異世界でも馬とともに

ひろうま

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第1章 異世界転移

4-冒険者登録

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クレアに導かれながら15分位(体感的にだが)歩いたところで森を抜けた。僕はルナに乗ってただけだけど……。
もう少し掛かるかと思っていたが、意外と早かったな。
遠くに、壁のようなものが見えるが、あれが街だろうか?
クレアに聞くと、やはりあれが街らしい。この当りは魔物が多いため、外壁で守られているということだった。
近づいて行くと、向こうから人がやって来た。門番の人だろうか。
その人はある程度距離を取って止まり、声を掛けてきた。
「失礼ですが、あなたは?」
「ユウマと申します。道に迷って、クレア……このユニコーン達に街に案内してもらいました。」
「そ、そうなんですか。ユニコーンを名前で呼んでいるということは、もしかして従魔契約を結んだのですか?」
「はい。ユニコーンとバイコーンは、僕の従魔になってくれました。」
「……。」
なんか固まっているみたいだが、大丈夫だろうか。
「あのー、大丈夫ですか?」
「あ、すみません、ちょっと信じられなくて……身分証のようなものはありますか?」
「いえ、ご覧の通り、荷物はすべて失いました。」
「それは、お気の毒に……。」
嘘は言ってない。元の世界に置いて来てしまったからな。
門番らしい人は、僕のボロボロの服を見て、勝手に納得してくれたらしい。
「すみませんが、門の横に詰所があるので、しばらくそこで待っていてください。」
「わかりました。」

詰所でしばらく待っていると、さっきの門番の人がやって来た。
「ギルドマスターがユウマさんに来てほしいということです。私について来てください。あ、従魔も一緒にということです。」
「えっ?はい。」
ちょっと嫌な予感を覚えつつ、ついて行くと、大きな建物に着いた。多分ここがギルドなのだろう。
それっぽくないのは、こちらが裏口というか通用口みたいなものだからだと思う。
中に入ると、門番さんはある扉の前で止まり、ノックした。
「レターグです。先程連絡した者達をお連れしました。」
「入れ。」
「失礼します。」
門番の人、レターグっていう名前なんだな。

中に入ると、金髪でスタイル良い男性が座っていた。年齢は分かりにくいが、僕よりは年上だと思われる。
「はじめまして、ユウマと申します。こっちは、ルナ。あと、従魔のクレアとステラです。」
僕が軽く頭を下げると、ルナが続けて頭を下げた。クレアとステラはさすがに下げないか……。
「私は、この街『セラネス』のギルドマスターで、ボルムという。早速だが、そのユニコーンとバイコーンのことを聞かせてもらえるか?」
「はい……と言っても、彼女達は先程森で出会ったばかりでして……。従魔になってくれて、この街に案内してくれました。」
自分で説明しながら、意味不明だなと思ってしまった。
「……。」
あ、ボルムさんまで固まった!?
「あのー。説明がうまくできず、すみません。」
「あ、すまん。ちょっと、理解が追い付いて来なかった。その分だと知らないようだが、その二頭はギルドで捕獲依頼を出していたのだ。」
「えっ!?」
「従魔になってるのなら問題ない。捕らえたりしないから、安心してくれ。」
「あ、ありがとうございます。」
良かったー!かなり焦った。
「ユウマと言ったな。お前は依頼達成ということで報酬が出る。ただし、冒険者登録と、その二頭の従魔登録をしたらだが。」
「そうなんですか?従魔登録は必要だろうと思っていたので、お願いします。」
登録せずに、「これは僕の従魔です!」とか主張しても、信用されないだろう。
「わかった。登録料がいるのだが、報酬から差し引く形にした方が良いか?」
「すみません、それでお願いします。見ての通り、何も持ってないもので。」
「ちなみに、登録するとギルドカードに種族が表示されてしまうが、問題ないか?」
「えっ?」
あれ?ボルムさん、僕のステータス覗いたのかな?
「すまんが、勝手にステータスを見させてもらった。」
僕の思っていたことが伝わったみたいだ。

「よくわからないんですが、種族わかると問題になりそうですか?」
「ハイ・ヒューマンはめったにいないから、不安要素はある。まあ、お前ならなんとかなりそうだが……。」
クレアとステラが、ハイ・ヒューマンと聞いて、少し驚いた様子を見せた。
「なんとかなりそうな理由がわかりませんが、登録するのは決めてるので大丈夫です。」
ボルムさんは頷くと、今度はルナに向かって言った。
「ところで、お嬢さんも、冒険者登録するのかな?」
「えっ?私もできるんですか?」
お嬢さんって……。ルナはしゃべることができるのを隠しとこうと思っていたようだが、驚いてついついしゃべってしまったようだ。まあ、ルナもステータス見られているだろうから、隠す意味はないが。
「冒険者の登録に種族は関係ない。魔物も一応できるが、前例はないな。」
「動物は前例があるのですか?」
「ああ。直近では、別のギルドだが、ハイ・キャットの登録があった。お嬢さんが登録すれば、ハイ・ホースとしては初めてだな。」
クレアとステラが、また驚いている。
そう言えば、種族のことは話してなかったな。

「では、これに手をおいてくれ。」
ボルムさんは、そう言って、大きな水晶玉みたいなのを差し出してきた。
占いでもするのかな?って、そんなわけあるかい!多分基本的なステータスを読み取る装置だろう。
僕が手をおくと、玉は一瞬光って、カードが現れた。

================
名前:ユウマ
種族:ハイ・ヒューマン
性別:♂
年齢:35歳
ランク:D
従魔:ユニコーン、バイコーン
================

ん?ランクって最低がDなのかな?
次にルナが玉に前肢の蹄を置いた。玉が割れたりしないかちょっと心配になった。
心配は無用だったようで、カードが現れた。

================
名前:ルナ
種族:ハイ・ホース
性別:♀
年齢:9歳
ランク:D
================

「彼女のカードも、ユウマが持っておくか?」
「はい。そうします。」
「詳しい説明は、受付で聞いてくれ。」
ボルムさんが、2枚のカードを僕に渡しながら、そう言った。
「わかりました。これから、よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくな。ところで、ユウマは今後どうしていくのかな?」
「そうですね、しばらくこの街にいようと思いますが、その後は世界各地を回ってみようかと思っています。」
「そうか。困ったことなどあれば、相談に乗るぞ。あと、旅立ち時は、立ち寄って欲しい。」
「承知しました。ありがとうございます。」

~~~
その後、職員らしき人が受付まで案内してくれた。
なんか、元の世界の市役所みないな感じだな。まあ、ギルドカードが身分証明書になるのだから、この世界のギルドは市役所的な役割もしていると言えるかも知れない。
今の時間は人が少ない時間らしく、受付に並んでいる人もまばらである。
僕は、空いている一番近くの窓口に向かった。
「すみません。」
「ユウマさんですね、マスターから話は聞いてます。」
ネコの獣人らしい女性だ。ちょっと可愛い。いや、獣人さんだからこの窓口を選んだわけではナイヨ?……すみません、嘘です(汗)。
ふと横を見ると、ルナがジト目で見ていた。心の中の言い訳を読まないで!
「よく僕がわかりましたね。」
「連れているお馬さんたちを見れば、間違えることはないですよ。」
その人は、笑顔でそう言った。言われてみれば、そうだな。
「私は、ノアといいます。簡単に、ギルドについて説明させていただきます。」
「お願いします。」
語尾に「ニャ」は付かないんだな……いや、どうでも良いことだが。

ノアさんの説明によると、ギルドランクは基本登録時はPという初心者用ランク、その後F~Cまでポイント制で、その先のBおよびAは認定制らしい。あと、特例でその上もあるらしいが……まあ、今のところ気にしなくても良いだろう。
ちなみに、僕たちがいきなりDなのは、例の依頼達成ポイントによるらしい。
その依頼内容を見せてもらった。

================
件名:ユニコーンとバイコーンの捕獲
推奨ランク:A
報酬:20,000G
ポイント:5,000
内容:街の近くで暴れている、ユニコーンとバイコーンを捕獲すること。手段は問わない。なお、従魔契約した場合も、依頼達成とする。
================

『暴れている』って……彼女達、かなり迷惑掛けてたんだな。
それにしても、推奨ランクAってかなり高いのではないだろうか?
「この依頼はリスクが高いので推奨ランクがAでポイントも多いのですが、報酬は低めになってるんです。直接人的被害が出てないので。」
ユニコーンやバイコーンは、ランクAの魔物とされていて、通常Bランク以下の冒険者では危険過ぎるらしい。そう言えば、閲覧で見えるステータスには魔物のランクはなかったな。多分、ギルドが独自に設定したものだからだろう。
ちなみに、魔素の構成割合が高い生物を一般的に『魔物』と呼び、魔物のうち動物に近いものを『魔獣』と呼ぶらしい(厳密な定義はないみたいだが)。
そういえば、ユニコーンとバイコーンの説明にも『魔獣』とあったな。

ポイントと報酬についても、教えてもらった。
最も簡単な依頼で、報酬が10G・ポイントが1くらいらしい。確かに、この依頼はポイントの割りに報酬が低い。複数名で依頼を達成した場合、特に記載がなければ、報酬は全員で分配、ポイントは各自に入るらしい。
また、ランクアップに必要なポイントは、次のようになっているとのこと。
P→F:20ポイント
F→E:500ポイント
E→D:2,000ポイント
D→C:10,000ポイント
これを見ると、今回の依頼のポイントがかなり高いことがわかる。
「ところで、推奨ランクと受けることができるランクは違うんですか?」
「はい。推奨ランクはあくまで推奨であって、ランクを制限するものではありません。あまりに無謀と思われる場合は、止めることもありますが、冒険者は基本自己責任ですので……。逆に、高ランク者が低ランク者の依頼を奪ってしまわないよう、上限ランクを設定してある依頼もあります。」
「成る程です。」
「それでは、こちらが今回の報酬19,900Gになります。お二人のギルド登録料と従魔登録料の合計100Gを差し引いてます。」
「お金を預けることはできるんですか?」
「できますよ。ギルドカードを持って来られれば、引き出せます。預けられますか?」
「お願いします。えーと、この街の相場がわからないのですが、1,000Gくらい持ってればなんとかなりますか?」
「それくらいあれば、しばらくは大丈夫でしょう。高価な武器や防具等を買うなら別ですが。」
「わかりました。ありがとうございます。それでは、1,000Gを残して預けます。」
「承知しました。あと、質問等ありますか?」
「そうですね……あ、そうだ。ルナ達と一緒に泊まれるところはありますかね?」
「申し訳ありません。この辺りだと、馬は厩舎になりますね。」
「そうですか。では、街の外に出るのは問題ないですか?」
「門番にギルドカードを見せれば出入りはできますが、夜の間は出入りできません。外は魔物もいるので、気を付けてください……あ、失礼しました。」
おそらく、クレアとステラに気を遣ってくれたのだろう。
「大丈夫です。ありがとうございました。」
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