『うむ。』
ヴァミリオが、僕にも聞こえる様に念話したらしい。
速くて話せない時は、念話使えば良かったんだ!なんで、思い付かなかったんだろう……。
セルリアは、回り込まずに、高度を上げてショートカットした。
高度の上げ下げも、大分慣れたな。以前は今ので気分が悪くなっていたと思うが、今は大丈夫だ。
カラドリウスが言っていたように、湾の中に島が有った。
『あの島に封印されているらしいよ。』
『わかった。降りるぞ。』
僕は、セルリアから降りると、彼女はすぐに小さくなった。
僕はすかさず、彼女に抱きついた。
「セルリア、ありがとう。」
「う、うむ。」
「むぎゅ!」
あ、ヴァミリオが服の中にいたんだった。
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