異世界でも馬とともに

ひろうま

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第2章 神獣の解放

21-多難な道中

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僕の感覚で10分位走って、セルリアが待っている所に到着した。
「ルナ、水飲む?」
「いただくわ。」
「湖の水でも大丈夫かも知れないけど、買ったのがあるからそれを出すよ。ステラ、水と桶お願い。」
「はい、どうぞ。」
今まで役に立たなかった水が遂に役に立つな。ちなみに、桶は水を買った時、おまけに着けてくれた。
桶に水を汲んで、ルナに飲ませる。
「ステラはどう?」
「アタシは大丈夫よ。」
「クレアは大丈夫だよね。」
「なぜ、私だけ扱いが……。」
「ありがとう、もう良いわ。あなたに飲ませてもらうと美味しいわ。」
ルナが頭を擦り付けて来たので、頸を撫でた。
それを見て、負けじとステラが頭を擦り付けてく来た。
「相変わらず、お熱いことで……。」
そういうクレアも、強引に頸を擦り付けてきたことあったけどね。
「そういえば、魔物に全然出会わなかったけど、この辺りは少ないの?」
「そうでもないわよ。セルリアや私たちを見て、逃げ出したというのが正解だと思うわ。ちなみに、この湖も魔物が棲んでいるみたいね。」
そう言って、クレアが湖を見た。
「「えっ?」」
ルナと一緒に湖を覗きこむと、何かの影が徐々に上がって来ているのが見えた。
そのまま見ていると、それは水面から首を出した。
「ネッシー?」
「何それ?」
首を傾げるクレア。とりあえず、ステータス確認。

================
種族:レイクサーペント
性別:♀
年齢:211歳
HP:9,900/9,900
MP:11,000/11,000
能力値:
 力:S
 体力:S
 知力:A
 精神力:A
 素早さ:A
スキル:水魔法、水中呼吸
================

================
【レイクサーペント】
細長い体を持ちつドラゴンの亜種。寿命は平均1000年位。
透明度が高い大きな湖にのみに生息する。
================

あ、首だけしか見えてないけど、体は細長いんだ。

「神竜様がこのような所に来られるとは、どうされたのですか?」
レイクサーペントは、ちょうど空から降りてきたセルリアにそう尋ねた。
どうやら、このレイクサーペントは、セルリアに挨拶しに出て来たらしい。
「神竜はやめてくれ。今はセルリアという名前で、この人間に仕えている身だ。」
「えっ?神竜様がこのような人間ごときに従うとは……。」
レイクサーペントは、そう言って、こっちを睨みながら近付いて来た。
恐怖は感じないが、何をされるのかわからないので、警戒して待ち構えた。
「貴様、主をバカにすると、ただでは……って、何主に甘えている!?」
「何をおっしゃるのですか?私が人間に甘える訳が……えっ?」
近付いて来たレイクサーペントは、なぜか頭を僕に擦り付けて来たのだ。
くっついていたルナとステラは急いで離れた。
これは、獣神の加護と神竜の加護のせいかな?亜種でも竜系ということになるのだろう。
「こらっ、主から離れろ!」
「神竜様が主と認めるのもわかります。私も撫でてください!」
「うわっ!」
さっきとは全く態度が変わり、容赦なく頭を強く擦り付けて来たので、押し倒された。攻撃でないから、防御が働いてないのか?
「離れろというに!」
「きゃっ!」
セルリアが無理矢理レイクサーペントを引き剥がして、湖に投げた。レイクサーペントが、可愛い悲鳴をあげたが、気にしないでおこう。
「セルリア、ありがとう。助かったよ。」
「今のうちに、ここから離れよう。レイクサーペントは湖から出られないからな。」
「わかった。皆急ごう。」

もう大丈夫だろうという所まで離れると、セルリアが言った。
「全く、ユウマは人騒がせだな。」
「えっ、僕?」

皆、今ので精神的に疲れたようだ。
ステラは僕を乗せて常歩しており、ルナとクレアは僕を挟んで両隣にいる。セルリアも小さくなって、一緒に歩いている。
「まさか、あの湖にあのような奴が棲んでいるとはな。知ってたら近寄らなかったのだが。」
「まあ、何事も無くて良かったよ。危うく押し潰されるところだった。」
「主の意外な弱点だな。」
「そうだね。攻撃ならダメージを受けないんだけど、あれは違うからね。ちなみに、攻撃であれば、自分に向けられたものでなくても大丈夫なのは、ステラとクレアの攻撃で実証済みだよ。」
「「えーっ!?」」
ステラとクレアがハモった。
「そういえば、セルリアの飛行訓練でも、落ちたらダメージ受けるよね。」
「もし落ちても、我がすぐカバーするから、大丈夫だ。」
「セルリア、何のこと?」
ルナがセルリアに尋ねた。そういえば、まだ皆に言ってなかったな。
「クレアの件が片付いたら、主とデ……いや、飛行訓練をすることになったのだ。」
「ふうん。」
ルナがジト目でセルリアを見る。
「いや、こ、これは、今後のために、主に慣れてもらうためであってだな。」
セルリアが、やけに焦っているがなぜだろう?
「ルナ、心配してくれるのは嬉しいけど、何かあった時に必要だと思って、僕からもお願いしたことなんだ。」
「はぁ……。」
またタメ息つかれた。解せぬ。
「ユウマ、気を付けてね。」
「ありがとう。」
ステラが振り向いて、心配そうにしている。可愛いなぁ。
「ステラも大概ね。」
「そうね。」
クレアの言葉にルナが同意した。一体何のことだろうか?

~~~
翌日もまた、ステラにテレポートしてもらった。昨日設定しておいた、テレポートポイントまでだ。
「今日は、クレアのお母さんがいる側まで行かないとね。」
今日も、最初はステラに乗せてもらった。
しかし、僕は皆におんぶにだっこだな。実際、ルナとステラには物理的に乗せてもらってるし……。なんとかしたいな。

昨日みたいに良い場所に水場は無かったため、小さい林で休憩を取った。
ステラは、午前中僕を乗せて走り続けた。
さすがに息が上がってるので、水を飲ませた。もちろん、ルナにも飲ませる。
「ステラ、大丈夫?」
「大丈夫よ。少し要領が掴めたみたい。」
「マスター、私のことも気に掛けて欲しいんだけど……。」
「この林、昨日のような変な魔物居ないよね?」
「スルーなの?まあ、そもそも私のために、皆を巻き組んでるんだけど……。」

休憩後は、ルナに乗せてもらった。ステラは大分疲れているようだし、無理しない方が良いだろう。
「マスター、しばらく行くと、野性馬が群れで居るから気を付けてね。」
「そういえば、クレアのお父さんも馬だと言ってたね。でも、何を気を付けるの?」
「それは、そのうち嫌でもわかるわ。」

しばらく進むと、クレアが言ってた通り、馬がたくさん居た。ここは、天国かな?
何頭かがこちらに気付いたようで、向かって来た。
「ステラ、馬たちをブロックするわよ。」
「わかったわ。」
「えっ?なになに?」
こちらに向かって来る馬がどんどん増えてくる。ルナはかなりのスピードで走っているが、僕を乗せているし、相手は野性馬だけあって併走してるのも居る。
「ちょっと、着いて来ないでくれる?」
「えっ?ユニコーン?」
クレアが馬たちに注意すると、近くに居た馬たちがそれに気付いて少し距離を取った。しかし、まだ着いて来ている。
ずっと走り続ける訳にもいかないから、困ったな。
「間もなく母の管理エリアね。エリアに入ると気付かれそうだから、この辺りで止まるしかないわね。あの林が良いかも。」
「わかった。ルナ、お願い。」
「了解。」

その林に到着した時は、馬たちは大分減っていたが、まだ11頭も着いて来ていた。
クレアとステラが牽制してるので、ある程度以上近付かないが、逃げたりもしない。
誰だ、天国とか言った奴は……すみません、僕です。
「えーっと。君たち、何か用?」
「私もあなたと一緒に行きたいんだけど……。」
「私も連れてって!」
「撫でて!」
皆言いたいこと言ってて、収集着かなくなってるな。
「やっぱり、予想通りになったわね。」
クレアがそう呟いた。
「クレア、なんとかならないの?」
「良い手が思い付かないわ。」
「私がなんとかするわ。」
「ルナ?」
「皆さん、静かにしてください。」
「「……。」」
ルナの一言で静かになった。ルナ、凄いな。
「この人は私の夫でユウマ、私は妻のルナと言います。皆さん、ユウマに着いて来たいということで良いですか?」
「「はい!」」
「では、冷静になって考えてください。ユウマに着いてくるということは、自分の群れを捨てることです。ハーレムに属している人は、リーダーの牡馬を裏切ることになります。少しでも心残りがある方は群れに戻ってください。」

ルナの言葉にほとんどの馬が去って行った。やっぱり、群れから離れるのは厳しいよね。
残ったのは3頭で、それぞれ葦毛と鹿毛と青毛だ。
そう言えば、さっきまで集まっていた馬も含めて、皆これまで見た馬たちより少し大きい気がする。野生だからなのか、種類によるものなのかはわからないが……。
「あなた方は、大丈夫なのですか?」
「私はハーレムに属してないし、問題ないわ。」
「私も!」
「同じです!」
葦毛の馬、鹿毛の馬、青毛の馬が順にそう言った。
「では、もう一つ。これがクリアできれば、着いて来ても良いです。あなた方は厩舎に住み、銜や鞍を着けてユウマを乗せることになると思いますが、それでも問題ないですか?」
「そ、それは……。」
「……。」
葦毛の馬と鹿毛の馬は、急にこれまでの勢いがなくなった。
やっぱり嫌なんだ。これまで、馬に悪いことばかりして来たな。
「私は大丈夫です。昔は人を乗せてましたから。飼い主が嫌で逃げて来たんです。」
「そう。じゃあ、そちらのお二人は戻ってください。ユウマ、折角だから、撫でてあげたら?」
「えっ?良いの?」
「ちょっと待って、『クリーン』。」
「クレア、ありがとう。」
クレアは、僕に汚れた馬を触らせたくないんだろうな。
2頭は撫でてあげると気持ちよさそうにしていた。

2頭が去っていき、青毛の馬が残った。
ルナが出した条件をクリアしたから、連れて行かないといけないけど、どうするか……。
この世界の馬は知能が高そうだが、普通の馬と家の中で一緒にというのは難しいだろう。
元の世界で、馬と一緒に暮らすのを夢見て、どのような家を作るか考えたこともあったが、なかなか現実的な案が浮かばなかった。
今の家はかなりのものだが、馬が住めるようにはできていない。
ルナの言う通り、厩舎に住まわせるのが妥当だろうが、乗馬クラブに預けるのも可愛そうな気もするし……。
「あら?あなた、馬じゃないわね?」
「えっ?」
考え事をしている間に、クレアがその馬の所に行っていたようだ。
クレアの言ったことに対し、その馬も驚いている。
「クレア、何言ってるの?」
「この魔力は動物のものじゃないわ。」
ステータスを見てみるか。

================
種族:フォールン・ペガサス
年齢:5歳
性別:♀
HP:2,000/2,000
MP:15,000/15,000
能力値:
 力:C
 体力:C
 知力:C
 精神力:C
 素早さ:C
スキル:浮遊、魅了、翻訳
================

================
【フォールン・ペガサス】
ペガサスの一種で、主に地上で暮らす。
昔、ペガサスが下界に堕ちたものと思われたため、この種族名が付けられた。
基本的に翼はなく、能力値も低いため、馬と間違えられることも多い。
ただし、知能と魔力は高い。寿命は平均200年程度。

【浮遊】(アクティブ)
空中に浮かぶことができる。
飛行と違い、スキルに推進力は無い。ただし、空中で個体本来の移動方法を使うことが可能。

【魅了】(アクティブ、パッシブ)
対象を魅了することで、戦意を喪失させる。対象が異性の方が成功率が高い。
ただし、相手によっては、別の意味で危なくなる可能性があるため注意が必要。
また、本スキルの所有者は、併せて魅了耐性を持つ。
================

『別の意味で危なくなる』って……閲覧スキルの解説も、時々ツッコミ入れたくなるな。
「クレアの言う通り魔物だね。フォールン・ペガサスっていうらしい。」
「聞いたことないわね。」
「博識なクレアでも、知らないことあるんだね。」
その馬……ではなくて、フォールン・ペガサスの方を見ると、固まっていた。自分のステータスを見たのかも知れない。
前に呼ばれていた名前を知らないので、呼べない。というか、ステータスに名前が表示されていないということは、正式な名前にはなっていなかったのだろう。
「……知らなかった。」
「クレア、このにも、クリーンを掛けてあげて。」
「わかったわ『クリーン』。」
「うわぁ!」
「凄く綺麗ね。」
今まで薄汚れていたけど、クリーンを掛けたら漆黒の美しい毛並になった。
ルナに綺麗と言わしめるとは……。
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