異世界でも馬とともに

ひろうま

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第1章 異世界転移

11-お風呂

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「依頼達成の証明書にサインもらって来ました。」
「えっ?早すぎません?」
僕とルナは、ノアさんのところに来ていた。
クレアとステラは、することがあるからと森に戻ったが、何をするんだろう。バトルはさすがにしないと思うが。
「向こうに着いて、すぐに引き返して来たので。」
「それにしても、早いような。でも、サインもらってるし、問題ないですね。手続きしますので、お待ちください。あ、お金はどうしますか?」
「僕とルナの取り分は2,000Gでしたね。では、1,000G受け取って、1,000Gは預けます。」
「承知いたしました。」
「あ、そうだ。僕たちは、ワーテンのギルドで依頼受けることにしたので、ボルグさんに伝えておいてもらえますか?」
「わかりました。これからすぐ行かれるのですか?」
「えーと、ステラと結婚してから行きます。」
「ええっ!?」
経緯とかすっ飛ばしてしまったため、ノアさんは唖然としていた。
僕もルナのこと言えないな。

ギルドを出て、待合せ場所である森の入口に向かった。
「あなた、覚悟は出来てるの?」
「大丈夫だよ。」
ルナが僕を乗せて歩きながら振り向いて聞いて来た。なんのことかはわかっている。
この世界で結婚するには、お互いの想いを世界に認められなければならない。
元の世界のように愛のない――例えば財産目当てのような――結婚はできないということだ。
「あなたが、ステラのことを想っているのはわかってるわ。でも、それは大人の女性に対する想いなのか……。」
「……。」
「ごめんなさい。余計なことを言ったわね。」
「いや、心配してくれて、ありがとう。」
ルナが言おうとしたことは、よくわかった。
ステラに対する想いが、子供やペットに対する庇護欲みたいなものから来ているのではないか、ということだろう。
正直、自分でもそれは否定しきれなかった。しかし……。

そんなことを考えているうちに、森の入口に着いた。
そこには、クレアだけがいた。
「ステラは、奥で待ってるわ。こっちよ。」
ルナから降りて、クレアに着いて行く。どうして、わざわざ奥で待っているのだろう?
2~3分歩くと、少し開けた所にステラがいた。
「マスター、私たちはここで待ってるわ。」
「わかった。ありがとう。」

ステラは緊張した様子で立っていた。もちろん、僕も当然緊張していた。
「ステラ、待たせてごめんね。」
「ううん。あ、ちょっと待ってね。」
ステラはそう言うと、側に置いてあった数本の花を咥えて、僕に渡して来た。
「アタシらしくないけど、これ……って、あれ?」
「これを僕に?って、どうしたの?ステ……むぐっ」
ステラは急に体を押し付けて来たと思ったら、さらに口付けをして来た。
「ちょっと待って」と言おうとしたが、口が塞がれているので言えなかった。
それに、なんか変な感覚が襲って来た。なにこれ?ヤバい、ステラが凄く魅力的に見えてきた。
一旦、ステラの唇を離して、僕は言った。
「ステラ、愛してる!結婚してくれ!」
「ありがとう!私も愛してるわ!」
≪お互いの意思を確認しました。結婚を承認します。≫
僕は、改めてステラに口付けをして、そのまま優しくステラを押し倒した。

~~~
「マスター、ステラ、おめでとう!」
「おめでとう!」
「ありがとう。」
僕たちが正気に戻ると、クレアとルナが近づいてきてお祝いの言葉をくれた。
「あ、ありがとう。」
ステラも、恥ずかしそうにそれに応えた。
「ところで、クレア、言うことあるよね?」
「やっぱりバレた?その……ごめんなさい。」
「クレアが僕たちのことを思ってやったのはわかってるから、責めないよ。ステラはどうかな?」
「アタシも許してあげる。」
「ありがとう。」
クレアは、力なくそう言った。

~~~
「これどうやってお湯出すんだろう。」
「そこに、玉があるじゃない?そこに魔力流すのよ。」
夜になって、せっかくお風呂があるんだから入ろうと思ったのだが、お湯の出し方がわからなかった。
クレアに言われてよく見ると、注ぎ口の横に手のひらサイズの玉がある。僕は、そこに手を当てて、魔力を流すようにイメージした。
「おっ、お湯が出た。凄い勢いで出るんだな。それにしても、クレアはさすがだね。もしかして、入ったこともあるの?」
「ええ、元の主と一緒に入ってたわ。」
「じゃあ一緒に入ろう。ルナやステラはどうやって入るかわからないだろうから、見本を見せてあげてよ。」
「マスター、私とお風呂入りたいの?エッチね。」
「クレアはいつも裸なんだから、エッチもなにもない気がするけど……。」
「マスター、乙女心をわかってないわね。」
「誰が乙女だって?」

バカなやり取りをしている間に、お湯が溜まった。
先ずは、シャワーを浴びでからだな。
シャワーの横にも同じように玉があり、同じようにお湯を出すことができた。これ凄い技術じゃないんだろうか。
自分の体を洗い流した後、まずクレアをシャワーで洗う。
「後ろもしっかり洗ってね。」
「はいはい。」
クレアはクリーンを使っているから大丈夫だろうが、牝馬の汚れが溜まりやすい股の間や尻尾で隠れている部分も洗った。
「イヤ~ン、エッチ!」
「それが言いたかっただけだろう!」
自分で洗えって言っておいて、何がエッチだよ。
「でも、ほら。」
「あれ?」
クレアの見ている先を見ると……ヤバい、クレアが変な声出すから、僕の体の一部が無意識に反応したようだ。
悔しいから、反撃しておこう。
「クレアがあまりにも魅力的だから、仕方ないよ。」
「や、やっぱりそうよね。」

続けて、ルナ、ステラの順にシャワーで洗い流していく。
ルナは、元の世界でシャワー使ったことあるから、隅々まで洗っても問題なかった。
問題は、初めてシャワーを浴びるステラだが……。
「これ、気持ちいい。」
最初は戸惑っていたが、すぐに慣れたようだ。微妙な場所はどうしようか迷ったが、ステラが大丈夫というので洗った。おそらく皆と同じようにして欲しいのだろうけど、かなり恥ずかしがっていた。

湯槽に皆で一緒に浸かるのは無理なので、まず経験のあるクレアと一緒に入った。
やっぱり、湯槽に浸かるのは気持ちいい!こっちの世界で、こんなに早く風呂に入れるとは思わなかった。ジョーンズさんに感謝だな。
その後、ルナとステラがそれぞれ入った。皆、最初は躊躇していたが、浸かってみると気持ち良さそうにしていた。
本当に、風呂は最高だな!でも、これを経験すると、風呂なしの生活に戻りたくなくなる。
あれ?これってジョーンズさんの策略に嵌まっているのか?
ちなみに、タオルは事前に購入済み。実は、危うく忘れるところだったのだが、帰る途中で気づいて慌てて買いに行ったのだ。
ドライヤーも欲しいところだが、そんな感じのものは売ってなかった。魔法で温風が使える仲間がいると助かるが……まあ、ない物ねだりしても仕方ないな。

そして、こちらの世界に来て初めてのベッド。元の世界で浸かっていたベッドに比べると質は劣るが、草の上で寝るのと比べると天国だ。
それに、非常に大きい。ルナと一緒でも十分寝ることができる。何のために、こんなに大きく作ったんだろう?クレアとステラは、今日は別の部屋で寝るようだ。いつの間にか、皆でそういう風に決めたらしい。
ということで、ルナとベッドに入る。
「おやすみ、ルナ。」
「おやすみなさい。」

~~~
次の朝、ワーテンのギルドの受付で、コリーさんが言っていた依頼内容を見せてもらった。
ちなみに、ここの受付には獣人らしき人はいなかった。いや、特に意味はないけどね。

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件名:薬用水仙の採取
推奨ランク:A
報酬:35,000G
ポイント:4,000
内容:薬用水仙を10本採取する。本数が少ない場合や状態が悪い場合、報酬を減額する。また、10本を超えて採取しても報酬の追加はない。
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かなり稼げるし、ポイントも多いので、ランクアップにかなり近づく。
あと、これまで意識しなかったが、日付がギルドの掲示板に書かれていた。今日は7月15日らしい。
ちなみに、ジョーンズさんからもらった手帳を見ると、この世界では1ヶ月30日ずつの12ヶ月のようだ。

早速、ステラに家の裏庭からテレポートしてもらった。相変わらず、凄いと思う。
「この少し向こうにアタシの故郷があるの。」
岩場を超えると、狭い平地になっていた。かなり厳しい環境らしく、草もほとんど生えていない。
ステラは、中央の少し盛り上がった場所で立ち止まり、目を瞑った。僕も同じように目を瞑る。
暫くの沈黙……。
「ここがアタシの産まれた所。そして、母の亡くなった所なの。母は魔物を避けて、ここでアタシを産み、そして力尽きたのだと思う。アタシが気付いたときは、母ものと思われる2本の角だけが有ったわ。お父さんは、誰かわからない。魔物を避けていたはずの母が、誰と結ばれたのか……。」
「ステラ……。」
僕は、ステラを抱き締めた。
「でも、ユウマと結ばれてアタシは幸せになった。母もきっと喜んでいるはずよ。」
「そうだね。ステラと会えて僕も幸せだよ。」

しんみりしてしまったが、ステラも気持ちの整理ができたようなので、元来た方に歩き出した。
その時……。
「あれ?」
僕は、振り返った。そして、突然記憶が蘇った。
本当の記憶ではない、転移時に埋め込まれた記憶だ。この先に、神獣が封印されている!
「あなた、どうしたの?」
「どうやら、この先に神獣が封印されているようだ。」
「聞いたことがあるわ。この大陸に四体の神獣が封印されているらしいわね。」
そう言ったのは、クレアだ。
「クレア、それは前の主から聞いたの?」
「そうよ、過去の勇者が封印を解こうと挑んだけど無理だったということよ。」
「そうなんだね。だけど、僕は、その封印を解く使命があるんだ。」
「えっ?なにそれ。無理に決まってるじゃない!」
「ユウマならできるわよ!」
今まで黙っていたステラが、急に声をあげた。
「ステラ、あなた以前と態度変わりすぎよ。別人になったみたい。」
「そうよ、アタシは生まれ変わったのよ!」
「まぁまぁ……。僕が異世界から転移してきた話しはしたよね。」
僕は、二人にまだ話していなかった神獣の話をした。
それを聞いたクレアとステラは唖然としていた。
「まあ、今は一旦置いておいて、先に依頼を終わらせようか。」

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ルナに乗せてもらって湿原に入っていくと、すぐに水仙の群生地が有った。あれかな?

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種族:ハイ・ナルキッソス
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【ハイ・ナルキッソス】
ナルキッソスの上位種。
魔力が豊富な湿原に群生するが、通常群生地全体が地下茎により一つの個体である。
茎にある薬用成分は主にマナポーションの原料となるため、薬用水仙とも呼ばれる。
開花直後が最も薬用成分が多い。
無理に採取すると品質が劣化するため、注意が必要。
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これで合ってるな。っていうか、上位種なんだな。
しかし、無理に採取してはダメらしい。どうすれば良いのかな?

あ、リザードマンと思われる人(?)が3人話をしながらやって来た。怪しまれる前に話しかけてみよう。僕はルナから降りた。
「戦闘になったら、私に任せてね。」
クレアはそう言ってくれたが、戦闘にならないに越したことはない。
「ありがとう。でも、僕は攻撃されても大丈夫だから、相手が手を出すまでは待ってね。」
「わかったわ。」
「あのー、すみません!」
「あら、白馬に乗った王子様?」
「きっと、私に会いに来たのね!」
「何言ってるの。私によ!」
3人のリザードマンが、それぞれ勝手なことを言った。
話し方からすると女の子っぽいけど、僕にはちょっとムリだな。爬虫類は嫌いじゃないんだけど……。
「すみません、水仙を少々いただけないかと思って来たのですが。」
「あら、残念ね。」
3人のうちの1人がそう言った。他の2人もうなずいている。
何が残念なのか……おや、少し大きめのリザードマンが一人向かってきているな。
「お前たち、何者だ!」
リザードマンがトライデントを構える。やっぱり、リザードマンにはトライデントだよね。
クレアが僕を庇うように前に出ようとしたが、僕はそれを制した。
リザードマンは、それを見て驚いた様子だった。
「ユニコーンを従えてるとは、ただ者ではないな!」
「すみません。僕はただの冒険者で、その水仙を分けてもらいに来ただけです。すぐに出ていきますので。」
「お前、言葉が通じるのか?」
リザードマンは、さらには驚いたようで、トライデントを下げた。
「はい。それで、水仙をわけてもらえないですか?」
「その花のことか?その花は別に我らが所有しているわけではないから、採っても構わないぞ。ただし、採りすぎるなよ。」
「そうなんですね。10本だけもらっていきます。」
「終わったら、さっさと出ていけよ。お前たちも行くぞ!」
どうやら、あのリザードマンはあの3人を連れ戻しに来ただけみたいだな。
しかし、あのリザードマンは格好良かったな。ということは、あの3人娘が特別ぶ……いや、やめておこう。
「あのリザードマン、何言ってたの?」
「あ、そうか。クレアたちにはわからないのか。」
僕はリザードマンが言ってたことを、クレアとステラに伝えた。
「リザードマンって狂暴なんじゃなかったかしら。」
「きっと、習性でさっきみたいにトライデントを構えるから、相手が敵対していると思い込んで戦闘になるんだと思うよ。それはそうと、どうやって採取すれば良いのか……。」
「やっばり、言葉が通じるっていうのは大きいわね。」
「言葉か……。水仙にも話せば通じるかも。」
「そんなことないでしょう。」
「ハイ・ナルキッソスさん、申し訳ありませんが、10本採らせていただけませんか?できれば、咲き始めのをお願いします。」
クレアが呆れたように言っているのは無視して、水仙に向かってイメージを送りながら話し掛けてみた。
すると、比較的近い部分の茎が倒れてきた。集めてみるとちょうど10本。
「いただいて良いんですか?」
「「……。」」
当然返事はないが、折れたんだからもらっていって良いよね。
「すみません。ありがたくいただいて行きます。」
皆の方を振り替えると、クレアとステラが唖然としていた。一方、ルナはなぜか誇らしげだ。
「ステラ、アイテムボックスに入れてね。」
「え、ええ。」
「じゃあ、一旦依頼達成を報告に行こう。」
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