異世界でも馬とともに

ひろうま

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第3章 平和な日常

30-セルリアと服

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2日目の行程も順調で、昼頃に次の宿場町に到着した。
ジョーンズさんの予想通りだが、順調過ぎて心配になってしまう。
おかげで、セルリアの飛行訓練も、いつも通り行うことができた。

3日目の朝、ジョーンズさんが、僕に話し掛けてきた。
「ユウマ君、伝えておきたいことがあるんだが。」
「何でしょう?」
「 例のルナさんにちょっかい掛けた男だが、私たちがワーテンに戻ったタイミングで復帰させようと思っている。」
「そうなんですか。」
「怪しいのだが、大人しくしてるので、いつまでも謹慎させる訳にいかないのでな。理解してくれ。」
「仕方ないと思います。わざわざ伝えてくださり、ありがとうございます。」

行程は今日も問題なく進み、ワーテンに無事到着した。
ジョーンズさんの店に着くと、例の男が出て来て頭を下げた。
「ジョーンズさん、おかえりなさいませ。ユウマさん、ルナさん、申し訳ございませんでした。」
「特に怪我とか無かったし、もう怒ってないわ。もう二度としないでね。」
「はい。肝に命じます。」
その男は頭を上げた瞬間、驚いたような顔をした。
視線の先はエルミナのようだ。馬が増えていて驚いたのだろうか。
「これは、新しく仲間になった馬で、エルミナといいます。」
「あ、失礼しました。凄く美しい馬なので見とれてました。」
「お褒め頂き、ありがとうございます。」
この人、本当は馬好きなんだろうか。
「では、私はこれで。」
「あいつ、あんなに馬好きだったかな……。まぁ良いか。ギザール君、ユウマ君、依頼書にサインするから出してくれ。」
依頼書にサインをもらうと、ギザールさんたちは食事に行くと言って歩いて行った。
「ジョーンズさん、明日はどうします?」
「朝、家に行こう。あそこの方が人に話を聞かれないだろうからな。問題ないか?」
「問題ないです。ちなみに、何人で来られます?」
「私と鑑定士の2人だけだ。」
「わかりました。」
お茶とか用意しとくべきかな?
家に戻る前にすぐ飲めるお茶を購入し、セルリアに凍らせてもらった。多分、明日の朝には融けるだろう。
ちなみに、家にも保冷庫があるが使っていない。温度を維持するには、魔力を流し続けるか魔鉱石を使うかしないといけないのだが、うちは食料等を保存する必要はないのでそこまでしようとは思わないのだ。

服屋の前を通り掛かった時、新しい仲間たちに、服が要るか聞いていなかったことに気付いた。
特に、セルリアは二足歩行だから服を着てもおかしくない。
ちょうど皆揃ってるし、聞いてみるか。
「セルリア、エルミナ、ヴァミリオ、服は要らない?」
「要らんぞ。」
「服って何でしょう?」
「ボク服着れないし。」
ヴァミリオ、ごめん。
「エルミナ、服は人間が身に付けてる、布とかでできた物だよ。」
「ああ。人間って、何であんな物を身に付けるんだろうと思ったこと有ります。私たちには邪魔なだけですよね。」
「人間は毛皮が無いから、温度調節のためなんだけど、それとは別にお洒落のためでもあるね。」
「お洒落?」
「自分を美しく見せたり、可愛く見せたりするためと言った方がわかりやすいかな?」
「すみません。なぜそんなことを必要なのかわからないです。」
エルミナには理解できないようだ。
「可愛く……。」
あ、セルリアが反応した。
「エルミナは、そのままで十分美しいからね。」
「ユウマさんったら……。」
「……。」
ルナ、呆れたような目で見るのやめてくれる?
「セルリアも、そのままで可愛いけど、服を着てより可愛くなったら、僕も惚れ直すかも知れないよ?」
「そ、そうか?見るだけなら、見てやっても良いぞ。」
「そう?じゃあ、ちょっと見てみよう。」
「はぁ……。私たちは外で待っておくわよ。」
「ルナ、ごめんね。」
セルリアと、僕の肩にとまったままのヴァミリオ以外は、残ることにしたようだ。
「ごめんください。」
「はい!」
「あのー、このドラゴンに似合う服って有りますか?可愛い系で。」
「少々お待ち下さい。」
「お願いします。」
女性の服はわからないから、店員さんに丸投げした。
「こちらはどうでしょう。竜人等の尻尾の太い種族用なので、そのままで着ることができると思いますが。羽も出せるようになってますし。」
セルリアより淡い水色のワンピース(?)だ。
派手さはなく、シンプルなデザインだが、確かに可愛い。
竜人とか居るんだな。会ってみたい。
「試着しても、良いですか?」
「はい。」
「セルリア、ちょっと着てみて。」
「う、うむ。」
「では、こちらにどうぞ。」

しばらくして、セルリアが出て来た。
思ったより時間が掛かったな。初めて服を着たので苦戦したのだろう。
「いかがでしょうか。」
「か、可愛い……。セルリア、とても似合ってるよ。」
「セルリアちゃん、可愛い!」
予想以上に破壊力抜群だった。
ヴァミリオは、本当にそう思っているのか不明だが。
「そ、そうか?」
「これ頂きます!」
「は、はい。ありがとうございます。150Gになります。」
高っ!やっぱり、お洒落な服は贅沢品なんだろうな。でも、必要な出費だからな。
ルナが居たら、ジト目で見られそうだが……。
「このまま着て帰りますね。」
「わかりました。」
「このまま帰るのか?」
「可愛いから、そのままでお願い。」
「う、うむ。」
店を出ようとして、ふと気付いたことが有った。
「すみません。この服の着せ方と脱がせ方教えて下さい。」

~~~
帰って、セルリアの服を脱がせながら話し掛けた。
「セルリア、これからクレアのお母さんに会いに行くから待っていてもらえる?」
「ん?それなら、我も一緒に行こう。」
え?何か嫌な予感がするんだけど。
「セルリア、もしかしてクレアのお母さんに模擬戦をお願いしようとしてる?」
「うむ。よくわかったな。」
当たりだった。
「前、そんなこと言ってたからね。クレアどう思う?」
「良いんじゃない?気が向かなかったら断ると思うけど、その時は諦めてね。」
「わかった。」
しかし、セルリアはこれまでもずっと裸だったのは何とも思わなかったのに、服を着せてから脱がせると、エロく見えてしまうのはなぜだろう。

「ユウマ、今日は何の用だ?やっと子作りする気になったのか?」
「違います。」
「それは、残念だ。そういえば、今日はドラゴンも一緒だな。」
「このドラゴン――セルリアが、お義母さんと模擬戦やりたがってるんで、連れてきました。」
「それは、面白そうだな。」
さすが、戦闘狂。
「その前に、大変申し訳ないんですが、できれば角を少々分けてもらえないでしょうか。」
「わかった。セルリアだったか?ちょうど良い。私の角の先を少し折ってくれ。」
「えっ!?」
「何と!」
僕も驚いたが、セルリアも驚いているようだ。
「もう角があっても仕方ないからな。全部やっても良いが、簡単には折れないだろう。だから、折れそうな所で折ってくれれば良い。」
「では、失礼して……。」
ポキッ!
折れた。さすが、セルリア。
「お義母さん、大丈夫ですか?」
「うっ!傷物にされた!ユウマ責任取ってお嫁にもらってくれ!」
茶番が始まってしまった。
「では、ありがたく頂きます。」
「無視なのか?」
「ところで、模擬戦ここでやるんですか?」
「無視を貫くところも嫌いではないな……。ここの方が、動物や魔物も居らず、安全だろう。」
「わかりました。僕たちは、外で観ますね。あ、そうだ。僕からルールについて提案が有るんですが。」
「ほう。どんなルールだ?」
「スキルのせいで、セルリアにはお義母さんのダメージは通らないので、セルリアに攻撃または魔法が当たった時点でお義母さんの勝ち、セルリアはお義母さんに少しでもダメージを与えたら勝ちというのはどうでしょう。」
「スキル?」
僕は、MP消費防御スキルについて説明した。
「それは、とんでもないな。まあ、私はそのルールで構わない。」
「うむ。では、それでいこう。」

~~~
「セルリア、先手を譲ろう。」
「良いのか?全力でいくぞ。」
「もちろん。そうでなければ面白くない。」
さすが戦闘狂同士だな。
「これはどうだ。」
お馴染みの氷の矢だが、クレアの訓練の時とは、密度も規模も桁違いだ。
お義母さんは、その場から動かずに光魔法で迎撃した。
「何あれ?」
「光の疑似結界を張ったのね。」
思わず漏れた声に、クレアが答えてくれた。
その後の攻防は、凄かった。セルリアははお義母さんの魔法を躱す時位しか動かなかったが、お義母さんはほとんど動きが見えなかった。クレアのように魔法をうつ時に一瞬止まることもなかった。
僕でも、二人の戦いが高いレベルであることがわかる。
二人がクレア相手に手加減していたのが明らかだ。
クレアも、隣で悔しそうにしている。

「少しクレアのお母さんの方が厳しいかな?」
「そうなの?」
あ、ステラ居たんだった。
何も言わないから、忘れてた。ごめん。
「さすがに疲れてきたみたいで、動きが悪くなってるわ。あっ!」
お義母さんの動きが止まった。
「どうなったの?」
「セルリアのアイスアローが当たったみたい。」
模擬戦は終わったようなので、二人に近付いた。
「お義母さん、お疲れ様でした。セルリア、お疲れ様。」
「さすがに、神獣は強いな。ユウマ、慰めてくれ。」
「はいはい。」
お義母さんがすり寄ってきたので、撫でておいた。
「神獣相手にあれだけ戦えるとは、矢張り只者ではないな。」
「お義母さんは、ゆ……。」
僕は言い掛けて、お義母さんを見た。お義母さんは、僕の意図を理解したようで、頷いた。
「お義母さんは、勇者の子らしいからね。」
「何!?」
「「えっ!?」」
皆驚いている。
「それなら、あの強さも納得だな。」

「お義母さん、ありがとうございました。また、来ますね。」
「いつでもおいで。」
「あのー。クレアのお母さん。アタシはユウマの妻でステラといいます。もし良ければなんですが、私も甘えさせてください。」
「うん?そうか。お前も娘みたいなものだから、構わないぞ。」
「ありがとうございます、クレアのお母さん。」
そう言って、お義母さんにすり寄るステラ。
「しかし、名前が無いのは不便ですね。」
「魔物は名前付ける習慣は無いからな。ユウマが付けてくれ。」
「お母さん。名前は何らかの契約が無いと付けられないわよ。」
「そうなのか?」
「適当な名前で呼ぶのは勝手だけど、ステータスで見ることができる正式な名前にはならないわ。」
「別に適当な名前でも良いが、一旦保留にしとこう。」

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