異世界でも馬とともに

ひろうま

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第2章 神獣の解放

22-母娘の対決

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クレアは明日はお母さんとの決戦が有るため、早めに寝に行った。セルリアも一緒だ。

僕はルナとお風呂に入る前に、青毛のに話を聞いてみることにした。
ルナとステラも一緒に聞くと言って、そこに残った。
彼女は物心着いた時には馬の群れに居たので、自分が馬であることを疑いもしなかったとのことだった。
一年前くらいに、人間に捕らえられて乗馬用の馬になったらしい。
捕らえられたのは、恐らくこの美しさのせいだろう。
「ところで、名前は有るの?」
「飼い主は着けてくれてましたが、覚えていません。」
「そうなんだ。ところで、何が嫌だったの?」
「その人重いし、バランス悪いし、やたらと怒るけど誉めてくれたことないし……。」
「……。」
「手入れは人任せなのは良いけど、手入れが悪いと手入れした人に怒るし……。」
「……。」
「しかも、夜中忍び込んで来て、私の身体をベタベタ触るし。その……微妙な所まで触ろうとするんですよ!とにかく、何もかも嫌なんです!」
「うっ!」
最後のところ、心当たり有りすぎてヤバい。思わず、ルナをチラッと見てしまった。
「私は、あなたにどこを触られても平気よ。」
「ちょ、ちょっと、ルナ!」
その発言、僕がそういうことをやったって言ってるようなもんなんだけど……。
「ルナさんもされたんですか?でも、好きな人にされるのなら、良いんですよ。私も、ユウマさんだったら触られても良いです。」
「えっ?いや、その……僕のことは置いといて、君は大人しく触られてたの?」
「いえ。本当は蹴飛ばしてりたかったんですけど、一応飼い主ですから、避けるに留めました。」
今、一瞬殺気を感じたけど……。

「それで、ユウマ、従魔契約するのよね?」
これまで黙っていたステラが、そう聞いてきた。
「ん?彼女がそれで良いなら……。もしかして、ステラ、そのために待っててくれたの?」
「別にそのためにという訳でもないんだけど……。あなた、ユウマの従魔になる?」
「えっ?どうやったらなれるんですか?」
ステラが説明を始めた。最近、ステラ、従魔になる方法を教える係みたいになりつつあるな。
「……でも、オススメはキスをすることね。」
「えっ?」
お決まりの説明、お疲れ様です。
「じゃあ、早速どうぞ。」
「あ、はい。ユウマさん、よろしくお願いします。」
「う、うん。」
この、被毛で顔色わからないけど、絶対赤くなってるよね。こっちまで、恥ずかしくなるんだけど……。
いつものように目を閉じて待つことにする。
唇に何か触れたと思ったら、例によって、アナウンスが流れた。
≪従魔契約が成立しました。≫
「名前付けないとね。」
「お願いします。」
「えーっと……。」
最初は黒から連想しようと思ったが、良い名前が思い付かなかった。
そこで、輝きからイルミネーションを連想したところで、ふと閃いた。
「エルミナでどう?」
「良い名前です!ありがとうございます。」

================
名前:エルミナ
種族:フォールン・ペガサス
年齢:5歳
性別:♀
HP:2,000/2,000
MP:15,000/15,000
能力値:▼
スキル:浮遊、魅了、翻訳
契約主:ユウマ
================

うん、ちゃんと正式に名前が付いている。
クレアの件が片付いたら、ギルドに登録に行かないとね。

~~~
「ルナ、待たせてごめんね。」
エルミナとの話が終わったので、お風呂に入ろうと思い、ルナに声をかけた。
「大丈夫よ。そうだ、エルミナもお風呂どう?」
「お風呂?」
「あ、わからないわよね。とりあえず、一緒に来て。」
あれ?そういう流れなの?

「先ずルナにシャワー掛けるから見ててね。」
「あ、これなら掛けてもらったこと有ります。」
「なら、大丈夫だね。」
ルナのシャワーが終わって、エルミナにシャワーを掛ける。
ルナは先に浴槽に浸かりに行った。
「これ、暖かくて気持ち良いですね。」
「そう?それは良かった。えーっと、股とか、その……後ろの方とか洗っても良い?嫌ならやめとくけど。」
「いえ。大丈夫なので、お願いします。」

「次は浴槽に浸かるんだけど、今ルナがしているようにやってみて。」
「はい。」
ルナを見ながら、前後肢を畳んで浴槽に浸かるエルミナ。
「それで良いわ。じゃあ、私はベッドで待ってるわ。」
「ちょっと、ルナ、拭かないと。」
出て行こうとするルナを慌てて追いかけた。

ルナを見送って、僕も湯槽に浸かる。
「この後、ルナさんと何かするんですか?」
「え?いや、その……。」
そんな答え難い質問をされると困るんだけど……。
「あ、変なこと聞いてすみません!」
「い、いや、気を遣ってくれてありがとう。それより、お風呂はどう?」
「お湯に浸かるのは初めてですけど、シャワーより気持ち良いし、落ち着きますね。」
「気に入ってくれて良かったよ。」

お風呂から上がり、エルミナをステラが居る部屋まで送ってから、ルナの所に向かった。
「ルナ、お待たせ!」
「おかえりなさい。エルミナ、どうだった?」
「お風呂を気に入ってくれたみたいだよ。」
「それは良かったわ。しかし、エルミナも酷い飼い主に捕まったものね。」
「確かに。その飼い主って、変態だったんだな。」
「その人も、あなたにだけは、言われたくないと思うわ。」
「……。」
ルナ、痛いところをついてくるな。
「彼女の話はこれくらいにして、夜を楽しみましょう。」
「そ、そうだね。」

~~~
昨夜は頑張りすぎて、ちょっと寝不足だ。何をとは言わないけど。
ルナには言えないが、エルミナとお風呂に入ったせいで、ヤル気がアップしてしまった。
もしかしたら、ルナはそれを狙って、エルミナとお風呂に入らせたのかも知れない。考えすぎだろうか……。

「ユウマ、ルナさん、おはよう。エルミナ、こういうときは、『ゆうべはお楽しみでしたね』って言うのよ。」
「そうなんですか?ユウマさん、ルナさん、ゆうべはお楽しみでしたね。」
「あ、ありがとう。」
ステラ、それ教えなくて良いからね!
しかし、なんかステラがエルミナのお姉さんみたいになってるけど、違和感ないな。
「クレア、今日は頑張ってね。もう行ける?」
「ありがとう。今からでも、大丈夫よ。」

今日は僕も一緒に歩いていくことになった。
「昨日も言ったけど、ここから先は、母が守っているエリアになるの。恐らく、もう私が来たことは気付かれると思うわ。母は奇襲掛けてくるようなタイプじゃないけど、念のため警戒してね。」
「わかった。」
少し歩いた後、クレアが立ち止まった。
「あそこに母が居るわ。」
「あれがお母さん?」
大きさは、小柄なサラブレッドくらい……エルミナと大体同じだろうか。
「ここに、擬似結界が張ってあって、これ以上進めないの。」
「擬似結界?」
「母は結界魔法使えないけど、光魔法で結界に近いものを作っているらしいわ。母のオリジナルみたい。」
「そうなの?」
クレアのお母さん、物凄く頭良いのではないだろうか?
「ただ、光魔法で打ち消されるから、私のような光魔法持ちには効果がないという欠点はあるわ。じゃあ、行って来るわね。」
「行ってらっしゃい!」
試しに進もうとしたら、壁に当たったような感覚が有った。
「お母さん、ただいま。」
「おや。勝手に家を出ておきながら、今頃のこのこ帰ってくるとは。何しに来たんだい。」
「家を飛び出したのは、後悔してる。なぜなら、お母さんの影が常に有ったから。だから、お母さんに認めてもらって、堂々と生きていくのよ!」
「ふぅん。どうやって認めてもらうつもりだい?」
「お母さんに、闘いを挑むわ!」
「へえ、私に勝てるとでも?面白い。私に勝てたら、お前を認めてやろう。先手は譲ってやるよ。」
「じゃあ、行くわよ!」

クレアのお母さんは、思った以上に強い。クレアも強くなったけど、所詮急造だ。年季が違うという感じがする。
セルリアは、僕の横で黙ってずっと戦況を見つめている。何を思っているのだろうか。

ステータスを確認するまでもなく、クレアにダメージが蓄積されていっているのがわかる。既にヒールを掛けるMPも残っていない感じなのだろう。
あ、クレアのお母さんが、こちらをちらっと見た。
「大きな口を叩いておいて、その程度か?そろそろ終わらせてやろう。」
お母さんが強い光を放つと、クレアは吹き飛んだ。それでも、クレアは立ち上がろうとするが……。
とどめだ。」
「クレア!」
思わずクレアの側に駆け寄り、クレアを庇っていた。
「お前が、娘をたぶらかしたのだな。どうせ、娘の力を利用しようというのだろう。」
「違うわ!」
クレアが、力を振り絞って叫ぶ。
「マスターは、そんな人じゃない!マスターは、私が選んだ人なの!私はずっと付いて行くわ!お母さんに邪魔はさせない!!」
「クレア……。」
≪お互いの意思を確認しました。結婚を承認します。≫
≪条件を満たしたため、馬女神の加護の効果が解放されました。≫
え?結婚が承認された?
あと、別のメッセージも流れたんだけど……。慌てて、ステータスを確認した。

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名前:ユウマ
種族:ハイ・ヒューマン
性別:♂
年齢:35歳
HP:1,200/1,200
MP:-
能力値:▼
スキル:閲覧、MP消費防御、翻訳、念話、MP共有(馬または馬系魔物限定)
加護:調停者の加護、獣神の加護、馬女神の加護、神竜の加護
妻:ルナ、ステラ、クレア
従魔:クレア(ユニコーン)、ステラ(バイコーン)、セルリア(ブルードラゴン)、エルミナ(フォールン・ペガサス)
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================
【MP共有(馬または馬系魔物限定)】(アクティブ)
対象の相手とMPを共有する。残りMPおよび最大MPは、使用者と対象者の合計となる。
ただし、効果は短時間で、効果が切れた後は使用者と対象者の残りMPは0となる。
※対象は馬または馬系魔物の妻または夫に限られる。
================

これは、今こそ使うべきスキルだ!
『クレア、最大出力で魔法を!』
僕はMP共有を発動させて、クレアに念話でそう伝えた。
『えっ?何これ!?』
クレアは、一瞬戸惑ったが、すぐにお母さんに向けて巨大な光の矢を放った。
「何!?」
クレアのお母さんは油断してたのか、それをまともに受けて倒れた。
「マスター、やったわ……。」
クレアもその場で崩れた。

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名前:クレア
種族:ユニコーン
性別:♀
年齢:221歳
状態異常:気絶
HP:180/5,200
MP:0/55,000
能力値:▼
スキル:光魔法、回復魔法、念話
加護:神竜の加護
夫:ユウマ
契約主:ユウマ
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やはり、MPが0になっていた。僕は最大MPがないため、この原則に当てはまらないらしい。

~~~
しばらく抱きかかえていると、クレアが気が付いた。
クレアはよろよろと立ち上がり、おぼつかない足取りでお母さんの所へ向かった。僕も、クレアに寄り添って一緒に向かった。
クレアのお母さんは、目を閉じている。
僕は、お母さんを起こそうと触れかけたが、すぐに手を引いた。すると、クレアのお母さんは目を開けた。
「人間、そなた、名は何という?」
「ユウマと言います。」
「ユウマ、娘をよろしくな。」
「はい。お義母かあさん!」
「お母さん、それじゃあ!」
「私を倒したのだから、約束通りお前を一人前として認めよう。」
「ありがとう、お母さん。」
「お義母さん、お願いが有るのですが。」
「何だ?」
「僕は小さい頃に亡くしたので、母に甘えたことがありません。お義母さんに甘えさせてもらえませんか?」
「そなたは娘の婿だからな。息子も同然だ。遠慮無く甘えるが良い。」
「ありがとうございます。」
僕は、お義母さんに抱きつき、胸に顔を押し当てた。温かくて、心安らぐ感じだった。
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