異世界でも馬とともに

ひろうま

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第3章 平和な日常

25-乗馬レッスン

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翌日は、朝一番で、エルミナとヴァミリオを連れてセラネスのギルドに向かった。
ルナとステラは一緒に来ており、クレアとセルリアには家で留守番だ。
「あ、ユウマさん、ボルムさんが探してしましたよ。」
「ノアさん、おはようございます。わかりました。」
そういえば、クレアのお母さんの所に行くのは伝えてなかったな。

「ボルムさん、おはようございます。」
「毎日顔を見せてたのに、急に来なくなったから少し心配したぞ。」
「すみません、ちょっと出掛けてまして。何かありましたか?」
「ジョーンズが話したいことがあると言っていた。午後からまた来ると言ってたから、ユウマも来てくれるか?」
「わかりました。」
セルリアが飛行訓練をすると張り切ってたから、宥めないといけないな。まあ、ジョーンズさんの話もそう長くないだろう。

ボルムさんが、体を秘書の方に向けた。これは……。
「ちょっと外してくれるか?」
「わかりました。」
やっぱり、人払いだった。
ボルムさんがなにやら唱えているが、恐らく結界を張っているのだろう。
「これで良し、と。ところで、新しい魔物が増えてるが……。」
「あ、そうでした。このたちの従魔登録しに来たんでした。」
「ボクはヴァミリオ。ユウマの嫁だよ!」
「エルミナです。よろしくお願いします。」
「ツッコミ所多くて困るんだが……。」
「毎回すみません。あと、ヴァミリオは嫁ではないです。」
「まあ、今更か……先ずは、そのフェニックスだが……また、封印解いたということで良いのか?」
「そうみたいです。今回も解けた理由がわかりませんが。」
「そうか。封印なんだが、西は最後にした方が良い。」
「えっ?まあ、次を決めてないので、問題ないですが、なぜですか?」
「西には大陸最大の都市エラスが有るのだが、西の神獣はそのエラスの中に有ると言われている。もちろん、伝説上の話なので、真偽の程は不明だが。」
「そうなんですか。」
「うむ。それで、エラスは勇者を囲っている。勇者候補として召喚された者たちも、全てそこで訓練を受けている。」
「はあ。」
「エラスは、他の街とはあまり関わりを持っていないので、今はまだユウマの動きに気付いていないと思うが、エラスで神獣の封印を解くとさすがに気付かれるだろう。」
「まあ、そうでしょうね。」
「そうなると、ユウマに対する警戒が強まり、北の神獣の解放が難しくなる可能性が有ると思うのだ。」
「成る程。わかりました。」

「次に、その馬のことだが……。」
「エルミナですね。私も馬にしか見えなかったのですが、魔物のようです。本人も、自分は馬だと思っていたみたいですが。」
「確かに見た目は完全に普通の馬だな。しかし、その魔物の種族は聞いたことがないな。恐らく、ギルドの記録にもないと思う。情報をギルドに登録して良いか?もちろん、公開はしない。」
「はい。大丈夫です。」
「あと、スキルのことだか……。」
MP共有とスキル共有は、ボルムさんも見たことがないらしい。
「馬女神の加護と獣神の加護の効果が解放されたみたいです。」
ボルムさんは黙って僕を見ていたが、恐らく加護の説明を見ているのだと思う。
「そういえば、ユニコーンとやっと結婚したんだな。おめでとう。」
ボルムさん『やっと』って言ったぞ。ボルムさんも気になってたんだ。
「ありがとうございます。クレアのお母さんが、クレアを認めてくれたんです。」
「そうか。そのための、戦闘訓練だったんだな……。話を戻すが、他種族との結婚はともかく、従魔の条件は公開しない方が良いな。」
「なぜですか?」
「テイマーでも、従魔は通常1体か2体だ。上位の魔物は食事が不要だが、そうでなければ食費もバカにならない。かといって、上位の魔物がそう簡単には従魔にはならない……誰かさんは例外みたいだが……。」
「すみません。」
「もし条件が知れたら、無理しても従魔を増やそうとするテイマーも多いと思う。そういう事態になるのは、好ましくない。それに、ユウマの従魔は皆自分からなった特殊ケースだから、もしかしたら従魔術などで従えた従魔だと条件を満たさないかも知れない。」
「確かに、そうですね。」
「ということで、スキルの件もここだけに留めることにしよう。」
「わかりました。」
「それにしても、相変わらず、予想外のことをしてくれるな。」
「自覚してます。」
「では、受付で従魔登録してくれ。一応、私からも伝えておこう。」
「ありがとうございました。」
長い話だった。今回は話題が盛りだくさんだったからな。

~~~
「うーん、どうしよう。」
受付で従魔登録して、ギルド出ようとしたところで、二の鐘が鳴った。
乗馬施設に行く時間は有るが、帰ってセルリアに午後からのことを伝えないといけない。それに、ヴァミリオを乗馬施設に連れていっても、居場所が無さそうだ。
「ステラ、悪いんだけど、一度家に戻ってくれる?」
「わかったわ。」

「ただいま。」
「マスター、お帰りなさい。」
「主早かったな。」
「セルリア、申し訳ないんだけど、午後からジョーンズさんよりと会うことになったんで、飛行訓練はその後にして欲しいんだけど。」
「そうか。仕方ないな。」
「ごめんね。あと、クレア、これからもう一度セレナスに行くから、ヴァミリオをお願い。」
「まあ、いいわよ。」
「えっ?なんでボクを置いて行くの?」
「乗馬施設に行っても詰まらないだろう?」
「うーん、そうだね。わかった、留守番しとく。」
「ありがとう。」
頭を撫でると、ヴァミリオは嬉しそうにしている。子供みたいだな。
「エルミナ、これから乗馬施設に行くけど、そこでちょっと乗せてみてもらっても良いかな?」
「もちろんです。是非乗ってください。」
「ありがとう。」
「はい。」
エルミナは、ルナやステラと違って軽種の体型なので、裸馬で乗ると痛いと思う。
でも、鞍は着けるのは心苦しいので、毛布を使うことにした。

乗馬施設に行って、ベルタスさんを呼んでもらった。
「ベルタスさん、お忙しいところすみません。」
「いえいえ。それで、何か有りましたか?」
「これまで、ステラを運動させてもらってましたが、今度からステラに代わってこのエルミナを運動させてもらおうと思いまして。」
「大丈夫ですよ。綺麗な馬ですね。」
「ありがとうございます。」
エルミナは黙っている。人前では、普通の馬の振りをしてもらうことにしたからだ。
ちなみに、エルミナが「普通の馬の振りするなら、無口とか着けた方が良いのではないですか?」と言ってくれたが、抵抗有るので着けないことにした。
許可ももらえたので、先ずはエルミナに乗った。着けているのは、毛布だけだ。
声を出して話せないので、念話を使う。
『エルミナ、よろしくね。』
『よろしくお願いします。ところで、銜着けないんですか?』
『着けて欲しいの?』
『そういう訳ではないんですが、これまで手綱で指示されて感じなので戸惑ってます。』
『指示は脚でするからね。伝わってなさそうなら、念話で伝えるから大丈夫だよ。』
『わかりました。やってみます。』

そうは言ったものの、予想以上に厳しかった。体勢ができてないのだ。
銜着けた方が良いかな?
あ、ルナがこっちに来た。
「あなた、ちょっと私に乗り代わって。」
「えっ?どうしたの?」
「私がエルミナに見本を見せるわ。」
「わかった。」
エルミナから降りて、ルナに乗った。
『エルミナ、見ててね。』
『はい。』
ルナは、僕にも聞こえるように念話を使ったようだ。
「あなた、エルミナの回りで速歩輪乗りして。」
「了解。」
まさか、馬に指揮される日が来るとは思わなかったな。
速歩を始めると、ルナは頭を上げた。
反撞が硬くて乗り難い。どうしたのかな?
『エルミナは、こんな感じになってるの。これだと、自分も苦しいし、乗ってる人も気持ち良くないわ。』
成る程、悪い見本見せてるのか。僕が人を指導するときにも、たまにするような感じだな。
その後、ルナはあるべき体勢を教えていた。
『ちょっとやってみて。』
『はい。』
今度は、エルミナに乗って、ルナを中心に輪乗りをした。
ルナはエルミナとの念話に集中したらしく、僕には聞こえなくなった。運動の指示は僕にして来るが。
ルナの指導が良かったのだろう。しばらくしたら、大分乗り易くなった。
『今日はここまでにしておきましょう。』
『ありがとうございました。』
すっかり、先生と生徒みたいになってる。馬が馬(実際は違うが)にレッスンするとは斬新だな。
『エルミナ、お疲れ様。ありがとう。』
『いえ。上手くできなくてすみません。』
『まだ若いんだから、これから良くなるよ。』
エルミナは落ち込み気味だ。
僕はエルミナを、しっかり撫でてから降りた。
「ルナはどうする?」
「エルミナに時間使ったから、今日はトレーニングやめとくわ。これから、ギルドにも行かないといけないんでしょ?」
「まだ時間は有るけど、そうだね。エルミナも疲れてるだろうから、ひとまず休もうか。」
わざわざ、クレアにクリーン掛けてもらうために家まで戻ってもらうのもステラに悪いし、今日は洗い場を借りてエルミナを手入れすることにした。

エルミナをシャワーで洗いながら、ふと思ったのだが……。
「ヴァミリオ連れて来れば良かったかな?」
「連れて来たら色々大変だと思うわよ。それに、ここでスキル使う訳にもいかないでしょ。」
「確かにそうだね。」
洗い終わってタオルで体を拭いていると、ベルタスさんがやって来た。
「ベルタスさん、すみません。洗い場借りてます。」
「いえいえ。洗い場使う方が普通ですから。ところで、お願いが有るのですが。」
「なんでしょう。」
「ルナさんと一緒に、馬たちのトレーニングをしてもらえないでしょうか。」
「えっ?」
「先程、見てましたが、その馬があっという間に良くなってました。ユウマさんに乗ってもらうだけでも馬が良くなりますが、ルナさんにもお手伝いいただけると、なお良いかなと思いまして。もちろん、報酬は出します。」
「ありがとうございます。僕とルナは冒険者なので、ギルドに依頼出してもらえればやりますが……。でも、エルミナの場合、たまたま効果が高かったのかも知れませんよ?」
そもそも、エルミナは馬よりも知能が高い魔物だし。馬がルナの言うことを、どこまで理解できるかという心配がある。
「まあ、確かに馬にもよるでしょうね。では、とりあえず試しに1回ということで、依頼出しときます。」
「わかりました。ありがとうございます。あ、そう言えば月会費はどうなってるんでしたっけ?」
「すみません、受付の時説明してませんでしたか。登録料はここで払ってもらいましたが、毎月1日にギルドから引き落としになります。」
「そうなんですね。ありがとうございます。」
危ない。今まで、すっかり忘れていた。

「ステラ、テレポートのためだけに連れてきてる感じでごめんね。」
今、ステラに乗せてもらって、ギルドに向かっている。ルナとエルミナは、後ろから着いてきている。
ステラの馬場でのトレーニングが終わったので、ステラはテレポートと街の中で僕を乗せるだけになっている。それにしても、僕、全然歩いてないな。馬に乗るのも運動にはなるけど、自分で歩く力弱くなったりしないかな。
「大丈夫よ。見てるだけでも面白いし。」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、嫌ならそう言ってね。あ、良いこと思い付いた。」
「なに?」
僕は日に1回だけ、従魔のスキルを使うことができる。1回だけだからテレポートは片道になるから駄目だなと思っていたのだが。
「ステラにこっちまでテレポートしてもらって、帰りだけ僕がテレポートすれば良いんじゃないかな。」
「そういう手もあるわね。でも、アタシはユウマと一緒にいたいから、今まで通りアタシがするわ。アタシはユウマの妻だもの。」
「嬉しいこと言ってくれるね。」
僕は、ステラの頸を撫でた。

「ステラって、本当に献身的よね。」
「ルナさんも、十分献身的だと思いますけど……。」
後ろから、ルナとエルミナの会話が聞こえて来た。
「そうかしら。」
「そうですよ。ルナさんもステラさんも、そしてクレアさんも、ユウマさんと仲が良くて羨ましいです。」
「エルミナもユウマと結婚したい?」
「えっ!?私は、そ、そんな……こんな未熟者ですし……。」
「その言い方だと、その気はあるということよね。ユウマも、エルミナのこと好きみたいだし。」
「えっ!?」
ルナ、わざと僕に聞こえるように話してるよね。ステラも、文字通り、聞き耳立ててるし……。
『ステラ、ここは聞こえてない振りしよう。』
『わ、わかったわ。』
ステラの耳が、慌てたように前を向いた。
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