異世界でも馬とともに

ひろうま

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第3章 平和な日常

28-フェニックスの羽

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ベッドに入って、セルリアに前から気になっていることを聞いてみた。
「セルリアは、神獣だから基本的に子供を作る必要ないんだよね。」
「そうだな。なぜ、急にそんなことを?」
「いや、それなら、なぜ結婚したがるのかわからなくて……。これまで、結婚したことないんだよね?」
「これまで、誰かを好きになることはなかったし、そんなことは考えたことなかったからな。主は、我が初めて好きになった相手だ。好きになった相手とは、繋がりたいと思うし、結婚したいと思うのは自然じゃないのか?」
「好きになってくれて、嬉しいよ。僕もセルリアのこと好きだよ。」
「っ!」
「でも、好きだから即結婚とはならないんだよね。それが、人間だからなのか、僕が元の世界の常識に囚われているからなのかわからないけど……。」
「我も、不本意ながら人間に従っていたことはあるが、人間は理解できないことが多い。」
「人間に従っていた時のことは覚えているんだね。」
「うむ。前の主のことと封印されるに至った経緯を覚えてないだけだ。」
「そうなんだ。でも、これまでの主は好きじゃなかったの?」
「基本力で従ってただけだからな。」
「セルリアを力で抑えるというのは凄いけどね。」
「そんなことができるのは、勇者くらいだがな。」
また勇者か……。まあ、神獣や上位の魔物に対抗できるのは、確かに勇者くらいだろうな。

~~~
翌日、セルリアとの飛行訓練で、昨日言われた薬用朱菊の採取地を探してみることにした。
一旦タルトの近くまで来て、北東に飛んだ。
「お、あれか?」
「どれ?」
セルリアには何か見えているようだが、僕には見えなかった。
しばらくすると、やっと遠くにうっすら、山らしき物が見えた。
「取り敢えず、行ってみるか?」
「そうだね。お願い。」

その場所は、山に囲まれた平地だった。ここで間違い無いだろう。
「ここみたいだね。降りてみようか。」
「承知した。」
セルリアが降りていくと、急に暑くなって来た。なにこれ?
「すまぬが、我はこれまで以上は無理そうだ。」
「わかった。無理しないで。」
セルリアは熱に弱いからな。
「この熱はどこから来てるのか……。これは、あの鳥に任せるしかないか。」
「確かに、ヴァミリオなら行けそうだね。」
まだ、鳥って言ってるよ。

家に帰ると、ヴァミリオが飛んで来て肩にとまった。
こういうところは可愛いと思ってしまう。
「ただいま。ヴァミリオ、魔力回復したらお願いしたいことがあるんだけど。」
「なに?ボク、なんでもするよ!」
今『なんでもする』って……いや、やめておこう。
「僕を乗せて、ある場所に行ってもらえないかな。」
「あ、遂にボクとデートする気になったの?」
「まあ、そんなところかな……。」
否定すると余計ややこしくなりそうだから、適当に合わせておこう。
「じゃあ、今すぐ行こう!」
「いや。だから、魔力回復してからで良いって。」
「今でも大丈夫とは思うけど……。まぁいいか。明日はユウマと寝るから魔力回復期待できるし。」
「そ、そうだね。じゃあ、明後日お願いするね。」
「わかった!」
本当にヴァミリオとの会話は疲れるな。

~~~
「最近、テレポートしてもらったり、移動で乗せてもらってばかりで、構ってあげられずにごめんね。」
お風呂に浸かりながら、ステラに話し掛けた。
「ううん。アタシはユウマといられる時間が長くなってるから、役得かなとも思ってるわ。」
「そう言ってくれると、嬉しいよ。」
「ただ、セルリアが飛行訓練と称して、ユウマとデートを楽しんでいるのは、ちょっと羨ましいと思うけど……。」
「えっ?デート?」
「私も気付かなかったんだけど、ルナさんやクレアが、そう言ってたわ。アタシも、そう言われてみれば、そうかなって。」
「確かに、訓練中は二人きりになるけど……。」
「それで、クレアが『私もマスターを乗せる練習しようかな』とか言い出したし……。」
「そうなんだ。」
「それだったら、アタシもユウマを乗せての野外走行練習したいし。」
「ウーン。ちょっと皆で話し合った方が良いかもね。ヴァミリオも僕を乗せたがってるし……。」
「そうね。」
「じゃあ、明日話をしようか。今日は、ステラとゆっくり楽しむからね。」
「もう。」
そう言って恥ずかしがるステラ。ヤバい可愛い過ぎる!

~~~
翌朝は、また寝不足気味だった。
「3日も空けるからそうなるのよ。」
気合いを入れて起き出したら、クレアがいきなりそんなことを言って来た。
「何のこと?」
「だって、寝不足というのが、バレバレだもの。」
「えっ!」
「ステラも付き合わされて大変だったわね。」
「ア、アタシはむしろ嬉しかったけど……。」
「そ、そう?」
「あ、そうだ、ちょっと皆で話したいんだけど。」
「あからさまに、話そらしたわね。」

「話というのは、セルリアの飛行訓練のことだけど……。」
皆に集まってもらったところで、僕は話し始めた。
皆、静かに続きを待っている。
「ルナとエルミナは乗馬があるけど、クレア、ステラ、ヴァミリオにはそういう時間がない。なので、希望があれば、セルリアには申し訳ないけど、飛行訓練を毎日するのはやめて、他のことにあ充てようかと思う。先ず、セルリアに意見を聞こうと思うけど。」
「残念ではあるが、我が主を独占する訳にもいかないから、希望があれば仕方ないだろう。」
「ありがとう。理解してもらえて、助かるよ。じゃあ、ヴァミリオは希望ある?」
「もちろん、魔力回復したら、セルリアのようにユウマを乗せて飛びたい。」
「ステラはどう?」
「アタシもユウマと野外走行の練習したいわ。」
「クレアは?」
「私はマスターを寝る日を増やしてくれればそれで良いわ。」
「「それはダメ!」」
ルナとステラが同時に反応した。
まあ、そりゃそうなるわな。
「ま、まあ、私は取り敢えず良いわ。マスターを乗せる練習もしたいけど、まとまった時間でなくても良いし。」
「良いの?」
「ええ。」
クレアが主張しないのは珍しい気がする。もしかしたら、セルリアに気を遣ってるのかも知れないな。
「えーと……。わかり易く、ヴァミリオとステラはそれぞれ、一緒に寝る日に割り当てようか。それ以外の日は、セルリアとの飛行訓練ということで。異論ある人はいる?」
シーン……。
「特に無いようなので、それで決定とするね。あ、セルリア、重ね重ね申し訳ないけど、ヴァミリオの魔力が回復したら、明日例の所に連れていってもらいたいんだけど。」
「わかった。主はヴァミリオに乗って、我が近くまで誘導すれば良いのだな。」
「うん、ごめんね。その代わり、今日はセルリアと飛行訓練するからね。」
「うむ。」
「あなた。例の所って何?」
「ああ、言ってなかったね。」
僕は、採集依頼とその場所について説明した。
「だから、ルナには申し訳ないけど、今回は僕だけが依頼を受けることになるね。」
「まあ、仕方ないわね。」

~~~
ワーテンのギルドで依頼を見に行こうとしたら、ノアさんに呼び止められた。
「どうしました?」
「ジョーンズさんとベルタスさんから、指命依頼が来てます。」

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件名:商品輸送の護衛
報酬:2,000G
ポイント:500
※人または商品の一部に被害を受けた場合、その分を差し引く。ただし、天災等の不可抗力によるものは除く。
指名対象者:ユウマ、ルナ
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================
件名:乗馬のトレーニング
報酬:200G
ポイント:20
指名対象者:ユウマ、ルナ
その他条件:1単位時間、1頭のみ
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同時に依頼が来てしまったな。
「どちらも、話は聞いてます。」
「そう?ジョーンズさんも、もう説明要らないだろうと言われてました。明後日の朝出発らしいですが、大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です。」
「ベルタスさんの方はできるときで良いらしいですが、受けるということで良いですか?」
「はい。これから乗馬施設行くので、ジョーンズさんの依頼終わってからになると伝えておきます。」
「わかりました。よろしくお願いします。では、手続きしときますね。」
「お願いします。」

今日はヴァミリオと寝るので、風呂は独りだ。
「遂にこの日が来てしまったな。」
ついつい、風呂の中で独り言を言ってしまった。
僕は鳥も好きだ。肩に鳥を乗せるのもやってみたいと思っていたので、ヴァミリオが肩に乗ってくれているのは正直嬉しい。ヴァミリオには言えないが……。
しかし、好きといっても、そういう目で見ることは無かった。
取り敢えず、今日のところは魔力回復に専念するという名目で逃れることにしよう。

風呂から上がると、いつも通りヴァミリオが乾かしてくれた。
いつもと違うのは、そのままヴァミリオと一緒に寝室に向かうということだ。
寝室に着くと、ヴァミリオはベッドに仰向けになった。大きさは、僕と同じ位になったままだ。
「ユウマ、ボクは準備オーケーだよ!」
いきなりか!
ヴァミリオは仰向けになれるんだ。鳥が仰向けになっているのは、すごく違和感があるんだが……。
「あのー。ヴァミリオまだ魔力回復してないでしょ?今日は魔力回復に専念しようよ。明日、乗せてもらいたいし。」
「そうか。残念だけど、早くユウマを乗せたいから、そうする。」
「それが良いよ。あ、そうだ!ヴァミリオ、獣神様の神託受けられるような場所を知らない?」
「それなら、北東の方に有るよ。」
「そうなの?」
期待していなかったのに、あっさり情報が入手できた。
「そこでは、カラドリウスが神託を皆に伝えてるんだ。」
「カラドリウス?今度連れていってくれる?」
カラドリウスって、ゲームとかでおなじみの鳥だよね。
「良いよ!」
「ありがとう。その時はお願いするね。」
「わかった。」
魔力の回復を早めるためにヴァミリオを抱こうかと思ったら、逆に翼で包み込まれた。羽毛の感触が気持ち良い。
今夜は良く眠れそうだ。

~~~
「おはよう、ユウマ!」
「おはよう、朝から元気良いね。」
「うん。ユウマのお蔭で、魔力がかなり回復したよ!」
「それは良かった。僕も、ヴァミリオの羽に包まれて気持ち良く寝られたよ。」
「そう?毎日一緒に寝ようか?」
「それはダメよ!」
クレアが入って来た。
「おはよう、クレア。それはないから、安心して。」
「それなら良いけど。」
けど、正直寒い季節はヴァミリオの羽毛は魅力的だな。今のところ、モフモフ要員もいないし。

「ん?」
ベッドを整えようとしたら、大きな赤い羽が一枚落ちているのに気付いた。
間違いなく、ヴァミリオの羽だろう。本人は小さくなっていても、抜けると元の大きさになるんだな。
待てよ、フェニックスの羽ということは……。

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【フェニックスの羽(朱)】
使用すると蘇生の効果が発動する。
ただし、効果は1回限りで、使用すると灰色になる。
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うゎ!やっぱり、凄い物だった。『朱』とあるが、違うのも有るのだろうか。
「ヴァミリオ、この羽もらって良い?」
「いいよ。なんなら、何枚か抜いても良いけど。」
「いや、そこまでしなくて良いからね。これは、ありがたくもらっておくよ。」
これも、ジョーンズさんに相談かな。

皆が集まったので、今後の予定を確認しておこう。
「ヴァミリオの魔力回復したみたいだから、今日の午後はヴァミリオと例の場所に行こう。ヴァミリオ、セルリアお願いね。」
「わかった!」
「うむ。」
「それと、明日は朝からジョーンズさんの護衛が有るからよろしくね。恐らく、いつも通り3日間。なので、その間乗馬は休みになるけど……エルミナごめんね。」
「私は問題ないです。でも、護衛ってなんですか?」
「そうか。エルミナは初めてだったね。」
護衛について、エルミナに説明した。ヴァミリオも初めてだと思うが、興味無い様子だった。
「あ、ルナ。乗馬レッスンの依頼も受けたから、護衛が終わったらお願いするね。」
「わかったわ。」
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