異世界から来た馬

ひろうま

文字の大きさ
19 / 39
第3章 危機

第16話 予感

しおりを挟む
◆Side アイリス◆
「アイリス、見て見て!」
無事、馬場を踏み終わり、暫く仮馬房で休んでいると(この馬房ではあまりゆっくり休めないが……)、シメイが何かを持ってやって来た。
「……?」
見てと言われても何かわからないので、首を傾げると、シメイは苦しそうにしていた。
あ、この仕草をしたらダメって言われたんだった。
まあ、今周りにシメイしかいないから大丈夫かな。
「えーと。これは、賞状とリボンといって、上位入賞した人馬に贈られるものなんだ。で、青いリボンは優勝した馬のためのものだよ!」
「……。」
凄く嬉しそうに言うシメイに、私はおめでとうの意味を込めて、頭を彼に擦り付けた。
周りに人はいないが、誰に聞かれるかわからないため、しゃべるのは危険だ。
「ありがとう。アイリスのお陰だよ。」
シメイは、そう言って私の頚を撫でた。

~~~~~~~~~~
夜、自分の馬房で寝ていると、シメイの声がした。
「アイリス、今日はありがとう!あ、もしかして寝てた?起こしてごめんね。」
今日はほぼ一日会場の仮馬房だったので、自分の馬房に安心感を覚えて、いつもより早く寝てしまっていた。
「問題ないわ。それに、もうお礼は何度もされたわよ。今日はこんな時間にどうしたの?」
「競技会があった日には、皆でウチアゲ……えーと、集まって飲み食いするんだ。それが、今終わったんだよ。」
「そうなの?大変ね。」
皆疲れてるはずなのに、わざわざそんなことをするとは、人間というのは不思議だ。
「まあ、僕はあまりそういうの好きじゃないんだけど……。まあ、付き合いで参加してる感じかな。」
「……。」
どうも、人間というのは『付き合い』というのを大切にするらしい。
そこは、群れで生活する馬である私にもわからなくはないが、なんとなく私たちの感覚とは違う気がする。
「あ、それよりも、今日の僕はどうだった?」
その後、二人で暫く今日の内容について振り返りをした。

◆Side 紫明◆
「第一位、浅谷紫明殿、乗馬アイリス号。」
僕は表彰式で、賞状と青リボンを受け取った。

林藤先輩の言葉で落ち着くことができた僕は、ミスもなく演技を終えることができた。
アイリスの良さも皆に見てもらうこともできたし、成績についてはあまり気にしていなかった。
出場競技を高めのレベルにしたため、出てくる選手は名の知れた人も多いし、他の乗馬クラブの指導者もいたから、入賞も難しいと思っていたからだ。
それが、まさかの一位とは……。
自分ながらびっくりだ。

「おめでとう!」
表彰式を終えた僕に、林藤先輩が真っ先に来てそう言ってくれた。
「ありがとうございます。先輩のお蔭です。」
「そんなことないわよ。それより、アイリスに報告しときなさい。」
「そうですね。ありがとうございます。」
僕は急いで、アイリスの所に向かった。

「アイリス、見て見て!」
アイリスの所に行くと、僕は賞状と青いリボンを見せた。
「……?」
アイリスはそれが何かわからなかったようで、首を傾げた。
可愛過ぎるんだけど……。
僕は、賞状とリボンについて簡単に説明した。
本当は競技会の内容について話したかったけど、こんな所ではアイリスが声を出せない。
乗馬クラブに戻ってから、話しをしようと心に決めた。

~~~~~~~~~~
その夜は競技会の打ち上げがあった。
僕はあまり飲み会の類いは好きでないが、参加しない訳にもいかない。
特に今日は僕が一位を取ったことを祝うという名目もあるから尚更だ。
ただし、お酒にあまり強くない僕は、なるべくお酒は飲まないように立ち回った。
この後、アイリスに今日の僕について感想を聞かなければならないからだ。
僕はアイリスと話しをするのを楽しみにしつつ、打ち上げが早く終わることを願うのだった。

◆Side 林藤◆
打ち上げが終わり、皆帰り支度を始めた。
紫明は、アイリスの所に行ったようだ。
どれだけ、アイリスのことが好きなのか。
ちょっとだけ妬ける……いや、これはきっとアイリスに対してではなく、紫明に対してだ。
私も馬に好かれるとは思うが、アイリスが紫明を好きなのは、そういうのとは訳が違うのだから……。

「今日はお疲れ様。ちょっと良いかな?」
私も帰り支度を始めようとしたとき、社長が声を掛けてきた。
「お疲れ様でした。大丈夫ですが、どうかしましたか?」
社長が私に声を掛けてくるのは珍しい。
なので、自然と身体に力が入ってしまった。
「今日紫明が乗った馬……アイリスだったか?あの馬のことなんだが……。」
私は凄く嫌な予感がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...