異世界から来た馬

ひろうま

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第3章 危機

第16話 予感

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◆Side アイリス◆
「アイリス、見て見て!」
無事、馬場を踏み終わり、暫く仮馬房で休んでいると(この馬房ではあまりゆっくり休めないが……)、シメイが何かを持ってやって来た。
「……?」
見てと言われても何かわからないので、首を傾げると、シメイは苦しそうにしていた。
あ、この仕草をしたらダメって言われたんだった。
まあ、今周りにシメイしかいないから大丈夫かな。
「えーと。これは、賞状とリボンといって、上位入賞した人馬に贈られるものなんだ。で、青いリボンは優勝した馬のためのものだよ!」
「……。」
凄く嬉しそうに言うシメイに、私はおめでとうの意味を込めて、頭を彼に擦り付けた。
周りに人はいないが、誰に聞かれるかわからないため、しゃべるのは危険だ。
「ありがとう。アイリスのお陰だよ。」
シメイは、そう言って私の頚を撫でた。

~~~~~~~~~~
夜、自分の馬房で寝ていると、シメイの声がした。
「アイリス、今日はありがとう!あ、もしかして寝てた?起こしてごめんね。」
今日はほぼ一日会場の仮馬房だったので、自分の馬房に安心感を覚えて、いつもより早く寝てしまっていた。
「問題ないわ。それに、もうお礼は何度もされたわよ。今日はこんな時間にどうしたの?」
「競技会があった日には、皆でウチアゲ……えーと、集まって飲み食いするんだ。それが、今終わったんだよ。」
「そうなの?大変ね。」
皆疲れてるはずなのに、わざわざそんなことをするとは、人間というのは不思議だ。
「まあ、僕はあまりそういうの好きじゃないんだけど……。まあ、付き合いで参加してる感じかな。」
「……。」
どうも、人間というのは『付き合い』というのを大切にするらしい。
そこは、群れで生活する馬である私にもわからなくはないが、なんとなく私たちの感覚とは違う気がする。
「あ、それよりも、今日の僕はどうだった?」
その後、二人で暫く今日の内容について振り返りをした。

◆Side 紫明◆
「第一位、浅谷紫明殿、乗馬アイリス号。」
僕は表彰式で、賞状と青リボンを受け取った。

林藤先輩の言葉で落ち着くことができた僕は、ミスもなく演技を終えることができた。
アイリスの良さも皆に見てもらうこともできたし、成績についてはあまり気にしていなかった。
出場競技を高めのレベルにしたため、出てくる選手は名の知れた人も多いし、他の乗馬クラブの指導者もいたから、入賞も難しいと思っていたからだ。
それが、まさかの一位とは……。
自分ながらびっくりだ。

「おめでとう!」
表彰式を終えた僕に、林藤先輩が真っ先に来てそう言ってくれた。
「ありがとうございます。先輩のお蔭です。」
「そんなことないわよ。それより、アイリスに報告しときなさい。」
「そうですね。ありがとうございます。」
僕は急いで、アイリスの所に向かった。

「アイリス、見て見て!」
アイリスの所に行くと、僕は賞状と青いリボンを見せた。
「……?」
アイリスはそれが何かわからなかったようで、首を傾げた。
可愛過ぎるんだけど……。
僕は、賞状とリボンについて簡単に説明した。
本当は競技会の内容について話したかったけど、こんな所ではアイリスが声を出せない。
乗馬クラブに戻ってから、話しをしようと心に決めた。

~~~~~~~~~~
その夜は競技会の打ち上げがあった。
僕はあまり飲み会の類いは好きでないが、参加しない訳にもいかない。
特に今日は僕が一位を取ったことを祝うという名目もあるから尚更だ。
ただし、お酒にあまり強くない僕は、なるべくお酒は飲まないように立ち回った。
この後、アイリスに今日の僕について感想を聞かなければならないからだ。
僕はアイリスと話しをするのを楽しみにしつつ、打ち上げが早く終わることを願うのだった。

◆Side 林藤◆
打ち上げが終わり、皆帰り支度を始めた。
紫明は、アイリスの所に行ったようだ。
どれだけ、アイリスのことが好きなのか。
ちょっとだけ妬ける……いや、これはきっとアイリスに対してではなく、紫明に対してだ。
私も馬に好かれるとは思うが、アイリスが紫明を好きなのは、そういうのとは訳が違うのだから……。

「今日はお疲れ様。ちょっと良いかな?」
私も帰り支度を始めようとしたとき、社長が声を掛けてきた。
「お疲れ様でした。大丈夫ですが、どうかしましたか?」
社長が私に声を掛けてくるのは珍しい。
なので、自然と身体に力が入ってしまった。
「今日紫明が乗った馬……アイリスだったか?あの馬のことなんだが……。」
私は凄く嫌な予感がした。
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