異世界でも馬とともに

ひろうま

文字の大きさ
上 下
42 / 94
第3章 平和な日常

33-乗馬のトレーニング依頼

しおりを挟む
ヴァミリオに乗って、カラドリウスに付いて行くと、頂上に祠があった。
そこに降りると、カラドリウスが翼でどこかを指し示した。
釣られてそちらを見る。お、海だ!
「海岸に沿って見ていくと、少し突き出た所が有りますよね。」
「あるある!」
ヴァミリオは見えたようだが、僕には見えなかった。鳥の様な視力無いし。
「ヴァミリオ、代わりに見ておいてね。」
「わかった!」
「あの向こうは入り江になってるんですが、その中の島に封印されてます。何が封印されてるかは、見てのお楽しみということで。」
「ありがとうございます!」
さすが、カラドリウス。わかってるな。
「とは言え、村に行けばわかりますけどね。」
「村?」
どうやら近くに村があるらしい。門番が居るんだから、街か村があるのは当然か。
「ヴァミリオ、その神獣が封印されている場所までどれ位掛かりそう?」
「あそこなら、ひとっ飛びだよ!」
わかりやすい説明、ありがとう。まあ、見えてるんだから、そんなに時間は掛からないか。
「カラドリウスさん、ありがとうございました。」
「いえいえ。神獣四体の封印を解いたら、またここに来てくださいね。」
「はい。すみませんが、日も傾いて来たので、これで失礼します。」
「じゃあね!」
「不死鳥様、お越し頂き、ありがとうございました。今は結界解いてるので、直接出られますよ。」

僕はヴァミリオに乗って、山の麓まで降りた。
「ヴァミリオ、カラドリウスって神の分身だから、ヴァミリオより上の立場じゃないの?」
「そうなのかな。カラドリウスが産み出されたとき、ボクは側にいたから、そういう感覚はないけど。」
「なるほど。そういうことか。」

さて、テレポートポイントを設定しないといけないが、イメージだけでいけるのかな。
ステラは、黙ってやってるから、詠唱とかは要らなそうだし……取り敢えず、やってみよう。
ステラがやってたのを思い出しながら、イメージすると、魔方陣が広がった。集中して、安定するのを待つ。もう、大丈夫かな?
魔方陣は、そのままの形で薄らいで行った。多分、上手く行っているのだろう。
『ステラ、聞こえる?』
『ユウマ?聞こえているわ。』
『テレポートポイント設定したから、こっちに来てもらえる?』
『わかったわ。一旦、セラネスのポイントに飛ぶわね。そこからの方がポイント見付けやすいでしょうから。』
『了解。もし、わからなかったら、連絡してね。』
しばらく待ってると、見えなくなっていた魔方陣が現れ、続いてステラが現れた。
客観的にテレポートして来るのを見るのは初めてだな。
「お待たせ。」
「早かったね。」
「こっちの方は、ここしかポイント無かったから、直ぐに見付かったわ。」
どうなるかと思ったけど、無事家に帰ることができた。

~~~
風呂に入る前に少し休んでいたら、ふと、以前商人――トリートさんだったっけ――が置いていったパンフレットが目に入った。
そう言えば、体温計とか無いのかな?
パンフレットをめくっていくと、いくつか魔道具の紹介はあったが、体温計はなさそうだった。
体温計が、魔導具に当たるのかどうかはわからないが……。
ジョーンズさんに聞いてみようかな。
「ん?」
パンフレットを閉じようとした時、見覚えのあるものが目に入った。
「ルナ、これ見て。」
「何?」
「これ、見覚えない?」
「あ、あの時のペンダント?」
「僕ははっきり見た訳じゃないけど、ルナが言うんなら間違いないだろうね。」
「確実とは言えないけど、かなり似てるわね。」
「これ、どうやら魔道具らしいよ。詳しいことは問い合わせと書いてあるけど……。」
「怪しいわね。」
「機会があれば、トリートさんに確認してみるか。」

お風呂に入っている時も、エルミナのことばかり考えてしまった。
独りだから余計だ。
これから、ヴァミリオと寝るのに、いかんな。エルミナのことは一旦忘れよう。

ヴァミリオと一緒に寝室に入ると、ヴァミリオはベッドに仰向けになった。
結婚したせいか、前より落ち着いていられるが、それでもちょっと緊張する。
「ユウマ、早く!」
「わかった、わかった。」
僕がヴァミリオに覆い被さると、ヴァミリオは翼で僕を包み込んだ。

~~~
「ユウマ、おはよう。夕べはお楽しみでしたね。」
「うーん……。ステラ、おはよう。」
気付くと、ヴァミリオの翼に包まれたまま寝ていた。
羽の感触が気持ち良すぎて、寝過ごした様だ。
ところで、ステラ、それは言わないといけないの?

「マスター、おはよう。」
「クレア、おはよう。」
「エルミナ、ちょっとこっちに来て。」
「はい。ユウマさん、おはようございます。」
「エルミナ、おはよう。調子はどう?」
「クレアさんのお蔭で、調子良くなりました。」
「それは、良かった。」
「マスター、エルミナを撫でてみて。」
「え?何で?」
「まあ、いいから。」
「こうかな。」
僕はエルミナの頚を撫でた。
エルミナは一瞬恥ずかしそうにしたが……。
「あれ?はぁはぁ。また、頭がぼーっと……。」
「マスター、ストップ!」
僕は慌てて手を引っ込めた。
「クレア、どういうこと?」
「やっぱり、発情みたい。昨日は疲れてる感じもあって、確信が持てなかったんだけど……。エルミナは、初めての経験だから、発情だとわからなかったのよ。季節的なものもあるでしょうけど……マスター、心当たり無い?」
「心当たりと言われても、入れをしたくらいしか……。あ、でも馬女神の加護に『馬または馬系魔獣との間に子供ができやすくなる。』という効果があるから、もしかしたら、これも関係あるかも知れない。」
「確かに、それはあり得るわね。」

~~~
「ベルタスさん、おはようございます。」
「ユウマさん、おはようございます。今日は、エルミナさん来られてないんですね。」
「ええ、まだ体調優れないみたいでして。」
「それは、心配ですね。お大事に。」
「ありがとうございます。」
「先にルナさんに乗られますか?」
「いえ。大丈夫なら、レッスンからします。」
「わかりました。馬装しますので、お待ちください。」
「はい。」
ベルタスさんに、エルミナが発情したことを言っても問題ないと思うが、僕に原因があるかも知れないと思うと、言い難かった。
なお、ルナも発情するといけないので、念のため長時間は乗らないと決めた。

しばらくして、ベルタスさんが馬を連れてきた。
牡馬の様だ。牝馬でなくて良かったかも。
「この馬はそこそこ運動はできるのですが、固くて乗り難いんです。」
「わかりました、少し乗ってみます。僕はユウマ。よろしくね。名前は?」
「フィンガーだ。」
無愛想な馬だな。
「私はルナといいます。フィンガーさん、よろしくお願いします。」
「はい。よろしくお願いします!」
僕の時と、全然反応違うし!
まあ、ルナへの反応は、そうなるのも仕方無いか。

乗ってみると確かに固い。
こういう馬は元々固いのだが、乗り手が無理に何とかしようと手綱に頼るから、余計に固くなる場合が多い。
その場合、フラットな運動をしばらくするだけで、ある程度改善される。
ということで、ルナには観察してもらうだけにして、大きめの輪乗りで無理させないように運動した。
しばらくすると、大分良くなった様に感じた。
「ルナ、お願いするね。」
「わかったわ。フィンガーさん、ユウマに乗られてどう?」
「普段乗る人とはかなり違います。動きやすくて、安心できる感じです。」
「それは良かったわ。」
その後、ルナは後肢の使い方を重点的に指導していた。
フィンガーは、ルナの言うことはよく聞くので助かる。
「フィンガーさん、良い感じよ。そしたら、次は前肢の振りを意識してみて。」
「はい!」

その後は、短時間で劇的に良くなった。
「かなり良くなったわ。フィンガーさんが頑張ったからね。少し休みましょう。」
「ありがとうございます!」
フィンガーは、誉められて凄く嬉しそうだ。
乗り手から誉められるより、ずっとやる気が出る感じだな。
休みの後、駈歩や横運動をやったら、最初とは別の馬になった感じだった。
そのうち、時間が来たようで、ベルタスさんがそろそろ終わるように言って来た。
「フィンガーさん。時間なので、終わりますね。」
「えっ?もう終わりですか?まだいけますよ!」
「いつもより楽に感じるだろうけど、普段使わない筋肉使ってるから、思ったより負担掛かってるわ。また、日を改めましょう。」
「はい、ありがとうございました!また、お願いします!」
二人で、勝手にまたやることにしないで欲しいんだけど……。まあ、フィンガーもやる気になってるから、ベルタスさんに言ってみるか。

洗い場に連れて行こうとすると、ベルタスさんが声を掛けて来た。
「ユウマさん、ルナさん、お疲れ様でした。驚くほど、良くなりましたね。」
「そうですね。別の馬の様になりました。ルナのお蔭で、フィンガーもやる気になったみたいで……。」
「それは、良かったです。ありがとうございました。」
「それで、フィンガーが、またルナの指導を受けたいと言ってるんですが、できますか?」
「この馬が、そんなことを?珍しい!もちろん、またお願いしたいです。」
「ありがとうございます。」
そこに、厩務員らしき人がやって来た。
「手入れはこちらでしますね。」
「すみません。よろしくお願いします。」
その人が、フィンガーを連れて行こうとするが、ルナの方を見て動かない。
「仕方無いわね。また来るから、厩務員さんの言うこと聞いてね。」
ルナは、フィンガーの頬にキスをした。
「はい!」
良い返事だ。
フィンガーは、喜んで、厩務員さんに着いていった。

「さすが、ルナさん……。あの馬、なかなか言うこと聞かないんですよ。運動も渋々という感じで。悪さはしないんですが。」
「やっぱり、そうなんですね。」
「ベルタスさん、お願いが有るのですが。」
「は、はい。」
ルナが直接ベルタスさんに話し掛けた。確か、初めてだよね。
「また明日来ますので、フィンガーさんには他の人を乗せないでください。今変な乗り方されると、彼も混乱するでしょうから。」
「わかりました。では、また依頼を……。そうだ、ユウマさん、ルナさん、ここのスタッフになりませんか?毎日来るのは難しいでしょうから、非正規で良いです。」
「えっ?」
「そうすれば、いちいちギルドを介さなくても良いですし。ポイントは入らないですが、その代わり、給与になるので金額は多くなります。」
「成る程。こちらとしても、お願いしたいです。ルナはどう?」
「あなたに任せるわ。」
そう言うと思ったよ。ルナは知能と知識は人並みとは言え、馬だからこういう契約関係は苦手らしい。
「では、早速契約の準備をしますね。あ、今日の分は依頼出してるので、サインしますね。」
契約って、サインとかするのかな?ルナは、サインできないけど……。
と思ったら、またギルドで見たような玉を持って来た。
「では、先ず、依頼書にサインしたのでどうぞ。」
「ありがとうございます。」
「次に契約ですが、ギルドカードをここに置いて、玉に手を当ててください。」
「こうですか?」
言われた通りにすると、ギルドカードが光った。
「はい。大丈夫です。ルナさんもお願いします。」
「はい。」
ルナのカードを置くと、ルナは前肢の蹄を玉に当てた。
ギルドカードが光ったので、無事契約できたのだろう。カードを確認してみる。

================
名前:ユウマ
種族:ハイ・ヒューマン
性別:♂
年齢:35歳
ランク:D
従魔:ユニコーン、バイコーン、ブルードラゴン、フォールン・ペガサス、フェニックス
雇用先:セラネス乗馬施設(非正規)
================

================
名前:ルナ
種族:ハイ・ホース
性別:♀
年齢:9歳
ランク:D
雇用先:セラネス乗馬施設(非正規)
================

確かに、契約内容が書かれている。凄い技術だな。

ルナはまだ運動してないので、乗って軽く運動した。
やっぱり、ルナは乗り易いし、乗ってて気持ち良いな。
しおりを挟む

処理中です...