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epilogue
2.そるとるな
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「初瑠、待ってよ」
瑠奈が、後ろから呼びかける。
小学校から帰ってきたあと、近所の公園にサッカーの試合をしに行く途中だった。
高い堤防を越えた向こうにある、河川敷の公園だ。
もうすこし行ったところには、きちんとした階段やスロープもあるが、面倒くさいので近所の子供たちはみな、草が植えられた斜面を登っていくことが多かった。
初瑠と瑠奈も同様で、スポーツが得意な初瑠はさっさと登っていくのだが、そういったことがあまり得意でない瑠奈は、今のようについて行くのもやっとであることが多かった。
初瑠は足を止め、振り返る。
「遅れちゃうよ。ほら」
手を伸ばして瑠奈と繋ぐと、力を入れて引き上げる。
「あーあ、やだなあ」
なんとか初瑠に並ぶ位置まであがったのはいいが、瑠奈は唇を尖らせて足を止めてしまった。
「なにが?」
「またサッカーやるんでしょ? いつも初瑠と比べられちゃうし、もうやだ」
半べそになりかける瑠奈に、初瑠は困ったように繋いだ手を前後に揺らした。
「サッカー、嫌いなの?」
「嫌いじゃないよ」
空いているほうの手で目をこすりながら、瑠奈は首をふる。
「初瑠だったらできるのに、っていつも言われるのが嫌なの。チームわけのときだって、あたしが入ったらみんながっかりするんだもん」
たしかに、思い返してみれば、そんな雰囲気があったような気がする。
瑠奈が嫌な気持ちになるのも、あたりまえだと思った。
「あ、じゃあ……!」
そこで、初瑠は思いついた。
「入れ代わって、瑠奈はあたしの、あたしは瑠奈のふり、しよっか。そしたらみんな、どっちがどっちかなんて、わからなくなるよ」
「そうかな」
「そうだよ。だって、瑠奈だってサッカー、下手じゃないと思うもん。みんながそう言うから、そうなっちゃうのかもよ。試してみようよ」
なかば、いらずら心だった。
だが面白いもので、初瑠だと思うと、みんなは瑠奈にもどんどんパスを回すようになった。結局、そのおかげで初瑠のふりをした瑠奈はその日のMVPとも言える活躍を見せた。
「ほらね」
試合が終わると、初瑠は瑠奈に笑いかけた。
「あたしはあたしでノーマークだから色々できて面白かったし。また入れ代わり、やろうよ」
瑠奈も笑って頷いた。
それからも色々な場面で、他人には知られないまま、初瑠と瑠奈はしょっちゅう入れ代わっていた。
ひとつ違いとはいえ、体格もほぼ同じ、顔もそっくりなうえ、二人とも意図して似たような髪型、服や小物を選び続けたので、入れ代わっても気づく者はいなかった。
そるは、るな。
るなは、そる。
それは、ふたりにとってずっと、無邪気ないたずらだった。
まさかそのことが、将来、自分が誰なのかわからなくなる恐怖に変わることなど、予想すらしていなかった。
瑠奈が、後ろから呼びかける。
小学校から帰ってきたあと、近所の公園にサッカーの試合をしに行く途中だった。
高い堤防を越えた向こうにある、河川敷の公園だ。
もうすこし行ったところには、きちんとした階段やスロープもあるが、面倒くさいので近所の子供たちはみな、草が植えられた斜面を登っていくことが多かった。
初瑠と瑠奈も同様で、スポーツが得意な初瑠はさっさと登っていくのだが、そういったことがあまり得意でない瑠奈は、今のようについて行くのもやっとであることが多かった。
初瑠は足を止め、振り返る。
「遅れちゃうよ。ほら」
手を伸ばして瑠奈と繋ぐと、力を入れて引き上げる。
「あーあ、やだなあ」
なんとか初瑠に並ぶ位置まであがったのはいいが、瑠奈は唇を尖らせて足を止めてしまった。
「なにが?」
「またサッカーやるんでしょ? いつも初瑠と比べられちゃうし、もうやだ」
半べそになりかける瑠奈に、初瑠は困ったように繋いだ手を前後に揺らした。
「サッカー、嫌いなの?」
「嫌いじゃないよ」
空いているほうの手で目をこすりながら、瑠奈は首をふる。
「初瑠だったらできるのに、っていつも言われるのが嫌なの。チームわけのときだって、あたしが入ったらみんながっかりするんだもん」
たしかに、思い返してみれば、そんな雰囲気があったような気がする。
瑠奈が嫌な気持ちになるのも、あたりまえだと思った。
「あ、じゃあ……!」
そこで、初瑠は思いついた。
「入れ代わって、瑠奈はあたしの、あたしは瑠奈のふり、しよっか。そしたらみんな、どっちがどっちかなんて、わからなくなるよ」
「そうかな」
「そうだよ。だって、瑠奈だってサッカー、下手じゃないと思うもん。みんながそう言うから、そうなっちゃうのかもよ。試してみようよ」
なかば、いらずら心だった。
だが面白いもので、初瑠だと思うと、みんなは瑠奈にもどんどんパスを回すようになった。結局、そのおかげで初瑠のふりをした瑠奈はその日のMVPとも言える活躍を見せた。
「ほらね」
試合が終わると、初瑠は瑠奈に笑いかけた。
「あたしはあたしでノーマークだから色々できて面白かったし。また入れ代わり、やろうよ」
瑠奈も笑って頷いた。
それからも色々な場面で、他人には知られないまま、初瑠と瑠奈はしょっちゅう入れ代わっていた。
ひとつ違いとはいえ、体格もほぼ同じ、顔もそっくりなうえ、二人とも意図して似たような髪型、服や小物を選び続けたので、入れ代わっても気づく者はいなかった。
そるは、るな。
るなは、そる。
それは、ふたりにとってずっと、無邪気ないたずらだった。
まさかそのことが、将来、自分が誰なのかわからなくなる恐怖に変わることなど、予想すらしていなかった。
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