異世界から来た馬

ひろうま

文字の大きさ
9 / 39
第1章 出会い

第6話 手入れ(騎乗前)

しおりを挟む
◆Side アイリス◆
厩舎から何頭か馬が連れ出されたのを見送った後、やっとシメイがやって来た。
彼の姿を見ると、安心する。
「アイリス、ここに置いてもらえることになったからね!」
「……。」
私は敢えて反応しないようにした。
誰が見ているかわからないからだ。
「ん?あまり食べてないね。食欲ないのかな?」
「……。」
私の飼い桶を覗き、そう聞いてくるシメイに、私は黙って首を振った。
この首を振る行動は馬がよくやるので、万一見られてもたまたまだと思うだろう。
「後で話聞かせてね。これから、運動するよ。これを着けさせてね。」
シメイは私の耳の側で小声で囁き、私に無口を着けた。

外に出た私は、繋ぎ場に繋がれた。
繋ぎ場には、既に数頭の馬が繋がれていた。中には馬装されている馬もいる。
「裏堀りするから、肢を持たせてもらうね。はい、この肢。」
「……。」
シメイは鉄爪を持ってそう言うと、私の左前肢を持った。
私はその肢を上げると……。
「ありがとう。……よし、次はこの肢。」
「……。」
シメイはそんな感じで、肢を持つ度に声を掛けて来る。
これ、私以外でもこうなのだろうか。
若干鬱陶しいが、気遣いは感じる。
「次は、ブラシを掛けるね。」
シメイは、ブラシを持ってそう言った。
私はブラシ掛けが好きではない。
元の世界ではクレアおばさんがクリーンを掛けてくれてたので、そもそもブラシを掛けてもらう必要はなかったのだが、お父さんが会員さんに手入れを覚えてもらうためにとブラシを掛けさせていた。
お父さんが見本を見せる時にはそんなことはないのだが、会員さんがやるとくすぐったかったり変な感じがしたり、兎に角気持ち良くない。
でも、こっちの世界ではクリーンを掛けてくれる人はいないだろうし、受け入れるしかないだろう。
ということで、シメイにブラシ掛けをしてもらったのだが……。
「……!」
気持ち良くてビックリ!
思わず声を出しそうになった。
そして、ブラシ掛けが進むに連れて眠くなっていった。
「凄くキレイだ。」
シメイの言葉に目が覚めた。
そんな、キレイだなんて……。と、思ったが、よく考えると私は馬房で汚れが付かない様にしているから、他の馬の様に汚れていないという意味だろう。
私は誤解したことを恥ずかしく思い、シメイをちらっと見ると、なぜか彼も恥ずかしそうな表情だった。

◆Side 紫明◆
アイリスは、今日は調馬索と井沢先輩が少し乗ってみるということになった。
井沢先輩は男性で、ここでは最もレベル高いと言われている。
アイリスが、満足してくれると良いのだが……。
僕はそう思いながら、アイリスの馬房に向かった。

「アイリス、ここに置いてもらえることになったからね!」
「……。」
さっきは社長がいて言えなかった事を、アイリスに伝える。
アイリスは用心のためか黙ったままだ。
僕は無口を持ってアイリスの馬房に入り、飼い桶の中を確認した。
「ん?あまり食べてないね。食欲ないのかな?」
「……。」
アイリスは、首を振った。
馬が時々やる様な仕草だが、もちろんたまたまではなく、僕の問いに否定の答えを返しているのだろう。
他の馬を見て、これなら問題ないと思ったのだろう。さすが、アイリス!
「後で話聞かせてね。これから、運動するよ。これを着けさせてね。」

アイリスを繋ぎ場に繋ぎ、先ずは裏掘りだ。
僕はアイリスを人間の女の子と同等に見てしまっているため、肢を持つのもちょっと憚れるが、やむを得ない。
裏掘りの後は、ブラシを掛ける。
しかし、ほとんど汚れてない。
綺麗好きな馬でも少しは汚れるのに、アイリスは全くと言って良い程汚れていなかった。
汚れていなくても、ブラシ掛けはマッサージ効果も有るし毛艶も良くなるので、欠かせない。
僕は丁寧にブラシを掛けていった。
アイリスは気持ち良さそうに……というか、ほとんど寝てるし……。
まあ、嫌がってないのは明らかで、僕はブラシ掛けを続けた。
ブラシを掛けると、アイリスの被毛の輝きが一段と増した。
「凄く綺麗だ。」
思わず呟いた言葉に、アイリスが反応した。
今の言葉を聞かれたと思うと、恥ずかしい。
ふとアイリスを見ると、なぜかアイリスも恥ずかしがっている様に見えた。
馬装は井沢先輩が自分ですると言ってたから、以降は先輩に任せた。

「終わったから、手入れは任せたぞ。」
厩舎作業をしていると、井沢先輩が声を掛けて来た。
「はい。どうでした?」
「良い馬だ。前進気勢も有るし、扶助への反応も良い。思ったより、調教も進んでるな。ちょっとやる気あり過ぎるが、まだ若いから仕方ないだろう。良いか拾い物をしたな。」
「それは、良かったです。」
歩きながら話している先輩に着いて行く。
拾い物って……と思ったが、捨て馬という設定にした僕には文句を言う資格はない。
「あと、思ったんだが、悠馬の調教に似てるな。」
「そ、そうなんですか?」
僕は内心焦った。
それは、悠馬さんが調教したから当然そうなる。
悠馬さんが調教した馬は、僕でもわかるのだから。
「ああ。悠馬に指導受けた奴が作ったのかも知れない。と言っても、そんな奴に心当たりはないが……。」
「そうですか。」
先輩の言葉を聞いてほっとした。
まあ、悠馬さんが異世界に行って調教したとか、絶対に思い付か……。
「悠馬が実は生きていて、どこかで調教したとか……なんてな!」
「ははは、先輩も冗談言うんですね。」
心臓に悪いこと言わないで欲しい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...